『柏屋 大阪千里山』5月の献立の立て方【前編】コース設計の思考
大阪・千里山の高台に佇む料亭『柏屋 大阪千里山』。毎月の献立づくりにおいて、主人・松尾英明さんが向き合うのは「季節の移ろいをどう捉え、どう皿に映すか」という問い。知識ではなく体感を起点に、二十四節気や七十二候、歳時記といった“季節を言語化する術”を手がかりに、目の前で起こる変化をすくい取っていく。そうして積み重ねた理解が、季節に対する感度を高め、やがて料理の表現へとつながっていく。その献立を支える思考の源流をひもときます。
松尾英明さん:1962年、大阪生まれ。関西学院大学理学部を卒業後、滋賀の名料亭『招福楼』にて修業。1989年、家業である『柏屋』へ入り、1992年料理長に。2013年農林水産大臣より「第4回料理マスターズ ブロンズ賞」受賞。2018年「第9回料理マスターズ シルバー賞」受賞。2010年よりミシュランガイドで三つ星、2020年にはミシュラングリーンスターを獲得。2022年『紫紅社』より「柏屋の『季』」発行。2023年「第14回料理マスターズ ゴールド賞」受賞。2025年「令和7年度 現代の名工」受章。「ミシュランガイド京都・大阪2026」では、メンターシェフアワードを獲得した。
献立の原点は「季節の移ろい」をどう捉えるか
『柏屋 大阪千里山』の献立づくりは、「季節の移ろいや変化を、何で気付いたのか?どこで感じたのか?」という問いから始まる。
主人・松尾英明さんが語るのは、「桜が咲いたから春、ではない」という視点。
「現代は、スマートフォンやメディアを通して、季節の情報が先に届く時代。ひな祭りや花見といった行事も、“暦に合わせて行うもの”として受け取られがちです。けれど本来、季節は目の前で少しずつ移ろっていくもの」と松尾さんは語り始める。
多くの人にとって、「桜の開花=春が来た」という認識が強い。だが本来、季節はひとつの出来事で切り替わるものではない。
寒さの底を迎えた頃が春への起点となり、雪が雨へと変わり、やがて木々の梢に新芽がのぞく。そうした小さな変化の積み重ねの先に、満開の桜がある。そして桜が散る頃には、すでに季節は次へと移り始めている。
「本来は、そうした移ろいの中で“今、どこにいるのか”を感じ取るもの。けれど現代は、早春や晩春といった細やかな段階の意識が、少し曖昧になっているように感じます」と松尾さん。
料理人は、その変化をいち早く受け取る立場にいる。市場に足を運べば、九州から北上してくる筍に触れ、産地からの旬の“兆し”が届く。「その細やかな変化を自らの感覚でとらえ、皿の上に映し出す。そしてお客様へと手渡すのが使命だと思っています」。
情報ではなく、体感から始まる季節の表現。それこそが、『柏屋』の献立の出発点になっている。
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