世界No.1フーディー浜田岳文×和食を“変える”料理人

静岡・焼津『茶懐石 温石』杉山乃互編。Vol.3 駿河湾の幸を未来に繋ぐために必要なこと

『茶懐石 温石(おんじゃく)』の杉山乃互(だいご)さんとタッグを組む魚屋『サスエ前田魚(うお)店』前田尚毅(なおき)さんは、2023年9月、「超DXサミット」で「持続可能な海の幸グルメ賞」、「Sustainable Japan Award 2023」で「satoyama部門 審査員特別賞」を受賞されました。今、「“美味しい”をいかに未来に繋ぐか」が注目されています。
“世界No.1フーディー”の浜田岳文さんがインタビューする鼎談3回目は、ちょっとイレギュラー。駿河湾の幸を未来に繋ぐ、近年の前田さんの動きに注目します。

文:阪口 香 / 撮影:喜多剛士 

目次

浜田岳文さん(「株式会社アクセス・オール・エリア」代表)

1974年、兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮の不味い食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国を踏破。一年の5カ月を海外、3カ月を東京、4カ月を地方で食べ歩く。「OAD Top Restaurants」(世界規模のレストラン投票システム)のレビュアーランキングで2018年度から5年連続で1位を獲得、国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信している。

杉山乃互さん(日本料理店『茶懐石 温石』店主)

1984年、静岡県焼津市生まれ。祖父・父親が料理人であったことから自然と料理の世界を目指すようになる。修業に備えて高校時代から『サスエ前田魚店』で魚の水洗いなどを勉強し、卒業と共に父親が修業した東京・目白の名店『和幸(わこう)』(閉店)に入る。24歳で焼津に戻り、父と共に『温石』に立つ。その後店を継ぎ、2019年に改装。個室のみだった店内にカウンターを設えた。

前田尚毅さん(魚屋『サスエ前田魚店』五代目)

1974年、静岡県焼津市生まれ。水産学校時代から市場で競りの記録係を務めるなど、魚関連の仕事に勤しむ。卒業後、水産会社で流通や仲卸しの仕事を学び、家業である魚屋『サスエ前田魚店』に入る。“天然の生け簀”と呼ばれる駿河(するが)湾で獲れる魚を飲食店ごとに仕立てる技が評判を呼び、国内外のトップシェフからオファーを受けるように。レストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2021」では、優れた生産者に贈られる「テロワール賞」を受賞した。

頑固な漁師を動かした、魚屋・前田尚毅の行動

浜田岳文(以下:浜田)
前回お伺いした、漁師・魚屋・料理人の連携が静岡だけでなく、各地で行われるようになったら日本の食レベルはめちゃくちゃ向上すると思います。とはいえ、前田さんが日本中を回ることは難しい。
前田尚毅(以下:前田)
不可能ですし、自分はやっぱり地元で、漁師・料理人・食べ手の顔が見えるところでやりたい。それに、県外の歴史や文化、自然を理解するには膨大な時間がかかります。
浜田:
となると、各地の3者が静岡をモデルに関係性を築くというのが良さそうですね。
前田:
その動きはすでに始まっているのですが…。
実は、テレビ番組の「情熱大陸」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演してから、全国の魚屋や漁師から問合せがくるようになりました。よくいただくのが「静岡の関係性を目指して働きかけるけど、上手くいかない。他の魚屋や漁師の賛同を得られない」というもの。
浜田:
同じような話を聞いたことがあります。
以前、とある料理人が漁師と共に漁に出て市場に魚を卸したのですが、他の漁師から出禁にされる勢いで怒られて。その理由が「一人クオリティの高いことをしたら、バランスが崩れるだろ」って。

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前田:
静岡もそうでした。7年ほど前に、漁師たちに魚の獲り方や船上での冷やし方を変えて欲しいと働きかけたのですが、夜中に漁師から呼び出されて脅されたり、「お前みたいな若造に指示される覚えはない」と言われたり。魚屋からは「大変なこと始めたな」って言われるし、飲食店も「波風立てずにやればいいものを…」って。
浜田:
心が折れそうになりますね…。
前田:
そんな時に、水産高校時代の同級生が船を買ったんでお願いしたんです。やってはくれたんですけど、その時、いい魚は獲れなかった。でも自分はやろうとしてくれたことに対して他の魚より1割高く買ったんです。当然、周りの漁師は「なんでアイツのだけ?」という反応。
その後も何度か繰り返してるうちに同級生もプロなんで、いい魚を運んでくれるように。そこで2割高く買った。するとまた注意されたんで「あなたたちにお願いして断られたことをこの漁師さんはやってくれて、その効果が出た対価です」と伝えたら「じゃあその方法で獲ったら俺の魚も高く買うのか」と。自分は「買います」と言いました。
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