和食を科学する料・理・理・科

レンコンの食感をデザインする【ホクホク編】

先月に続いて、今回もレンコンの食感を科学します。【シャキシャキ編】に続いて今回は【ホクホク編】。東京・富ヶ谷の『七草』店主・前沢リカさんが、農学博士・川崎寛也先生と共に試みた実験をレポートします。始まりは、前沢さんの「レンコンを煮物にした時、ホクホクとした食感に仕上げたいと思っているのですが、上手くいく時とそうじゃない時があって…」という疑問から。揚げる・茹でる・蒸すの基礎実験を経て、さて、どうホクホクの食感はデザインされたのでしょうか?

文:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平
前沢リカさん(東京・富ヶ谷『七草』店主)

茨城県出身。鰻屋の三女に生まれ、幼少期から厨房で育つ。大学卒業後にファッション企業に勤めた後、料理の世界へ転身。東京都内の老舗江戸料理店などを経て、2003年東京・下北沢に、『七草』をオープン。2017年、現店舗に移転。料理教室も手掛ける。「野菜の料理教室」(エンターブレイン)など著書多数。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」(柴田書店)。

ホクホク感とでんぷんの関係

前沢リカ(以下:前沢)
前回は、レンコンをなますサラダにする際、色白で、シャキシャキとした食感にしたいということで実験をさせていただきました。薄くスライスして水にさらし、酢水でさっと茹でたレンコンが向いていると分かって嬉しかったです。
川崎寛也(以下:川崎)
いつもの仕事には意味があった、ということが確認できましたね。
レンコンの黒ずみのもととなるポリフェノールは、ポリフェノールオキシダーゼという酵素によって酸化されて変色する。酢を使うと、この酵素が酸性になるので、変色を抑えることができたということですね。
と同時に、ペクチンを硬化させるペクチンメチルエステラーゼ(PME)という酵素は、50~60℃で活性化すると硬さが保たれますが、この時、pH4の液体で加熱すると、PMEはさらに活性化するので、酢水で薄切りレンコンを茹でるとシャキシャキとした食感になったわけですね。
前沢:
PMEを活性化させるため、湯温を50~60℃に保って10分ほど薄切りレンコンを茹でる実験もしましたが、あのガリガリとした食感は衝撃でした!
川崎:
火が通っているのに、生で食べているような歯ごたえ、というのが面白かったですね。
そして今回は、煮物にした時のレンコンの食感をデザインしたいということでしたね。
前沢:
私は、ホクホクとした食感に仕上げたいと思っているのですが…。
川崎:
食感の言葉というのは、人によって認識が異なります。
前回もお話しした通り、レンコンにはでんぷんが多く含まれています。でんぷんは90℃以上で加熱して糊化させないと消化できないんですね。
レンコンを90℃以上で煮ると、煮汁を含んでふくらみ、粘性が増して軟化します。。柔らかく粘りのある食感になるはずですが、これがレンコンや芋類の場合はホクホク感に繋がるのか。今回はそこを確認しなければいけません。
前沢:
江戸料理の「おから炊き」に、私はレンコンや銀杏、椎茸、栗を入れるんですが、この時のレンコンはホクホクもっちりの食感にしたいと思うんです。栗のホクッとした感じとはまた違うような…。
川崎:
今回は、でんぷんの糊化による食感をどうコントロールするか?がテーマになると思います。
90℃以上で野菜を加熱すると、細胞壁と細胞壁をくっつけているペクチンが柔らかくなって、細胞にある水分が流れ出ます。この時、できるだけ水分を保持した状態に火入れできると、みずみずしいとか、しっとりした食感になります。ホクホクというのは、どちらかと言うと水分がやや少ない状態ではないか?と思うんですよね。
前沢:
「おから炊き」にするレンコンは煮含めて使うのですが…。
川崎:
煮たり、茹でたりする加熱法は、湯や煮汁などに触れることで温度を上げるでしょう。この時、レンコンから水分は流出しますが、湯や煮汁の水分も含みます。
蒸すというのは、蒸気によって加熱が行われますから、レンコン自体の水分は少なくなると思います。それよりも、さらに少ないのは、揚げる、ではないかな?と。
とにかく実験してみましょう!
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