産地ルポ これからの和食材

植物性の“もの足りない”を払拭した「MIRA-Dashi®(ミラダシ)」

2025年4月から、いよいよ「大阪・関西万博」がスタートします。それに伴い、多様な食文化を持った外国人が訪れることも予想されます。なかでも宗教上の決まりや菜食主義など動物性食品を口にしない人は多く、欧米の他、最も多いインドでは20~30%の人が菜食主義と言われています。今回紹介する「MIRA-Dashi®」は、植物性食材を使用した「だし」商品。「制約がある人もない人も、食べておいしく、満足感が得られるものを作りたい」と「不二製油株式会社」が開発したものです。1月23日に行われた試食会の模様から、その魅力に迫ります。

文:阪口 香 / 写真提供:「不二製油株式会社」

目次


あらゆる制約を払拭し、満足感ある料理を提供できる

「植物性油脂」と「大豆たん白」を主軸に事業を展開する「不二製油」。私たちが普段、口にしているチョコレートやチョコレート用油脂、ホイップクリームや製菓・製パン用のマーガリン、近年注目されている代替肉の大豆ミートなど、さまざまな食品研究・製造を行っている。

2023年度より新規事業として創設した「風味基材事業」では、植物性食材を使いながらも、そのネックでもある「もの足りなさ」を解消し、「満足感」を生み出す技術「MIRACORE®」を開発。第一弾の商品として、畜肉系や魚介系の風味を感じる植物性の「だし」商品「MIRA-Dashi®」を発売した。

2025年1月23日には「MIRA-Dashi®」を使った料理をビュッフェ形式で試食できるイベント「オールパーパス・ビュッフェ・エキシビジョン」が開催され、多くの飲食関係者の注目を集める会となった。

会場は、大阪・中之島『AWAKE』。「不二製油株式会社」代表・大森達司氏、風味基材事業部長・齋藤 努氏(左上・右)の他、「株式会社ジオード」代表・門上武司氏、立命館大学 多感覚・認知デザイン研究室・和田有史教授、料理人は大阪の日本料理『楽心』片山心太郎氏、ラーメン『龍旗信(りゅうきしん)』松原龍司氏、東京のレストラン『NO CODE』米澤文雄氏、2月より宮城でオーベルジュ『風の沢 art&cuisine』を営む高山仁志氏が登壇した。

「オールパーパス」とは、「All」「Purpose(目的)」を組み合わせた造語。齋藤氏は、「訪日観光客の増加や食の多様化、人手不足などを解決すると同時に、日本の食文化を広めるきっかけになれば」と話した。「MIRA-Dashi®」を使えば、ヴィーガンやベジタリアンなど動物性食品に制約がある人もない人も同じメニューを注文できる。さらに、溶かすだけで料理のベースとして活躍するので、光熱費や人件費の削減、フードロス対策にもなるのだ。


そもそも「満足感」ってなに?

イベントでは、植物性食品を食べた時の「もの足りなさ」、動物性食品の「満足感」についても言及された。

味、食感、香り、見た目。これらは植物性・動物性どちらの食品にも多様なバリエーションがある。ところが、動物性のだしやエキスがないと、「ボディがない」「水っぽい」「薄っぺらい」「抜けた感じ」「コクがない」「厚みがない」(「不二製油」調べ)など、「もの足りない」と感じる人が多数いるのだ。

では「満足感」は、どこからくるのか? 「不二製油」では、“満足感”がある動物性食品のほとんどに油脂とたんぱく質が含まれることから、2つの要素が必要であること、その上で、次の3つも重要であると考え、商品を開発した。

①「動物性食品っぽい」風味を感じること
肉っぽさ、コンソメスープっぽさ、カレーっぽさなど。「動物性食品っぽさ」が特有の満足感に繋がるのではないか。成分による味わいの表現に加え、“人の感覚”を大切にした。
②油脂とたんぱく質を同時に感じること
油脂とたんぱく質、それぞれ単体ではなく、乳化させた時に生じる「味わいの厚み」そして「持続」が動物性食品らしい満足感に寄与するのではないか。
③動物にはない余計な風味を感じさせない
「動物性食品っぽい」風味があれば、「植物性食品っぽい」風味もある。そこで、植物性食品の特徴的な香りや味を感じさせない工夫を施した。


「MIRA-Dashi®」を使った、料理のバリエーション

現在、リリースされているのは「チキンタイプ」「ビーフタイプ」「カツオタイプ」「白湯(パイタン)タイプ」の4種。「貝タイプ」「エビタイプ」が開発中で、今後発売される予定だ。

「MIRA-Dashi®」は高濃度のペーストまたは液体タイプで、希釈するとだしのように使える。素材は天然素材から抽出、組み合わせて作られている。

イベントでは、登壇した4名の料理人が「MIRA-Dashi®」を使った料理を披露。

日本料理『楽心』の片山心太郎さんが提供した「黒米と韓国海苔おむすび-貝スプレー」では、「MIRA-Dashi®」の「チキンタイプ」と「カツオタイプ」を合わせて炊いた米をおむすびにし、「『貝タイプ』は直接添付した方が香りの余韻が長く、海苔との接着も強化できる」とスプレーで吹きかけた。
「蓮根のいとこ煮-コンソメ仕立て」では「ビーフタイプ」に昆布と水、ドライトマトを合わせて60℃で1時間半程度煮ただしを合わせ、うま味の相乗効果も狙った。「ベースの味わいはもちろんおいしいのですが、組み合わせることでバリエーションを生み出せます。料理人としてはその方が個性が出せて楽しいですね」と語った。
「けんちん包み-ミラクルだれ添え」では、「MIRA-Dashi®」の「チキンタイプ」を粕汁にし、けんちん地を合わせてシュウマイに。さらに、「ビーフタイプ」にミツカン酢を合わせた漬けダレを添えた。「だし」としてだけでなく、合わせるものによっては調味料にも変身させることができるのだ。

左上/大根のけんちん包み-ミラクルだれ添え。右上/黒米と韓国海苔おむすび-「貝」スプレー。左下/大根の風呂吹き-チョコレート味噌。右下/蓮根のいとこ煮-コンソメ仕立て。

『No Code』の米澤文雄さんは、「おにぎりジャージャーミート」の大豆ミートに「MIRA-Dashi®」の「ビーフタイプ」で下味を付けることで本物の肉のような味わいを出したり、「大根のピカタ デミグラスソース」では「ビーフタイプ」にシェリー酒やメープルシロップ、15年熟成のバルサミコ酢、3年熟成の醤油、黒オリーブを加えるなどして複雑なデミグラスソースを作りだした。

左上/大根のピカタ デミグラスソース。右上/BBQカリフラワー。左下/ジャガイモのポタージュ ピスタチオデュカ添え。右下/おにぎりジャージャーミート。

松原龍司さんが営む『龍旗信』は、貝や鶏などから取ったスープに塩ダレを合わせた塩ラーメン専門店。「MIRA-Dashi®」の「貝タイプ」「チキンタイプ」「カツオタイプ」を合わせ、「完全野菜の塩ラーメン」など3種のラーメンを提供。『風の沢 art&cuisine』の高山仁志さんは「MIRA-Dashi®」の「エビタイプ」を使い、濃度と香ばしさを付けた「エビ風味の植物性ビスクスープ」や、「チキンタイプ」と「白湯タイプ」を使った「豚骨風味の植物性スープカレー」など、濃厚でコクのある料理を披露した。

『龍旗信』松原龍司さん作のラーメン。左上/完全野菜のぶっかけ出汁ラーメン。左下/完全野菜の味噌ラーメン shrimp flavor。右/完全野菜の塩ラーメン shellfish flavor。

『風の沢 art&cuisine』の高山仁志さん作の料理。左/エビ風味の植物性ビスクスープ。右/豚骨風味の植物性スープカレー。

和食、フランス料理、ラーメン、多国籍料理。その他、幅広い料理に使える「MIRA-Dashi®」、そして「MIRACORE®」の技術に、今後も注目していきたい。


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