東京『伯雲』9月の献立の立て方【前編】コース設計の思考
2021年に開業し、5年目の昨年秋には早くもミシュラン二つ星を獲得した『伯雲(はくうん)』。主人の坂本慎吾さんは思考と技術の緻密さ、的確さ、そして柔軟さが際立つ料理人です。そんな坂本さんが作る料理は、ピシッと整っていたり、ふわっとした緩さがあったりと印象は異なれど、どの料理も目指すところが明確で、狙い通りに仕上げられているのが特徴。そうした、一皿ごとの明快な意図によってコースに抑揚を作るのが、坂本さんの流儀です。
坂本慎吾さん:1983年、東京都生まれ。子供の頃から日本料理に興味を持ち、辻󠄀調理師専門学校に進学。2007年より『日本料理 龍吟』に入り経験を重ねる。2016年に同店の料理長に就任。2021年1月、南青山に『伯雲』を独立開業。同年秋発表の『ミシュランガイド東京2022』で一つ星、2025年 9月に二つ星獲得。
味よりも先に届くもの——香り、温度、テクスチャー
坂本さんが献立を考える際に大切にしているのが、“状態”だという。
「わざわざ料理店に食事をしに来てくださるお客様には、絶対ご満足いただきたい。ではその満足は何が生み出すかというと、素材が上質で季節感が的確であることは前提として、料理一品ずつの“状態”が狙い通りであることだと思っています」。
たとえば、魚であれば皮目はパリッ、シャリッと感じるほど乾いた食感、かつ身はふんわりしっとりと。そうした“状態”を極めるには、どんな作業をすればいいかを常に考えているという。
そして、その“状態”を考える際にとりわけ重視しているのが香り、温度、テクスチャーだ。
「味がおいしいのは当然ですが、味よりも先に来るのがこの三つなので」と坂本さん。たしかに料理は、運ばれてきた時、箸で口に近づけた時の香りがまずあり、その後、舌に乗せた時の温度、テクスチャーがある。噛んだときに生まれる食感の印象も大きい。味は、それからだ。
このように、料理を細かく分割して理想の状態、そのために必要な工程を考える習慣は『日本料理 龍吟』の山本征治さんの元で学んだという。「妥協せず考え、試行錯誤する。そうした細部の積み重ねがお客様の感動につながる。私の料理のベースにある考え方です」。
“状態を作る”例として、『伯雲』のシグニチャーの料理のひとつである「鰹の塩たたき」を見てみよう。この料理は、カツオの時期である春先から秋にかけて提供している品。カツオの半身の皮目を炭火で焼き、薬味と共に食べていただく。狙う状態は、「皮はサクッと乾いた食感。身は生で、冷たくもぬるくもない、風味が最も強く感じられる温度」だ。
やはりポイントは皮。徹底的にサクッと仕上げるために、まずは金串で、針打ちする感覚で皮に穴を多数打つ。「皮は焼くと縮みます。細かい穴をたくさん開けておけばそれぞれの穴の周囲で皮が縮み、一箇所に力が集まって破けてしまうのを防げる。また、焼いている最中、皮下の脂が表に出る逃げ道を作ることで、カツオ自身が持つ脂で皮を揚げることになる。よりサクッとした食感となります」。
金串で素早く、かつ細かく穴をあける。早くも脂が皮に滲み出る。焼く直前の作業だ。
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