新ジャガの甘みを増す加熱とは?
「熟成ジャガイモ」の驚くような甘みに興味を持ち、前回、自店の冷蔵庫で新ジャガの25日熟成に挑戦した大阪・西心斎橋『和洋遊膳 中村』の中村正明さん。今回は、低温糖化ではなく、加熱することで甘みが増す方法を、農学博士の川崎寛也先生と模索します。まずは、でんぷんの分解を促進、糖化させる最適温度は50~60℃という仮説をもとに実験・検証。その結果、新ジャガが思いもよらない食感に。中村さんの創作意欲が刺激された実験の全容をお届けします。
文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン
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中村正明さん(大阪・西心斎橋|『和洋遊膳 中村』店主)
1963年、奈良県生まれ。20歳で『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』入店。総料理長・高橋忠之氏の下、フランス料理を修め、スウェーデン日本大使館の公邸料理人に。さらに『浪速割烹 㐂川(きがわ)』で腕を磨き、1995年に独立。和洋の枠に捉われない自由闊達な料理に定評がある。奈良の月ヶ瀬に菜園を持ち、野菜の栽培もしている。
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川崎寛也さん(農学博士)
1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。
糖化を促進させる加熱法はあるのか?
- 中村正明(以下:中村)
- 今回は、加熱を工夫すると新ジャガは甘くなるのか?がテーマですね。
- 川崎寛也(以下:川崎)
- 前回お話ししたように、熟成ジャガイモは、ジャガイモの主成分であるでんぷんがβ‐アミラーゼ(でんぷん分解酵素)によって分解され、著しく糖化したものです。
この糖化を加熱によって促進させることができるのか? 僕もやったことがないのでワクワクしています。
- 中村:
- 大切なのは加熱法ですか? 温度ですか?
- 川崎:
- β‐アミラーゼは50~60℃で活性化し、75℃以上になると動きが止まります。あくまで仮説ですが、50~60℃前後の温度で長時間加熱すると、でんぷんの分解が進み、甘みが増すのではないかと。温度をキープしたいので、スチコンによる加熱がベターだと思います。
- 中村:
- 50~60℃で長時間加熱しても、ジャガイモには火が通らないような気がするのですが…。
- 川崎:
- そこが問題なんですよ。ジャガイモは生食しないでしょう。でんぷんを糊化しないと食べられないんですね。
ジャガイモのでんぷんの糊化は55℃から始まるので、55℃以上で加熱する必要があるのですが、60℃でもちょっと心配ですよね。
- 中村:
- 糊化というのは、具体的にどういう状態になることなのですか?
- 川崎:
- ジャガイモの細胞内には、でんぷんの粒がたくさんあります。55℃以上で加熱すると、このでんぷんの粒が水を含んで膨らみ、互いに絡まり合ってゲル状になり、粘度が高まります。糊のようになることから糊化と呼ぶんですね。
糊化したジャガイモは、消化酵素が働きやすくなっているため、消化吸収されやすくなります。
- 中村:
- ジャガイモを生食するとお腹を壊しそうですね。今回は、先生のアドバイスもあって、新ジャガ(メークイン)を65℃で12時間加熱しておきました。オーブン機能で焼いたものと、コンフィの2種を用意しましたので、食べ比べましょう。
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