和食を科学する料・理・理・科

炊飯のロジックvol.2浸水とザル上げの意味

炊飯は、洗米→浸水→加熱の手順で米をご飯にします。それぞれの工程にロジックがありますが、vol.1では「浸水」の水温に注目して実験をしました。vol.2は「洗米」と「浸水時間」に着目。土鍋ご飯の美味しさに定評のある東京『麻布 和敬』店主の竹村竜二さんは、15℃で浸水した後、15分ザルに上げて吸水しますが、この工程の意味とは? 農学博士の川崎寛也先生と共に実験・検証します。

文:中本由美子 / 撮影:綿貫淳弥

目次

竹村竜二さん(東京・麻布|『麻布 和敬』店主)

1978年愛媛県生まれ。調理師学校卒業後、県内のホテルで8年間経験を積む。東京の『分とく山』で4年間、野崎洋光さんの薫陶を受け、地元に戻り、大学で2年間教鞭を執る。2012年に松山で日本料理店『和敬』をオープンし、18年、「ミシュランガイド広島・愛媛2018特別版」で2つ星を獲得。同年、東京・麻布に移転、11月に『麻布 和敬』を開く。柔軟で率直なお人柄で、調理に関して明解なロジックを持つ。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。

米のでんぷんの糊化には水が必要

竹村竜二(以下:竹村):
前回の実験で、浸水温度が高いと吸水が進むことが分かって興味深かったです。
川崎寛也(以下:川崎):
竹村さんは、15℃で15分浸水した後、15分ザル上げして吸水させていましたね。
米は加水して加熱すると、でんぷんが糊化(α化)し、柔らかくなってご飯になるとご説明しましたが、米が吸水していると、でんぷんの糊化が促進されます。
竹村:
そもそも浸水しないで米を炊くと、どうなるんでしょうね?
川崎:
浸水の意味を知るためにも、ぜひ実験してみませんか?
周りに水があれば米は吸水しますから、洗米、加熱のタイミングでも吸水は進みます。ですから、浸水しないと米が炊けないワケではないですが、おそらく糊化が足りないご飯になるでしょうね。
竹村:
硬いご飯になりそうですね。では、米を洗ってすぐに炊いてみますね。

【実験1】浸水・ザル上げなし、洗ってすぐに米を炊いたらどうなる?

流水で米1.8合(270g)を洗う。1回目は手早く洗ってすぐさま水を捨て、計5~6回洗う。

川崎:
研ぐというよりは洗っていますね。近年は精白技術が進んでいるので、表面にほとんど糠が付いていません。研ぐ必要はないとされていますよね。
竹村:
そうですね。ぎゅっぎゅっと研ぐと米が割れてしまうので…。でも、少なからず表面に糠は付いているので、洗い流す必要はあると思います。
米は乾燥しているため、最初の水をたくさん吸収すると聞いたので、糠の匂いが付かないように急いで洗って捨てています。
川崎:
確かに、米は水分含有量が少ないので、水を加えるとすぐに吸水します。
米糠からは「こめ油」が採れるでしょう。精米後、極少量残った糠に含まれる油脂分が保存している間に脂質酸化してしまう
んです。取り除かなければならないのは、この脂質酸化して生成される物質・ヘキサナールです。
竹村:
糠臭さは脂質酸化によるものだったのですね。

270gの米は洗米後、300gに。30mlが吸水された。

川崎:
洗米時は米が8~10%吸水しますから、30mlでちょうど10%ですね。竹村さんのいつものやり方だと、浸水・ザル上げをした後の米は330gでしたから、さらに30ml吸水しています。
竹村:
つまり、洗米だけだと30mlの吸水が足りていないということになりますね。
川崎:
この吸水の差がご飯にどんな影響を与えるか? 洗ってすぐの米をいつも通りに水加減して炊き上げ、食べてみましょう。

300mlの水を加え、まず強火で7~8分加熱。吹いてきたら火を弱め、土鍋の蓋の穴をアルミホイルで塞いで3~4分、さらに火を弱め、10分以上加熱するのが竹村さん流。アルミホイルを使う理由は「最初に決めた水分量をキープしたいので、吹きこぼれないようにするためです」。

竹村:
しゃもじで混ぜた時に「硬いなぁ」と思いました。明らかに水分が足りていないですね。
川崎:
(一口食べて)あ~本当に硬い(笑)。粘りもなく、味も薄いですね。
竹村:
大げさに言うと芯を感じます。
川崎:
やはり浸水は炊飯において大事な工程ですね。でんぷんの糊化を促進させるためには、加熱前にある程度、米が水を含んでいる必要があることが分かりました。 では、次はザル上げの意味を知るための実験をしてみましょう。

【実験2】ザル上げなしで、30分浸水すると?

竹村:
先ほどは洗米後に、浸水もザル上げもせずにいきなり米を炊きましたが、今回はザル上げの工程だけを省きますか?
川崎:
竹村さんはいつも15分浸水→15分ザル上げしていますから、このザル上げの時間もずっと水に浸けていたらどうなるか? 実験してみましょう。

米1.8合(270g)を5~6回水で洗い、15℃で30分ほど浸水した。

竹村:
30分浸水し続けると、米の重量は350gになりました。僕のいつものやり方より20g=20mlの吸水が進んだということですね。
川崎:
では、いつも通り300mlの水を加えて同じように炊き上げてください。
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