産地ルポ これからの和食材

“ハイパー干物クリエイター”藤間義孝さんの干物|『干物屋 ふじま』

老舗が建ち並ぶ干物の聖地・熱海に、急激に名をあげている干物屋があります。その名は、『干物屋ふじま』。現在(2025年1月)、1年以上の予約待ちの人気ぶりといいます。通例や常識にとらわれない干物作りに込められた想いと、その美味しさの秘密に迫ります。

文:川島美保 / 撮影:岡森大輔
※「あまから手帖」2021年2月号の記事を加筆修正

目次


「心躍る干物を作りたい」という原動力

「干してあれば、干物。少し乱暴な解釈かもしれませんが、そこさえ押さえていれば何でもあり。すごく自由で可能性ある食品だと思うんです」。鰻やトロサーモンなどの個性的な魚種。舌を疑うほどのジューシーさを生む独自の味付けや製法の発想源を問うと、“自称”ハイパー干物クリエイター・藤間義孝さんは何の衒(てら)いもなくこう答えた。

元々、熱海で生まれ育った生粋の地元っ子。当然のように毎日食卓に上がっていた干物は、いわば彼のソウルフード。縁あって2012年、干物屋として独立する際に心に決めたのは「干物の未来を拓く、新しい道を創ること」だった。

「四、五代続く老舗が多い中、新参者の真っ向勝負では勝ち目がない。守るべきものがない僕だからできる挑戦を選ぼうと」。とはいえ遊びが過ぎるとスマートでない。魚種選びは大胆に、けれど製法はある種ストイックに。伝統的な干物造りに息づく凝縮・熟成・発酵という日本的技術をヒントに酒や塩麹の使用を閃き、あくまで和の範疇での創意工夫を心がけている。

“自称”ハイパー干物クリエイター・藤間義孝さん藤間さんは、静岡県熱海在住。知人の誘いで建築業から魚屋へと転向。地元の干物屋で約6年働いた後、縁あって『干物屋ふじま』として独立開業。独創的な干物で全国にファンを作り、購入待ちの人気店となっている。2013年に熱海市渚町に開いた干物酒場『yoshi-魚‐tei』を2020年秋に大改装。干物をフライやアヒージョなどにして楽しむ提案もしている。

アジやカマスなど地魚を推す店が多い中、あえて産地を限定せず全国各地から魚を取り寄せる姿勢を貫くのは、身の厚さや脂のりを重視した品質を維持するため。ゆえに時期によってアコウダイやカワハギなどラインナップはクルクル変わるが、それがかえってレア感があると人気を呼ぶ結果になっているというから面白い。

「僕が目指すのは、保存食ではなく嗜好品。実は僕自身が干物を楽しんでいるだけなんです」。作り手のストレートな感情が宿った、いわば作品。だから藤間さんの干物は、この上なくワクワクするのだ。


『ふじま』の干物は、ココが違う!

魚種選びや製法など、『ふじま』の干物は固定概念がなく、自由で「もっとおいしく!」の想いが込められている。

独自の魚種セレクト

脂がのったビンチョウマグロの大トロ天日干し(1切1620円)や熟成トロサーモン(潮干し1切864円、美凜干し1切864円)に、オキアミ魚醤作り花エビ天日干し(4~5尾1598円)など。最初に驚くのが、他では見られない商品ラインアップ。料理人などからのリクエストで誕生したものが多いそうだが、“干物にすることで味が昇華する素材”でなければ、二度は作らない。2020年秋に完成した最新作・国産うなぎの塩麹造り(1本3240円)は、臭み取りの難しさに一度は挫折したものの、諦めきれず再挑戦した快作。

気合の酒蔵直送素材

下味を入れる濃度低めの塩水に適度な保湿と風味付けを狙って注ぐ日本酒は、香り穏やかで旨み豊かな茨城『結城酒造』の純米酒「つむぎ娘」。美凜干しに深みを出すためには、キレよく上品な甘みがある大阪『秋鹿酒造』の純米酒「秋鹿 千秋」を用いる。塩麹造りに使う麹は、山口『長州酒造』に依頼した特注品。「干物と酒の親和性をより高めたくて」と、干物の縁が繋いだ3つの酒蔵から直送される“醸しもん”を巧みに使い分けるのは、味のためはもちろん、商品にストーリー性を持たせる意図もある。

旨みを上げる秘技少々

塩の使い方も、干物の伝統的製法である塩水漬けだけにこだわらない。脂が多いビンチョウマグロの大トロや熟成トロサーモンは、「塩水では味がぼけるので」と、直に塩を振って身に擦り込むスタイル。各々に適した時間放置して身を締め、旨みをググッと凝縮させる。
さらに、「最後の隠し味です!」と干す直前に刷毛で塗るのは、和だしと奥能登産のイカ魚醤をブレンドした特製ダレ。量はあくまで風味付け程度。「発酵と熟成を経た魚醤のコクが独特の深みを醸してくれます」。美凜干しを除くすべての干物に塗っている。

ノーマルをユニークに転換

鯖は、干物の種類としては至って一般的。「だから、あえて微細な味の違いを愉しめる商品構成を考えました」と藤間さん。トロ鯖一本開き(1080円)、美凜干し(594円)、サバの潮干し(594円)など。豪快な一本開きは、干物にすることで一層際立つ骨際の旨みを体験してほしい一心から。


『ふじま』の干物のおいしい焼き方

どんなに良い干物も、焼き方次第で台無しに。基本の網焼きに加え、フライパンで焼く方法も教えていただいた。

【グリル編】

解凍する
焼きムラの原因となるので、焼く前に自然解凍するのがお薦め。急ぐ場合は袋に入れたまま水に浸けると早く解凍できる。
予熱する
『ふじま』の干物は脂のりが良いので油は塗らない。手の平に熱を感じるくらい網を熱してから焼くと、網に身が付きにくくなる。

身から焼く
身から焼くことで、脂を適度に落としつつ表面を焼き固め、水分を中に閉じ込められる。弱めの中火で身側から8割程火を入れ、写真の様に身がぷっくり膨れてきたら頃合い。

皮目を焼く
裏返し、皮目に軽く焦げ目が付くまで中火で1~2分焼く。

【フライパン編】

水を張る
干物を事前解凍するのは網焼きと同じ。アルミ箔を敷いた下に水80㎖を注いで蓋をし、中火にかける。
蒸し焼く
蒸気が出てきたら身を下にして干物を入れ、中弱火で8割火を通す。保湿しながら焼くことで身がふっくらと仕上がる。

裏側を焼く
蓋を開けて裏返し、そのまま中火で1~2分焼く。美凜干しは焦げやすいので、脂が出てきたら弱火に替える。

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