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船上で血抜き&神経締めした「若狭ぐじ極」。身のキレイな旨みに瞠目!

2020年に誕生した、若狭ぐじの最上級ブランド「若狭ぐじ極」。その味や特長を知ってもらいたいと、2月下旬、福井県農林水産部水産課が勉強会を開催しました。場所は、「ぐじの酒焼き」を名物とする京都『一子相伝なかむら』。集まったのは、京都の有名店の店主や若主人たち。4品のぐじ料理を通して、その魅力が炙り出されました。

文:阪口 香 / 撮影:ハリー中西

目次


「若狭ぐじ極」とは?

若狭ぐじとは、アカアマダイの和名を持つアマダイ科の魚で、厳密な鮮度管理基準をクリアしたブランド魚。
釣り、もしくは延縄(はえなわ)漁で獲り、5℃前後に調整した海水入りの保冷ボックスで保管。500g以上で鮮度が良く、姿形が美しいことが条件だ。出荷時には専用ラベル(水揚げ港と船名を明記)を張り、魚体が直接氷に触れないよう工夫した箱に入れ、ビニールをかぶせて乾燥を防ぐ。まさに、手塩にかけた…と言いたいところだが、「今回紹介する『若狭ぐじ極』は、その上をいく手間をかけた逸品です」と福井県農林水産部水産課の中嶋 登さんは語る。

若狭ぐじが棲むのは、若狭湾の水深100m前後の海域。主に嶺南(れいなん)の小浜(おばま)、敦賀(つるが)、高浜(たかはま)で1年中揚がる。名の由来は、身に甘みがあることから「甘鯛」、横から見ると頭巾をかぶった尼僧に似ていることから「尼鯛」と呼ばれるようになったとか。また、主に福井県や関西で「ぐじ」と呼ばれるのは、角ばった頭の形から「方頭魚」「屈頭魚」(共に「くずな」と読む)の字を当てられ、訛ったことに由来するという。

「若狭ぐじ極」は、2020年に誕生した、若狭ぐじの最上級ブランド。若狭ぐじの鮮度管理基準を満たした上で「800g以上で身が厚いもの」さらに「船上で血抜き・神経締めしたもの」が条件となる。もちろん、目や内臓が飛び出ていないか、ウロコが外れていないかなど見た目にも細心の注意を払い、美しいものだけが「極」タグを付けられ、出荷される。

左/「若狭ぐじ極」の勉強会は、京都『一子相伝なかむら』にて行われ、8名の料理人が集まった。右/「若狭ぐじ極」の特長を熱く語る福井県農林水産部水産課 主査の中嶋 登さん。


船上での血抜き・神経締めの効果

そもそも魚の締め方には野締めと活け締めがあり、活け締めの一つとして神経締めがある。
野締めは海水氷で締める方法で、魚を窒息、ショック死させるもの。活け締めは、魚が生きた状態で庖丁・手鉤(てかぎ)などで締める方法。神経締めは、庖丁などを入れた後、背骨近くを通る神経にワイヤーなどを通し、神経を壊す方法だ。効果として、魚が持つうま味成分のもと(ATP:アデノシン三リン酸)の分解速度を遅らせ、鮮度を保ち、うま身成分(IMP:イノシン酸)を高い濃度で持続させることができる。

神経締めの前後に魚の尾を上に持ち、頭を海水に浸けて血を抜くのが血抜き。水揚げ後、速やかに行われることで身に血が回らず、生臭くなるのを防ぎ、色の透明感を保つのだ。

料理を担当した『一子相伝なかむら』六代目・中村元計さん。創業は1827年。ぐじや鯖、カレイなどの若狭物を鯖街道を通じて京都に運び、御所や公卿衆に供することを生業としたことに始まる。戦後に現在の場所へ。中村さんは2021年に龍谷大学大学院農学研究科博士後期課程を修了し、博士学位(食農科学)を取得している。

『一子相伝なかむら』では、塩をして3日おき、酒を振りながら焼く「ぐじの酒焼き」が名物。焼き上げた後、さらに燗酒をたっぷりと。身を食べた後、残った皮や骨に昆布湯をかけ、吸い物にしてぐじを余すことなく味わい尽くす。6~8名であれば、写真のように一尾で焼き上げ、切り分けて提供。他、白味噌の辛子雑煮も名物。

今回は中村さんが「『極』のポテンシャルが分かりやすいよう、シンプルに生・蒸し・揚げ・焼きで味わっていただきます」と提案。まずは前日に水揚げされたものに、塩で余計な水分を抜いた造りから。

調理場を見学した料理人たちは驚きの声を漏らす。中村さんが庖丁を入れ、身を開くとアカアマダイとは思えないほど“白い”のだ。

左/背開きにしてエラを取り、背骨の裏側に切り込みを入れて流水で洗うと、身の白さが際立つ。

試食をしたのは、左より日本料理『瓢亭』髙橋義弘さん、フランス料理『Droit(ドロワ)』森永宣行さん、フランス料理『Restaurant MOTOI』前田 元さん、フランス料理『真白』小霜浩之さん、日本料理『たん熊北店』栗栖熊一さん、日本料理『游美』小長谷(こながや)友幸さん、日本料理『菊乃井』村田知晴さん、『魚三楼』荒木裕一朗さん。

前田:
この造り、いい意味で“ぐじくささ”がないですね。とてもキレイな味!
小霜:
そもそもぐじを造りで食べたことがなかったですが……これなら造りで食べる意味がありますね。
髙橋:
味がしっかりしてて、正直、添えたスダチやワサビ、大葉もいらないと感じるほど。塩だけで充分。厚みがある部分はねっちりしてて、食感もいいです。

続いてぐじの蒸し物。5日前に水揚げされたものを開いて塩をし、当日朝に骨を外したものだ。

少量の醤油で調味した昆布だしで蒸した「極」と椎茸。レモンを添えて。

中村:
「極」はとにかく“持ち”がいいですね。塩をしておいたら、1週間近く経ってもおいしくいただける。
髙橋:
下に溜まった蒸し汁がクリアですね。本当にいいものじゃないと、こうはいかない。
村田:
蒸すともっと崩れやすいものかと思うのですが、これはしっかり塩を打って脱水させている、ということでしょうか?
中村:
そうやね、しっかりめに。大事なのは頭や胴体、さらに部位ごとに塩を加減して打つこと。そのへんは、うちが取り引きしてる錦市場『鮮魚 木村』さんに任せてるんやけど。

江戸時代中期から続く『鮮魚 木村』に勤める汐山和久さん。

汐山:
はい、「極」は通常のものに比べると脂も多いので。厳密ではないですが、おそらく1.5~1.7%量は塩を打ったと思います。鮮度・脂・水分などを見ながら加減します。
荒木:
想像以上に多いですね! 勉強になります。
中村:
きちんと脱水しないと身がどろん、となってしまうからね。特に焼く場合は串も打たれへん。
中村:
そうやね、しっかりめに。大事なのは頭や胴体、さらに部位ごとに塩を加減して打つこと。そのへんは、うちが取り引きしてる錦市場『鮮魚 木村』さんに任せてるんやけど。

ほな次は揚げ物と焼き物を食べてもらいます。皮と身の間がおいしいから皮を付けたまま揚げてます。焼き物は頭やね。骨や皮は残しておいてください。あとで昆布湯をかけて、そのだしも味わってもらいますから。

左/衣を付けて揚げた「極」。歯を入れた瞬間、濃縮した旨みが弾ける。右/顔周りの脂が多い部分は絶品。

前田:
揚げても焼いてもおいしいですね。
懸念は、ぐじは頭が大きいですが、フランス料理ではシンプルに焼いてそのままお出しすることができないこと。そこを考えられたら…と思いますね。
小霜:
同感です。特に外国人の方は食べにくいでしょうしね。
うちは10席と小さいので、目の前でさばいて、頭を焼いて身を崩し、スープを飲んでもらう…というのもアリかなとは思いますが。

森永:
頭をどう使うかは、フランス料理として課題ですね。
でも、生から順にいろんな調理でいただいてて、食べてるうちにどんどんおいしくなる。このクリアな味わいはすごいと思いました。獲れたところからずっと手をかけているのが分かります。
前田:
京都と若狭は鯖街道で繋がり、若狭もんが入ってきたという歴史がある。その文化は、フランス料理であっても京都で店を構えている限りは繋いでいきたいと思います。

勉強会には「若狭高浜漁業協同組合」業務課 主任の上山幸治さんも参加。

上山:
みなさま、嬉しいご意見をありがとうございます。 僕から一つ質問なんですが、関西は食感でいうとコリコリ感、関東は熟成したねっちょり感を好まれると思うのですが、熟成と共に上がるうま味より食感を優先するなら、神経締めまでせず、血抜きだけで充分、ということもあり得るのでしょうか。
というのも、「極」は漁師さんの負担が大きいのですが、まだその価値が浜値に反映されていない感じでして。高浜では現状、「イベントで使いたいから、『極』を獲ってきてください」という、「受注生産」みたいな感じなんです。
「極」のブランドはもちろん大切にしたいのですが、漁師さんの現状を考えると、漁にかける時間をより長くするため、血抜きだけして出荷することも可能性としてあるのかな、と。
荒木:
後味の甘みは、神経締めした「極」ならではなのかなぁと思いました。
小長谷:
丁寧な処理が効いてて、クリアな味。雑味がないから食べ続けても疲れない。脂は九州のものに比べると少ないですが、そこも上品でいいと思いました。
栗栖:
私も造りの味わいは他にないので、神経締めの必要があるのかなと思いました。昔は若狭から京都まで時間がかかるから食べられなかったと思いますが、時代を経て鮮度のいいものが食べられる。歴史を大切にしつつ、今だからこそ食べられる味わいも広まって欲しいな、と思いました。

髙橋:
船上の血抜き・神経締めという工程と、ここまで運ぶ保存が丁寧だからこそのピュアな味わいですよね。
ただ、うちでは造りは鯛と決まっているので、ぐじを使うなら火入れした料理。それなら、血抜きしたものでもいいのかな、とも思います。
「極」の量が獲れないのであれば、血抜きしたものと一緒にいただく、というのもアイデアとしてあるかもしれません。
上山:
ある程度の量をお渡しできるなら、漁師さんにも受けていただけるかもしれません。ご意見をありがとうございます。
中村:
ほしくても流通がうまくいかないと、というのはありますね。

初めて「極」を使った時は、身が活かってる状態でした。アマダイの身が活かってるって、ホンマに珍しい。板前で「この『極』は…」と話をしながら提供できたらすごく値打ちがあると思います。

京都で使うのもいいけど、「極」は観光客を呼ぶ宝にもなりうる。「福井のこの店では『極』の鮨が食べられる」ってなったら、目当てに旅をする人もいるかもしれない。数が少ないからこそ、大切にすべき資源ですね。

漁獲量・流通の課題を残しつつも、「極」は料理人に「使いたい!」という意欲をかきたてる食材。興味がある方は、ぜひ福井県農林水産部水産課(0776-20-0436)にお問い合わせを。

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