和食を科学する料・理・理・科

サクふわっとした天ぷら衣にするためには? vol.1粉編

「サクふわっとした衣にする条件を解明できたら嬉しいです」。2016年の創業60周年を機に天ぷらカウンターを新設。京都・伏見の料亭『清和荘』三代目の竹中徹男さんが追い求めているのは、若き日の修業先・大阪『つる家』で大先輩が揚げていた“衣がおいしい”エビの天ぷら。今も鮮明に記憶が残る理想の食感を再現するべく実験を重ね、農学博士・川崎寛也先生と“天ぷら衣のメカニズム”に迫ります。3回に分けてお届けする初回のテーマは“粉”。はたして小麦粉のグルテンは、衣の食感にどう関わっているのでしょうか?

文:川島美保 / 撮影:香西ジュン / イラスト:多保正則
竹中徹男さん(京都・伏見『清和荘』三代目)

1963年京都生まれ。同志社大学で経済や経営を学んだ後、大阪にある日本料理の老舗『つる家』での修業を経て、1990年に家業の料亭に戻る。数寄屋造りの館に似合う伝統を重んじた料理を基本にしつつ、知的好奇心が旺盛で柔軟な性格。勉強会にも積極的に参加して、情報のアップデートを欠かさない。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」(柴田書店)。

衣の食感が悪くなるのはグルテンのしわざ?

竹中徹男(以下:竹中)
今の天ぷらは薄衣が主流で、カリッ、サクッとした食感が好まれていますが、私の考えはちょっと違って…。天ぷらは、素材を衣の中で蒸す料理だと思うので、衣はある程度の厚みが必要。食感としては、サクふわっが理想です。
川崎寛也(以下:川崎)
“サクッ”と“ふわっ”は分けて考えた方がよさそうですね。まず、天ぷらのメカニズムをおさらいしておきましょう。

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竹中:
たんぱく質の変性というのは、この場合、火が入って食べられる状態になる、と考えたらいいですね。
川崎:
そうですね。詳しく説明すると、たんぱく質の変性とは、たんぱく質分子の立体構造が変化して、見た目や性質が変わることです。
この図を見ても分かる通り、サクッとした歯触りにするためには、衣の水分の適度な蒸発が必須。そのためには天ぷら衣の粘度を低くすることが重要です。粘度を抑えるためには、小麦粉によるグルテンを作りすぎないようにしなければなりません

■グルテンとは?

・小麦粉には「グルテニン」と「グリアジン」という2種のたんぱく質が含まれている。
・水に溶かすと、この2種が絡み合って、「グルテン」というたんぱく質が形成される。

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竹中:
それで、天ぷら衣を作る時は、小麦粉と卵水を軽く混ぜ合わせるだけに留めるんですね。
川崎:
グルテンは水分と混ざれば混ざるほど形成され、もちっとした食感や弾力、粘り気が生まれます。ハードタイプのパンの噛み応えや、麩の弾力はグルテンによるもの。天ぷらをサクッとさせたいのなら、グルテンは少ない方がいいでしょうね。
竹中:
今日は、天ぷら衣の常識と言われていることが本当にそうなのか。 いろいろ検証したいと思っています。
川崎:
天ぷら衣を構成するのは、粉・水・卵の3つ。この中でグルテンに関わるのは粉ですから、まずは粉に焦点を当てた実験から始めましょう。
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