八寸とは? 意味・由来と日本料理での役割
八寸とは、日本料理のコースで献立名、または料理名で登場する、酒の肴の盛り合わせのことです。もとは茶事の懐石において酒を酌み交わす際、料理を八寸角の折敷に盛ったことに由来します。現在では会席料理にも広く取り入れられ、料理人の趣向や季節感を表す一皿として定着。本稿では、その背景や料理としての広がりを紐解きます。

八寸とは
八寸は、酒の肴の盛り合わせです。料理名でありながら、椀物や造り、煮物などと並ぶ献立名としても用いられる、日本料理の中でも珍しいことばです。
季節の食材を複数取り合わせて料理を仕立て、一口大に整えて、少量ずつ器に美しく盛り込みます。料理屋には「八寸場」と呼ばれる、盛りつけを主に担う持ち場があることからも、八寸がとりわけ盛りつけの美意識を重んじる料理であることがうかがえます。
八寸は、コースのなかで口取り肴として最初に供されることもあれば、椀物のあとに続くこともあります。いずれのタイミングでも役割は変わりません。季節感を最大限に表現し、盃が自然と進むよう場を整えてくれます。
由来は折敷の四方の長さ
八寸の名は、懐石において酒を献酬する際、海のもの(なまぐさもの)、山と里のもの(精進もの)からなる数種の料理を、八寸角の折敷(脚のない縁つきの盆)にのせて供したことに由来します。「寸」は長さの単位で、一寸は約三センチメートル。八寸とは、約二十四センチ四方の折敷を指します。
懐石は茶の前に供される簡素な食事であり、禁欲的で酒とは無縁のものと思われがちです。しかし実際には、酒がまったく出ないわけではありません。主役ではない、というだけのことです。
基本の一汁三菜が終わりに近づくと、亭主は酒と八寸をたずさえ、主客の間で酒を飲み交わす「千鳥の盃」へと移ります。白木地の折敷には水を通した両細の青竹箸が添えられ、清浄で厳かな雰囲気に。懐石における八寸は、献酬の場を支える重要な存在なのです。
懐石から会席料理への広がり
懐石における八寸の初見は江戸時代初期とされています。ただし当初は、八寸折敷に簡単な料理を盛るだけで、必ずしも献酬と結びついていたわけではなさそうです。酒肴を供する器で似たものといえば、重箱や硯箱(すずりばこ)などが用いられており、幕末になると、八寸折敷に盛る例が登場します。
三河国寺部郡の城主・渡辺又日庵が著した『喫茶送迎記』には、燗酒とともに持ち出すこと、節のある青竹の箸を添えること、亭主が自ら盃事を行うことなど、今につながる具体的な手順と心得が記されており、このころに茶事の八寸の形式が整えられていったと考えられます。
この懐石の八寸が、料理屋の会席料理に取り入れられ、今日見られるような、趣向を凝らした多彩な品を盛り込む自由な形式へと発展していった経緯は、明確にはわかりません。ただ、近代以降の会席料理において、懐石の「一期一会」に象徴される精神性が色濃く取り入れられたことは確かです。近代の料理人たちが懐石から着想を得て、それぞれが独自の解釈や工夫を重ねていくなかで発展していったと見るのが自然でしょう。
盛り込む料理の品数に厳密な決まりはありませんが、基本は三品以上の奇数とされます。八は末広がりで縁起がよいことから例外的に用いられることもあります。八つの料理を一寸ずつ盛る、という意味ではない点には注意が必要です。
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