大阪料理会

【レシピ付き】料理屋のすり身vol.1カブのペーストでなめらかさを創出

3人の会員がそれぞれ料理を提案し、発表する大阪料理会。今回のテーマは、料理屋のすり身。東天満『懐石料理 雲鶴(うんかく)』の島村雅晴さんは、王道の鱧を使った大阪らしい「あんぺい」をお椀に仕立てました。すり身屋を視察した経験を生かした解説に会員は聞き入り、なめらかさを出すためにカブのペーストを加えるというアイデアに感心しきり。塩を加えるタイミングや温度など、島村流すり身のロジックにご注目を。


※大阪料理会 公式サイトhttps://osakaryourikai.com/

聞き書き:中本由美子 / 撮影:福本 旭

目次

島村雅晴さん(大阪・東天満|『懐石料理 雲鶴』店主)

1977年生まれ、和歌山県出身。北新地『北瑞苑』で9年修業し、2005年に28歳で独立。7年後、東天満に移転。古文書などを読み、日本の古き佳き文化を独学する一方で、科学的アプローチも取り入れる、柔軟で探求心旺盛なお人柄。培養肉の研究開発ベンチャー「ダイバースファーム」、養殖を支援し、海里の環境保全に努める「RelationFish」などを共同経営。

『懐石料理 雲鶴』島村雅晴さん作
あんぺいと蕪の煮物椀

私たち日本料理人は、真薯や蒸し物など、すり身を多用します。市販のものを使うことも少なくないと思いますが、うちではできる限り手作りしています。

少し前、すり身屋さんを視察する機会がありました。その時、教えていただいた製法は、鱧ならば血抜きせずに身を使い、何度も洗ってから水気を切り、カッターで刻んで2時間ほど石臼で摺り続けるというもの。なるほど、大層なめらかなすり身でした。

身は洗えば洗うほど弾力が増すそうです。でも、風味は流れてしまいますよね。
魚本来の旨みや香りを保持しながらも、なめらかなすり身を自家製するためにはどうしたらいいか? 今回は料理屋のすり身をテーマに料理を考えてみました。

自家製すり身は、塩と温度がカギ

以前、WATOBIの連載「料理理科」で、鱧のすり身の実験をしました。この時、なめらかなすり身にするためには、塩を先に加え、温度を上げないことが重要だと改めて学びました。

そこで今回は、鱧を骨切りより3倍くらいの幅でざっくり刻み、塩をまぶして10分ほど冷蔵庫において馴染ませました。こうすると塩溶性のたんぱく質が溶けて、加熱した時に弾力が生まれます。塩分は4%にするとより弾力が出るのですが、塩辛くなりすぎるので2.8%にしています。

一気にフードプロセッサーにかけると、摩擦熱で身の温度が上がるので、200gずつ分けました。すり身は温度が上がると、結束力が弱まってパサついてしまうので、フードプロセッサーにかけるのは3~4分。鱧の身をしっかり冷やしておくことも大事です。

あえて鱧真薯とは謳わず、料理名は大阪らしく「あんぺい」としました。関東でいう「はんぺん」のことです。「あんぺい」には昔から鱧を使います。ちなみに、鱧皮は霜降りしてから素揚げし、さっと煮ておきます。これをすり身で包んで椀種に。残ったアラは、臭みを取るために軽く焼いてから昆布と共に煮出して鱧だしを取り、吸い地にしています。大阪料理ならではの、丸ごと活け鱧を使ったお椀です。

osa0032-1b

カブのペーストで、すり身をなめらかに

フードプロセッサーですり身を作ると、カットしながら身を細かくするため、どうしてもざらつきが出ます。すり鉢や石臼を使えば、すり潰すことで粒子が細かくなり、それがなめからさに繋がります。

そこで今回は、カブの皮を活用したペーストを加えることで、なめらかさを創出。加熱すると、ふわっとした食感に仕上がります。卵白を加えるやり方もありますが、ふわっと感は出るものの、加熱した際に少しモロッとした舌触りになるので、私の好みではないんです。

このカブ皮のペーストをすり身と同割で合わせ、すり鉢に移して、昆布だしを加えつつ1時間かけてすり合わせ、弾力を出します。なめらかに仕上げたかったので、すり身の10%量の浮き粉を加えました。

このペーストは、いろんな野菜で応用できます。ナスでもいいし、カボチャでもいい。野菜を使うと季節感の表現もより豊かになります。すり身の魚臭さをマスキングし、風味も良くなるので、我ながらいい発見だったな、と思っています。

osa0032-1c左は、鱧の上身に2.8%の塩を加え、フードプロセッサーにかけた状態。真ん中左からカブの皮の塩茹でと、そのピューレ。一番右が、すり鉢で鱧のすり身・カブのピューレを合わせ、昆布だし・浮き粉を加えてすりのばした状態。

吸い地の味の決め手は「超うすいろしょうゆ」

鱧の骨から取っただしを吸い地に仕立てますが、味付けは塩とヒガシマル醤油さんの「超うすいろ醤油」を使っています。

白醤油と同じくらい色は淡いのですが、白醤油が小麦を主体にしているのに対し、大豆と小麦はほぼ同量。淡口醤油の醸造技術を生かして造っているため、味も香りも豊かです。
今回のように、鱧やカブなどの素材の白さを生かして仕立てるお椀には、とても向く醤油だと思います。

osa0032-1d会員のすり身への関心は高く、島村さんへの質問はなんと1時間近くに及んだ。カブのペーストを加えるというアイデアにも注目が集まり、「なめらかで、旨みの高いあんぺいだった」と感心するコメントが多かった。ヒガシマル醤油による「超うすいろしょうゆ」と白醤油の解説もあり、会員は味を比べて理解を深めていた。

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