※Internet of Thingsの略。「モノのインターネット」と訳される。インターネット経由でセンサーと通信機能を持ったモノを操作したり、状態を知ったり、対話することができる。 『天地人』のオフィス。宇宙ビッグデータ米の開発により、内閣府から宇宙開発利用の推進に大きな成果や先導的な取り組みを行なったプロジェクトや企業に贈られる「宇宙開発利用大賞」で農林水産大臣賞を受賞した。
衛星データを活用した米づくり
2021年12月に発売された「宇宙ビッグデータ米」は、3社が協業して開発したブランド米だ。JAXA認定の宇宙ベンチャー企業『株式会社 天地人』は、あらゆる衛星データを用いて、土地を分析。農業ITベンチャー企業『株式会社 笑農和(えのわ)』は、水田の水位や水温をスマートフォンで管理できる、スマート水田サービス「paditch(パディッチ)」を使った米の栽培。国内最大手の米卸『神明(しんめい)』は流通を担当した。何しろ、名前のインパクトがすごい。パッケージデザインが物語る「宇宙(そら)と美水(みず)」の話を、今回は『天地人』マーケティング・広報の木村 華さんに聞いた。
「弊社ではこれまでも地球観測衛星のデータを活用した、土地評価エンジン『天地人コンパス』を活用し、キウイフルーツやアスパラガスの新規圃場の検討など、農業に関わるプロジェクトを行ってきました。今回、宇宙ビッグデータ米に使用したのは、降水量、日射量、地表面温度の衛星データ。それによって、米づくりに最適な圃場を見つけることができます。もちろん気象庁にも観測地点のデータがありますが、ピンポイントではありません。その点、衛星データはピンポイントでの測定分析ができ、土壌の性質まで分かります。ですから、気候変動で米でうまく育たなくなってしまったというような場合、宇宙から同じ条件の土地を探すことが可能になります。また、所有する土地で育ちやすい作物、品種を探すこともできます」。
まずは、『笑農和』が所有する富山県の圃場から、『天地人』の天地人コンパスを活用して、収穫量の増加が見込める、より美味しく育つ可能性のある場所を選定。さらにそのデータに、『笑農和』が開発したpaditchのデータを連結。夜間の冷たい水を何時間取り入れれば、水温に影響を与えるかを検証し、自動制御を行った。水温20~25℃に保たれて育った稲の米は、食味もよく、大きな手応えを感じたという。
「お米の美味しさにはいくつか指標があります。炊き上がった時にどれくらいふっくらしているかに関わる“タンパク値”。お米の粘りや甘味に関係する“アミロース値”、さらに“水分値”という食味値が基準になります。弊社としては初めての米栽培でしたが、大きな問題も起きず、美味しさ、収穫量ともに基準値以上の評価を得ることができました」。
「米が足りなくなる」ことへの危機感
もともとこのプロジェクトが始まったきっかけは、米栽培への危機感だったという。
「農業に関わる私たち3社が抱いている共通の危機感は、将来的にお米が足りなくなることです。日本の農業は生産者の高齢化と減少によって、今後の供給力への懸念が叫ばれています。実際に、農林水産省が行った調査では、農業就業人口は2020年に136.1万人で、これは2015年より約40万人も減ってきています。さらに、近年の地球温暖化で多発する“高温障害”によって、お米の劣化や食味の低下も懸念されています。そういったことから、圃場選びや水の管理で、いかに気候変動に対応していくのかということが、今回のプロジェクトの大きな目的になりました」。
加えて、paditchの活用で自動的に適正な水温・水量を維持できることで、ある程度人手不足を解消できるという利点もあった。こうして、将来の米不足にも対応できる高品質のブランド米づくりが見えてきた。
気候変動に対応したブランド米をつくる
2回目となる2022年は、新たに全国から圃場を探し、面積も増やして取り組む予定だ。規模が拡大した背景には、将来的な米の生産効率化と生産増加に繋がる農業施策として、今後もこの取り組みが期待できることが挙げられる。
「場所は3社で昨年のデータを見ながら圃場を絞り、現地視察をして決定します。改善点としては、前回、適正な水温が保てなかった部分があったので、確実に水温20~25℃を遂行できる体制を整えること。これは、たとえ地上センサーで水温を測ることはできても、その下の地面が冷たいとは限らないためです。高精度のデータが得られる衛星データによって、もっと品質を上げて、もっと食味をよくすることができると考えています」。
実際に栽培を担った『笑農和』からも、「従来のサービスに加えて、宇宙からの面での温度データを参照しながら、水田全体の水温を下げることなどに可能性を感じた」という声が聞かれた。
現在、ブランド米は百花繚乱の時代。農業試験場や生産者たちの努力によって、全国に美味しい米が数多く出回っている。そんな中にあって、宇宙ビッグデータ米の一番の強みは、これまで経験や慣習を頼りに行ってきた米づくりが、データに基づいて行えることだろう。環境の変化に対応した米づくりで、安定した供給が可能になれば、それこそ画期的なことだ。こうした宇宙の技術を活用した新たな取り組みは、将来的には米だけでなく、さまざまな作物に生かすことが可能になるに違いない。
2021年度、富山県立山町の圃場での収穫風景。「宇宙ビッグデータ米 宇宙と美水」は300g600円。やや小粒のコシヒカリは食感がいい。東京・人形町『米処 穂 日本橋人形町店』、『米処 益屋』での販売は終了し、現在は『宇宙の店』にて販売中。https://spacegoods.net/
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