うつわ×食ジャーナル

日本独自のくつろぎのうつわ、「湯呑茶碗」のこと、知ってますか?

和食のコース料理のあと、最後に湯呑茶碗を出していただくことがよくあります。美味しかった品々を反芻(はんすう)しつつ、番茶を注いだ湯呑茶碗を手にすれば、手の平からじんわり伝わる温かさと共に、心もほっこり。まるで時間を日常に戻す、ハレからケへの橋渡しをしてくれるようです。
3~6月、「滋賀県立陶芸の森 陶芸館」では「湯呑茶碗」にフォーカスした珍しい展覧会が開催されました。身近なうつわなのに、意外に知らなかったことがたくさん。人に話したくなるウンチクと共にレポートします。

撮影・文:沢田眉香子

目次


湯呑茶碗は、日本発祥のうつわだった

湯呑茶碗の発祥とは?

うつわ好きの中でも、湯呑茶碗の出自を知る人はほとんどいないのではないか。存在が当たり前すぎ、日常的すぎるために、美術品や骨董品として保存、研究、展示されるようなことも少なく、壊れれば使い捨てになってしまうことが常だからだ。湯呑みは客用の椀型のうつわ「汲(く)み出し」とは区別されている、もっぱら「日用雑器」だからだ。

日本のうつわは、中国や朝鮮半島に起源を持つものが多い。茶碗や懐石うつわには茶の湯の、杯は煎茶の道具というルーツがあるが、実は湯呑茶碗は、日本で生まれ育ったうつわだ。

その発祥は、江戸時代中期に、庶民がお茶を飲むため、個人用の筒形のうつわを使い始めたことだといわれている。日本生まれ、日常育ち。くつろぎから生まれたこの湯呑茶碗は、大正から昭和にかけての旅行ブームによって、大流行した。

jou0002b「ちょっと昔の日本を旅しよう」が展覧会のサブテーマ。当時のお土産品のレトロなパッケージも併せて展示されていた。

気軽に買える「土産物」「日用品」だったこの湯呑茶碗を、314点も収集したのが坂口恭逸(きょういつ)氏。そのコレクションは「滋賀県立陶芸の森」に寄贈され、今回の「湯呑茶碗 日本人がこよなく愛したやきもの(2023年6月25日まで)」では214点が展示された。

ほかに例を見ない質と量の湯呑茶碗は、見て楽しいばかりか、明治末から昭和までのやきもの産業の盛り上がり、当時の日本人の旅行への熱狂を証言する、貴重な歴史資料となっている。

jou0002c「朱泥色絵岩手山図湯呑茶碗」は、1929(昭和4)年頃制作。描かれているのは「南部片富士」と呼ばれる岩手山。愛知・常滑(とこなめ)の陶工を招聘して朱泥の湯呑茶碗をつくった。各地が競ってやきもの技術を導入した時代だった。

jou0004d「色絵陽刻平家蟹文共蓋湯呑茶碗」は、大正~昭和初期に制作されたもの。源平合戦の地、香川県高松市らしい、蓋の平家蟹に注目。

jou0005eTHE京都な、雅なデザイン。「仁清(にんせい)写色絵銀彩梅花文湯呑茶碗」は大正~昭和前期制作。

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