和食を科学する料・理・理・科

だしの多様性vol.1カツオ鯖だし

今回から4回にわたってお届けするテーマは、だしの多様性。江戸前の蕎麦の名店『総本家 更科(さらしな)堀井』の堀井良広さんが、料理に向くカツオ鯖だしのアレンジに挑みます。昆布のうま味はかなり控えめで、カツオ節の風味が際立つ同店のだしを、まずは徹底分析。3Lのだしを15分で引きますが、初めの5分は沸騰を保ち、残り10分は弱火に。この抽出法の意味を、2つの実験で農学博士・川崎寛也先生が解き明かします。

文:中本由美子 / 撮影:綿貫淳弥

目次

堀井良広さん(東京『総本家 更科堀井』日本橋高島屋店店長)

1996年生まれ。実家は、寛政元(1789)年に創業した江戸前蕎麦の名店『総本家 更科堀井』。長男は経営、次男の良広さんは料理の道に。立命館大学を卒業後、22歳で京都の料亭『菊乃井』に入店し、日本料理を学ぶ。サラリーマンを経て、2022年に『更科堀井』に入店。翌年、日本橋高島屋店の店長に。明るくポジティブで、研究熱心な29歳。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)、「日本料理大全シリーズ」(日本料理アカデミー)。

昆布のうま味が控えめな江戸前の蕎麦屋のだし

堀井良広(以下:堀井)
僕は京都の料亭『菊乃井』さんで修業させてもらって、東京に戻って実家の『総本家 更科堀井』に入店しました。日本料理店と蕎麦屋の違いもありますが、関西と関東では、だしがまったく違いますね。
川崎寛也(以下:川崎)
だし素材は何を使いますか?
堀井:
昆布と厚削りのカツオ節、鯖節です。そこに2種類の醤油とてんさい糖、かえしで味を付けたものが、かけ蕎麦用のつゆ。うちでは、かけつゆを料理のベースに使うことが多いんですよ。

ryo0090a今回はキッチンスタジオにて撮影。

川崎:
麻布十番の本店では蕎麦会席もやってるし、日本橋高島屋店でも面白い一品を揃えてましたね。
堀井:
今回は、かけつゆのだしを改めて分析してみたいんです。『菊乃井』さんでは、昆布とカツオ節でしっかりとしただしを引いておられましたが、うちは昆布をそれほど使わないので。
川崎:
日本料理のだしは、昆布のグルタミン酸とカツオ節のイノシン酸のうま味の相乗効果を狙ったもの相乗効果が起きると、グルタミン酸とイノシン酸をそれぞれ単体で味わうよりうま味を強く感じます
堀井:
うちはカツオ節と鯖節の味が強いので、グルタミン酸のうま味は醤油で補っています。
川崎:
まず堀井さんのだしの引き方を見せてください。

『更科堀井』のかけ蕎麦用のだし

ryo0090b『総本家 更科堀井』のだし素材。通常は水22Lでだしを取るが、今回は水を3Ⅼに。昆布4g、厚削りカツオ節57g、鯖節48gを使用。

ryo0090c水に昆布を加えたら約10分煮出し、沸騰直前に昆布を引き上げる。昆布だしの重量は2700gだった。

川崎:
昆布のグルタミン酸は水溶性なので、水出しでも時間をかければ昆布だしが引けます60℃で1時間抽出が最もグルタミン酸量が多いという研究結果もあって。堀井さんのだしは昆布のうま味の抽出時間がかなり短いですね。
堀井:
僕は東京育ちなので、昆布の味が強いのは苦手なんです。
川崎:
えー、そうなんですか? では、味見しますね。香りはありますが、やはりうま味はかなり淡い。こんな昆布だしもあるんですね…。カルチャーショックです(笑)。
堀井:
では、カツオ節と鯖節を砕いて加えますね。

ryo0090d

川崎:
砕くとカツオ節と鯖節の表面積が増えるので、抽出効率が上がりますね。
堀井:
では、沸騰した昆布だしで5分煮出します。火加減はずっと強火です。

ryo0090e沸騰をキープしながら箸でかきまぜ、アクを取り除く。

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