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【レシピ付き】大阪産(もん)レシピ Vol.1 大阪『浪速割烹 㐂川』上野 修さん作 海老芋料理2品

「富田林(とんだばやし)の海老芋農家とは、先代からの長いお付き合い。形の美しさはもちろん、きめ細かな身質や甘みが段違いです!」と大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川(きがわ)』二代目の上野 修さん。大阪産(もん)の魅力をお伝えするレシピの第1回目は、10月下旬から12月初旬まで収穫される海老芋がテーマです。一品目は、海老芋を器に特製スフレを射込んだ焼き物。もう一品は、河内鴨と合わせた食べ応え抜群のタレ焼き。ひとつの素材を多様な調理法で魅せることを得意とする浪速割烹の主に、趣向の異なる2品の海老芋料理を披露していただきました。“下茹でしない”下ごしらえにも注目です。

文:川島美保 / 撮影:ハリー中西

目次


大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川』上野 修さん作
海老芋の吹き寄せスフレ

『浪速割烹 㐂川』上野 修さん作 海老芋の吹き寄せスフレ

「大阪・富田林『乾(いぬい)農園』の大きく立派に育った海老芋。独特のエビフォルムをお客様に見せない手はないでしょう?」と、一品目は海老芋を丸ごと食べられる“うつわ”にし、その中に具沢山のスフレ生地を射込む仕立て。八方地でほんのり甘く炊いてから唐揚げにすることで、表面がカリッと香ばしくなると同時に、芋らしい甘みとホクホク感がグッと強調される。

「芋と油は相性抜群!海老芋の唐揚げが私は大好き。これに黒コショウを振るだけでも美味しいですよ」。

スフレ生地にも海老芋を使い、芋感を強めると共に、唐揚げとの風味や食感のコントラストを楽しませるという仕立てがニクイ。

茹でずに“皮ごと蒸して”風味を生かす

海老芋は、皮を剥いてから米の研ぎ汁で下茹でするのが一般的。けれど、『浪速割烹 㐂川』では“皮ごと蒸す”。

「皮と身の間にこそ味も香りもあるので、蒸し立てをツルッと剥くのが一番! 茹でずに蒸すのは、せっかくの野趣が抜けないようにするためです」と上野さん。定石にとらわれず、美味しさを第一に考えた手法だ。

芋入りスフレで独特の食感に

海老芋をうつわにするためにくり抜いた部分も、“始末の心”でもちろん無駄にしない。裏漉して泡立てた卵白と合わせ、スフレ生地に仕立てる。「海老芋ペーストを加えることで適度な重さが出て、味も深くなります」。

コク深いバルサミコソースで味変

最後の仕上げは、煮詰めたバルサミコ酢に醤油や太白ゴマ油を合わせた甘酸っぱいソース。海老芋に直接かけず、脇に添えるのには意味がある。

「まずは何も付けずに海老芋の素朴な風味を味わって。それからバルサミコソースを付けて味の変化をお楽しみいただければ」。まろやかなコクと程よくフルーティーな洋の酸味が、舌を変えると同時に味の輪郭を引き締め、さらに箸を進める。

車エビの赤と銀杏の緑が映えるスフレに、銀杏(いちょう)南瓜や紅葉人参の飾り切りが華やか。錦秋を描いた一品は、味も見た目も季節感に満ちている。

海老芋の吹き寄せスフレのレシピ

<下準備>

海老芋は皮ごと蒸してから熱いうちに皮を剥き、八方地で炊いてそのまま冷ましておく。

海老芋を八方地で炊いたところ

車エビの殻を剥いてぶつ切りにする。
銀杏は殻を剥いて白米と一緒に炊き、餅銀杏にして1/4に切る。
エリンギとムカゴはそれぞれ八方地で炊き、エリンギはひと口大に切る。
銀杏南瓜と紅葉人参は下茹でし、八方地に浸けておく。

海老芋の吹き寄せスフレに入れる具材

<仕上げ>

①の海老芋の中をくり抜き、舟形にする。片栗粉をまぶして170℃に熱した揚げ油で揚げる。

海老芋をくり抜き、揚げているシーン

⑥でくり抜いた海老芋を裏漉しする。
卵白に塩少々を加え、全立てする。
⑦に⑧の1/3量を加え混ぜ、②③④を加えて軽く混ぜ合わせる。残りの⑧を加え、泡を潰さないように切り混ぜる。

海老芋・メレンゲ・具材を合わせているシーン

⑨を⑥に詰め、200℃に予熱したオーブンで軽く色付くまで焼き、さらに天火で焼き目を付ける。

海老芋にスフレ生地を入れ、焼き上げるシーン

バルサミコ酢をとろみが付くまで煮詰め、たまり醤油・濃口醤油・みりん・太白ゴマ油と混ぜ合わせておく。
⑩を器に盛り、⑪を流す。

海老芋と河内鴨の挟み焼き

海老芋と河内鴨の挟み焼き

続く二品目は、ガラリと趣を変えて河内鴨ロース肉と海老芋の挟み焼き。大阪食材のひとつとして名高い河内鴨は、皮と脂の甘みと肉の旨みのバランスが秀逸。『浪速割烹 㐂川』でも愛用していて、旬菜と合わせた挟み焼きはお馴染みの料理だ。

「鴨肉の脂を両面から吸わせながらじりじり焼くことで、なんとも言えない濃密な旨みが海老芋に加わります。八方地で炊くまでは一品目と同じですが、調理法のちょっとした違いで生まれるねっとり感も味わいどころです」。

“芋入り”卵黄ダレでそそる味に

遠火の強火で皮目をパリッと焼いて鴨の余分な脂を落としたら、卵黄入りの照り焼きダレを数度かけ焼いて仕上げにかかる。醤油をベースにみりんなどを加えたこの甘辛いタレも、実は海老芋ペーストが入っている。

「適度に粘度が出てタレが具材に絡みやすくなり、海老芋らしさも増して一石二鳥です」と上野さん。

いわゆる黄身焼きをアレンジした味わい濃厚な卵黄ダレは、ねっとり焼けた海老芋の存在感をより際立たせるための選択。鴨から滲み出る脂と甘辛いタレが混ざり合いながら焼けていくたまらない香りが、食欲を強く刺激する。

飛び切りの海老芋を無駄なく美味しく始末した2品は、同じ焼き物でも驚くほど異なる食感と印象。滋味深くて奥も深い海老芋の魅力を余すことなく教えてくれる。

海老芋と河内鴨の挟み焼きのレシピ

海老芋は皮ごと蒸してから熱いうちに皮を剥き、八方地で炊いてそのまま冷ましておく。両端を切り落とし、1㎝厚さに切る。
①で切り落とした海老芋の両端を裏漉し、卵黄・照り焼きダレ(たまり醤油・濃口醤油・煮切り酒・煮切りみりん・砂糖を合わせたもの)、刻んだ実山椒と混ぜ合わせておく。
河内鴨のロースを5㎜厚さに切り、①と交互に並べて串を打つ。

鴨に海老芋を串で挟んだシーン

皮目を上にして、天火で8割程焼く。上下を返して全体に火を通す。

鴨に海老芋を串で挟み、炭で焼くシーン

④に②をかけては焼く作業を2~3度繰り返す。

海老芋の挟み焼きにタレをかけて焼くシーン

⑤を串から外して器に盛り、刻んだ実山椒を散らす。下茹でしてから八方酢にひと晩以上漬けたカリフラワーと姫人参のピクルスを添える。

『浪速割烹 㐂川』上野 修さん上野 修さんは、1961年大阪生まれ。19歳で『浪速割烹 㐂川』に入店後、視野を広めるために『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』へ。総料理長・高橋忠之氏の下でフランス料理を学ぶ。94年、『㐂川』二代目に。大阪らしさを大切にしながら西洋料理の技術や発想、食材を柔軟に取り入れた和魂洋才の料理に定評がある。「大阪料理会」運営委員長。2020年「現代の名工」、23年「黄綬褒章」受章。

osakamon


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