和インのマリアージュ

“だし”に合うワイン Vol.1

「カツオだしの酸味は、ワインと合わせやすいんです」。日本料理店での勤務時代、お椀には日本酒ではなく、ワインをペアリングしていたと言うソムリエの松岡正浩さん。合うワインの特徴、さらに、具体的な品種も教えていただきました。

文:松岡正浩 / 撮影:太田恭史

目次

松岡正浩(大阪・北新地|中国料理『有 伽藍堂(う がらんどう)』/シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

和食のだしとワインの関係

日本料理のお椀から蕎麦つゆ、おでんだしや煮物の煮汁まで、和食において味わいの骨格を担う「だし」。今回から2回にわたって、だしとワインの関係についてお伝えしたいと思います。

ご存じの通り「だし」とは、野菜・肉・乾物などを水に浸けたり、煮出すことによって得た液体の総称であり、「煮出」を語源とし、転じて「だし(出汁)」になったと言われています。
野菜や魚介を主体とした和食にとって、だしは調味料として味を整えると共に、素材の旨みを引き出す役割も兼ねています。

カツオ節

だし素材の代表格の一つがカツオ節。そのカツオだしは非常に汎用性が高く、さまざまな食材と組み合わせることができます。また、日本料理のお椀やお吸い物、味噌汁など、カツオ節の風味が主役となる料理も多く存在します。
このカツオだしは乳酸由来の酸味が特徴で、ワインの酸味と同調させやすいと以前お伝えしました。日本料理店勤務時代には、ペアリングコースにおいて日本料理の華とも言えるお椀に日本酒ではなく、必ずワインを提供しておりました。

さて、これらの「だし」とワインの相性についてお伝えする為に、日本料理の「お椀」をテーマに話を進めます。
お椀は椀種や仕立てももちろん重要なのですが、その椀種の風味と相まった液体をいただくことがメインと言えるため、そこに焦点を当ててワインを選ぶ必要があります。濃くも薄くもない、ある究極の一点を目指すお椀の旨み。この繊細な旨みに合わせやすいワインにはいくつかの特徴があり、基本的に白ワインが適しています。

お椀のだしに合うワインの特徴

白ワインと椀

酸味がしっかり、果実味が強すぎず、ほんのり香るタイプの白ワイン。
余韻が綺麗に素直に(クセがなく)長く伸びる。
「塩味」「ミネラル的な風味」を感じる白ワイン。
(あくまでイメージとして)ミネラル、酸、果実味がギュッと詰まっているように感じられる。
お椀によっては、程よい樽の香りはだしの風味に合わせやすい。
一般的に白ワインを提供する温度より少し上げる。赤ワインの適温・14~18℃くらいのイメージ。

お椀の繊細かつ滋味深い風味を決して邪魔せず、ゆっくりと細く長く寄り添うことが重要で、その為にギュッと引き締まった白ワインであることがポイントであり、その引き締まったワインの風味がゆっくりとほぐれてお椀の味わいに染みわたっていくようなイメージが理想です。一方で、キレのあるサッパリとしたワインや日本酒は余韻が短いものが多く、お椀の旨みと一緒に伸びることが難しいため、マリアージュという意味では合わせづらいと思っています。

これらの条件に当てはまる白ワインはかなり限定される為、まずは下記の2品種から造られる白ワインを試されることをお勧めします。

・アルバリーニョ種(スペイン)
・アシルティコ種(ギリシャ)

もちろん、世の中にはたくさんのアルバリーニョ種やアシルティコ種の白ワインがあり、生産者や銘柄ごとに香りや味わいが違うのですが、それでもそのブトウ品種らしさというものがあります。ですから、この2品種で造られたさまざまな白ワインを試すことで感覚をつかむことから始めましょう。その中で、自分好みの、お店のお椀に合わせやすいワインが見つかるはずです。

アルバリーニョ種(スペイン)の特徴

主にスペイン北西部、ポルトガル北部で栽培されている白ブドウ。大西洋の影響を受け温暖、雨が多い地域ならではの穏やかながら完熟リンゴや白桃などのフローラル(華やか)な香り、しっかりとした酸味とミネラル的な風味が特徴の辛口の白ワインが造られます。
英語圏において、「Salty(ソルティ)なワイン」と言われるように、塩味を感じることからも魚介類との相性が良いと広く知られています。

このアルバリーニョ種の白ワインは、特にシンプルな仕立てのお椀にお勧めです。何よりもこの白ワインのほのかな塩味と酸味のバランスがお椀にちょうど良い塩梅なんです。
また、フローラルな香りを持つのですが、それほど前面には出てこず、奥の方にギュッと詰まっているかのように、そしてゆっくりとその香りが展開していくように感じられるため、吸い口の繊細な柚子の香りにもピタりとはまります。また、柚子を使わずとも、ほのかな香りをお椀に添えることができます。

アシルティコ種(ギリシャ)の特徴

エーゲ海南部にあるギリシャ・サントリーニ島の固有品種。温暖で日照量に恵まれた生育条件によってブドウは完熟し、豊かな果実味と高いアルコール度数を持つ白ワインが造られます。
そして、特筆すべきは酸味です。一般的に温暖な地域のワインはブドウが良く熟す分、酸味が穏やかになるものですが、この島は夏に非常に強い北風が吹くため熱が開放され、ブドウ品種由来のしっかりとした酸が残ります。さらに、夏の昼夜の大きな寒暖の差がワインに複雑さをもたらします。
これらのことから、シトラスがギュッと詰まったかのような果実味とフレッシュでしっかりとした酸味、加えて、ほんのりとした塩味にわずかな苦みが感じられる辛口白ワインに仕上がります。

このアシルティコ種のように豊かな果実味と高いアルコール度数(温暖な産地の特徴)、そしてしっかりとした酸味(冷涼な産地の特徴)を併せ持つワインは世界中にそう多くはありません。

アルバリーニョ種とアシルティコ種が似ていると思われた方もいらっしゃると思います。共に、上記のお椀にお合わせやすいワインの特徴の①~③を満たしています。平たく言えば、アルバリーニョ種の各要素を少し強くしたものがアシルティコ種とイメージしても問題ありません。さらに、このアシルティコ種には樽を使ったものもあり、塩味・酸味・樽香の3つが並ぶことでよりさまざまお椀に同調させることができます。お椀にはこれら2品種で造られた白ワインを合わせることを基本とし、あとはお椀の強さ、個性に合わせてバリエーションを増やしていくと良いかと思われます。

お椀はシンプルであるほどワイン選びが限定され、香りや味わいが複雑に、さらに旨みが増すほど選択肢が広がります。例えば、椀種がシンプルな白身魚のお椀であればアルバリーニョ種の白ワイン、鰻であれば樽香を感じるアシルティコ種というようにお椀の強弱、複雑さの度合いによってワインを選ぶわけですが、この話は次回に。

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