和食を科学する料・理・理・科

炊飯のロジックvol.3煮えばなは、なぜ香りがいいのか?

東京の日本料理店『麻布 和敬』では、白ご飯をまず「煮えばな」で供します。農学博士の川崎寛也先生曰く、煮えばなは「米がご飯になる瞬間」を味わうもので、「最も香りがいい状態です」と店主の竹村竜二さんは言います。なぜ、煮えばなは香りがいいのでしょう? 今回はその理由を探ると共に、竹村さん流の炊飯の加熱法に着目。「蒸らす」ことの意味も探ります。

文:中本由美子 / 撮影:綿貫淳弥

目次

竹村竜二さん(東京・麻布|『麻布 和敬』店主)

1978年愛媛県生まれ。調理師学校卒業後、県内のホテルで8年間経験を積む。東京の『分とく山』で4年間、野崎洋光さんの薫陶を受け、地元に戻り、大学で2年間教鞭を執る。2012年に松山で日本料理店『和敬』をオープンし、18年、「ミシュランガイド広島・愛媛2018特別版」で2つ星を獲得。同年、東京・麻布に移転、11月に『麻布 和敬』を開く。柔軟で率直なお人柄で、調理に関して明解なロジックを持つ。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。

煮えばなとは何か?

竹村竜二(以下:竹村)
うちでは、土鍋で白ご飯をお出しする日は、まず「煮えばな」を味わっていただきます。
茶事では椀物、向付と共に最初に供されますが、必ず熟練の職人が担当するほどタイミングが難しいんですよ。
川崎寛也(以下:川崎)
炊飯の加熱は、温度上昇期、沸騰期、蒸し煮期、蒸らし期の4段階に分かれます。煮えばなは蒸し煮期直後のご飯で、「米がご飯に変わる瞬間」を味わうものですね。
竹村:
しっとりとしていて食感が心地よく、甘みが強くて香りがいい。最も贅沢なご飯の味とされています。
うちでは、加熱開始から20分くらいのご飯を煮えばなとしてお出ししています。
川崎:
竹村さん流の炊飯は、沸騰直後にアルミホイルで土鍋の穴に蓋をする点が特徴的です。その加熱法を改めて分析しつつ、竹村さんの煮えばなを食べさせていただけたらと思います。

アルミホイルで土鍋の穴を塞ぐ理由

米1.8合(270g)を洗米し、15℃浸水・ザル上げを各15分行ってから土鍋に入れる。水300mlを加えて蓋をし、まず強火で加熱。7~8分で沸騰させる。

火を弱めてアルミホイルで土鍋の蓋の穴を塞ぐ。この状態で3~4分加熱する。さらに火を弱めて約10分加熱する。

川崎:
加熱の4段階を具体的にご説明しますね。温度上昇期は加熱をし始めた段階。水温が上昇し、米が60℃に達すると、でんぷんの糊化が始まります。この時、アミラーゼやグルコシターゼという酵素が反応することで、米が糖化して甘くなります。また、たんぱく質も少なからず分解され、アミノ酸も生成されます。
竹村:
最初の段階から糖化も始まるんですね。
川崎:
次に沸騰期があって、米に水分がどんどん吸収され、より糊化が進みます。竹村さんは沸騰までを7~8分にして、その後、火を弱めてアルミホイルで穴を塞いでいます。吹きこぼれると水分量が変わるから、というのが理由でしたね。
竹村:
vol.2でもご説明しましたが、浸水・ザル上げ時の吸水量を計算して、米(1.8合=324ml)の92.5%の水分量(300ml)で炊き上げたいので、吹きこぼすワケにはいかないんですよ。
この記事は会員限定記事です。

月額990円(税込)で限定記事が読み放題。
今なら初回30日間無料。

残り:2823文字/全文:3893文字
会員登録して全文を読む ログインして全文を読む

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事和食を科学する料・理・理・科

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です