和食を科学する料・理・理・科

ハーブ&スパイス×淡水魚の可能性

2022.09.28
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連載:和食を科学する料・理・理・科

前回は、琵琶湖の幸など滋賀食材に特化した『ひさご寿し』の店主・川西豪志(たけし)さんが、川崎寛也先生と「淡水魚の匂いを“変換”する」というテーマに取り組みました。養殖の鯉に対して、23種ものスパイス&ハーブで「香りのスクリーニング」実験を行い、その結果、選ばれたのは、ブラウンマスタード、タラゴン、マーガオ(馬告)、バイマックルーの4種。今回は、川西さんが淡水魚の下処理として行う「油霜(あぶらしも)」の効果を検証しつつ、鯉の新作誕生までをレポートします。川西さんの料理の腕と、スパイス&ハーブの効果によって、淡水魚はどんな香りの料理に仕立てられるでしょうか。

文:河宮拓郎 / 撮影:高見尊裕
川西豪志さん(滋賀・近江八幡『ひさご寿し』店主)

近江八幡出身。10代から『ひさご寿し』で修業の後、有馬の温泉旅館で日本料理全般を5年間学び、再び『ひさご寿し』へ。縁あって先代の娘さんと結婚し、店を継ぐ。当時は「鯉の飴焼きとか、子どもの頃から食べ慣れた川魚料理しかできなかった」そうだが、滋賀ならではの食材や郷土料理について意欲的に勉強。今や、滋賀県日本調理技能士会理事・龍谷大学非常勤講師など多彩な肩書きを持つ。https://www.hisagozushi.com/

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。

淡水魚の匂いは、水にも酒にも油にも溶ける!?

川西豪志(以下:川西)
前回のスクリーニング実験で勝ち残った、ブラウンマスタードシード、タラゴン、マーガオ、バイマックルーは、それぞれ鯉の匂いを美味しそうな香りに“変換”してくれました。しかも、和食の範疇から飛び出すことのない優しい香りでしたね。
川崎寛也(以下:川崎)
その4種を海水魚のアコウに試してみたら、これが全滅。まったく美味しそうな匂いにならない!というサブ実験の結果も面白かった。匂いの成分が淡水魚と海水魚では異なるから、合わせて相性のいい香りも違う、ということがよく分かりましたね。
川西:
淡水魚の匂いをスパイス&ハーブで変換する、という発想がとにかく新鮮でした。今まで僕は、高温の油を皮目にかける「油霜」で匂いをコントロールしてきたのですが…。これって、調理科学的に効果はあるんでしょうか?
川崎:
前回もお話しましたが、淡水魚特有の匂いの主成分は、アンモニアにも似た悪臭を持つ有機化合物の「ピペリジン」。この物質は水にもアルコールにもよく溶けます
また、淡水魚には土臭、カビ臭の原因となる「ゲオスミン」や「2-メチルイソボルネオール(2-MIB)」という匂い成分もあって、こちらは水には溶けにくく、アルコールや油によく溶ける性質があります。

これらの匂いは、主に体表のぬめりや皮、内臓に由来することが多い。ですから、加熱するのが最も有効です。酒・油を使った加熱は、どちらも効果がありそうですが…。
川西:
前回の実験では、養殖の鯉をさっと湯通しし、「湯霜(ゆしも)」にしましたが、そのまま嗅ぐと匂いがまだ残っていましたよね。この湯霜と比較して、油霜の効果をぜひ知りたいです。
川崎:
個人的には、酒煎りの効果にも興味があります。淡水魚のすべての匂い成分は酒に溶けますから。
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