和食を科学する料・理・理・科

クレソンお浸しの分解と再構築

青菜をテーマにお届けしたシリーズも、いよいよ最終章。クロロフィル(葉緑素)を保ちながら、最適に加熱するための実験を重ねた『菊乃井』四代目の村田知晴さんが、農学博士・川崎寛也先生と新しいクレソンのお浸しを考案します。青菜を加熱し、調味液に浸して味を含ませるお浸しの工程を、分解し、再構築。クレソン油のコクと香りを添え、浸し地の要素をジュレに置き換えました。川崎先生によるお浸し論も必読です!

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン

目次

村田知晴さん(京都・下河原『菊乃井』四代目)

1981年、群馬県生まれ。『株式会社 菊の井』専務取締役、京都の名料亭『菊乃井』四代目若主人。35歳で厨房に入ってから、龍谷大学大学院で農学研究科博士後期課程を修め、食農科学も学んだ。「京都料理芽生会」「NPO法人 日本料理アカデミー」所属。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。

お浸しのメカニズムとは?

川崎寛也(以下:川崎)
僕はだしをテーマにした講演の依頼が多いのですが、必ず「日本料理を象徴するのがお浸しである」とお話しさせてもらうんですよ。
村田知晴(以下:村田)
ぜひ具体的に教えてください!
川崎
日本人は古くから万物に神が宿ると考えてきたので、食材をとても大事に扱います。日本料理は、食材の色や風味を生かすという考えのもとに成り立っているんですね。
では、料理とは何か? 食材に調理と調味を施して、美味しくしたものですよね。お浸しは、調理と調味を分けて行うことで、食材の色も食感も持ち味も最大限に生かしている。実は世界的にも稀な料理なんですよ。
村田
確かに、炒め物や煮物など大半の料理は調理と調味が同時に行われてますね。
川崎
例えば青菜のお浸しなら、まず下茹でしますよね。加熱してペクチンを溶かすことで細胞壁を壊し、適切な硬さにします。そのままおくと退色するので、急冷してクロロフィルを安定させます。 その加熱を経てから浸し地に浸けると、細胞壁と細胞膜が壊れているので、調味料が浸透しやすい。これが、お浸しのメカニズムです。
村田
調理と調味を分けるメリットは、科学的にも説明が付くんですね。
川崎
お浸しは青菜のシャキシャキ感、独特の風味、色を生かしながら、だしの味を含ませることで美味しくしています。とても理に適った、世界に誇るべき日本料理の仕事なんですよ。

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