曾祖母が作る“浅漬け”を守る
へしことは、塩漬けした青魚(主に鯖)を糠漬けにした伝統的な保存食。その始まりは、寒さ厳しく海も荒れがちな冬を無事に越すための知恵。福井・若狭(わかさ)や京都府丹後半島など日本海沿岸の地域で昔から愛されている発酵食品の一つです。
「ウチのへしこの特徴は、塩分濃度の低さですね」と話すのは、製造担当の兄・今出(いまで)昌宏さん。
へしこは、“ベタ付け”といわれる塩に埋めた状態で、長ければ2週間程度漬け込んで脱水。塩抜きをしてから調味した糠床に漬け、身が濃いオレンジ色に変わるまで半年近く熟成させるのが一般的だ。
けれど、ここでは塩は多めに振る程度で、塩漬けもわずか1日だけ。熟成期間も約1カ月と短く、製品段階での塩分濃度は4%。通常のへしこの半分しかなく、賞味期間も冷蔵3カ月と短めだ。
「塩分濃度が低くて塩漬けも熟成期間も短いから、鯖の身にフレッシュ感とジューシーさがある。この浅漬けならではの美味しさが、ウチの自慢なんですよ」と販売を担当する弟の健太さん。
近年の健康志向を受けての減塩シフトかと思えば、違う。詳しい製法は企業秘密だが、今出兄弟2人の曾祖母にあたる創業者が、70余年も前から始めている伝統の味なのだ。
型にはまらない品揃え
曾祖母の代と異なるのは、定番の鯖以外のへしこ。市場を広げるために、一尾丸ごとの姿形を残したノドグロのほか、鮭、イワシ、秋口にはサンマも仕込む。
「ノドグロは山陰エリア自慢の高級魚。地方色を出すために選びました。鮭は若い世代向けに、イワシは気軽さ・食べやすさを意識しています」と狙いを話す健太さん。
「脂ののりの良さだけでなく、ちょっとした風味の相性が大事。鯛は繊細な風味が糠に負けてしまい、大失敗でしたね」とは昌宏さん。青魚に限らず、思い浮かぶだけの魚種を試した開発時の苦労を懐かしむ。
鯖のへしこを糠床ごと生かしたパスタソースやラー油漬けなど、へしこをアレンジしたユニークな商品も、すべてここ数年の間に兄弟で考えたものばかりだ。
へしこの現代的アレンジ“旨米(うまい)漬け”
その豊富な商品群の中でも特に注目したいのが、新シリーズ「旨米漬け」だ。
見た目はへしことほぼ同じだけれど、糠床が違う。
ベースは、丹後コシヒカリの米糠。そこに塩の他、乾燥米麹、白ワイン、ヨーグルト、ナンプラーと、4種の発酵食品・調味料をプラスして発酵感を強めつつ、複雑味のある味わいに。さらに昆布で旨みを底上げし、陳皮(温州ミカンまたはマンダリンの皮を乾燥させたスパイス)で爽やかな香りを添えている。最終的な塩分濃度は従来品の半分の2%に調整。進みが早い発酵・熟成をベストな状態で止めるために、冷凍販売に限定している。
「日本酒との相性をキープしつつ、ワインにも合うさりげない洋テイストに仕立てました。減塩志向のへしこファンにもご好評いただいています」と健太さん。
“旨み”豊かで“米麹”を使用した糠床が、「旨米漬け」の由来だ。
糠ごと味わうのが“HISAMI流”
『へしこ工房HISAMI』のへしこと旨米漬けは、その食べ方にも特徴がある。
それは、“糠を付けたまま焼く”こと。塩分濃度も熟成期間も短いため、通常のへしこと違って生食は不可。塩辛い米糠は洗い流していただくのが一般的だけれど、「一度は焼けた米糠も召し上がってみてください」と今出兄弟は話す。
「特にお薦めは旨米漬けの方。塩鮭とほぼ同じ塩分濃度なんですよ。実は今、旨米漬けの糠床を生かしたふりかけも商品開発中です」。
赤唐辛子が程よく利いたピリ辛でマイルドな旨みの米糠は、酒のアテにも抜群。へしこの可能性はまだまだ広がっていきそうだ。
大きな看板が目印。すぐ側の坂の上には、先代にあたる父・龍さんが気軽に間人の魚を食べてもらいたいと1993年にオープンした『地産食堂HISAMI』がある。自慢の海鮮丼のほか、へしこ定食も楽しめる。
【住所】京都府京丹後市丹後町間人1820
【電話番号】0772-75-8080
【営業時間】9:00~17:00
【定休日】水曜、第1・3火曜(祝日の場合は営業、翌日休)
【公式サイト】https://hisami-kyoto.jp/
【Facebook】https://www.facebook.com/heshiko.hisami/?locale=ja_JP
【Instagram】https://www.instagram.com/hisami.kyoto/
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