和食を科学する料・理・理・科

夏向きの穴子の新作ダレ

脂のりの弱い小さめの穴子に向くタレをテーマに実験を重ねたシリーズも今回が最終回。夏向きの古い仕事「穴子のあっさり煮」に合わせる2種のタレを、名古屋の寿司店『山の井』の嶋 広幸さんが完成させます。一つは“不均一な乳化”を狙った青柚子のタレ。もう一つは、橘(たちばな)オイルで乳化させた煮ツメ。最後に農学博士・川崎寛也先生が、全4回の実験を振り返り、乳化の可能性を示唆します。

文:中本由美子 / 撮影:間宮 博

目次

嶋 広幸さん(愛知・名古屋『山の井』店主)

1964年生まれ。京都の桂で育ち、実家が寿司屋だったことから寿司職人を目指す。東京『纏(まとい)寿司』(閉店)などを経て、『銀座 久兵衛』で腕を磨くこと10年。名古屋『なだ万』で寿司カウンターに立ち、2006年、『すし覚王』の料理長に。日本料理人の親方と共に、2019年、寿司屋らしい料理も楽しませる『山の井』を開店。端正な職人仕事と折り目正しい接客にファンが多い。勤勉で、柔軟性に富んだお人柄。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)、「日本料理大全シリーズ」(日本料理アカデミー)。

【番外編】レアな煮イカに合う乳化ダレは?

嶋 広幸(以下:嶋)
前回の不均一な乳化ダレには、驚きました。乳化は均一さや安定させることが大事な仕事だと思っていたので…逆転の発想ですね。
川崎寛也(以下:川崎)
青柚子の不均一な乳化ダレを使って、改めて穴子のあっさり煮を仕上げていただけるんですよね?
嶋:
はい、すぐにお作りします。ですが、その前に。前回の【実験1】の黄身穴子だし醤油の乳化ダレの使い道を思い付きまして。煮イカにとても合うと思うんですよ。ちょっと召し上がってみませんか? 三河湾でこの時季(4月末)に揚がるダルマイカと呼ばれる子持ちの小さな剣先イカです。

ryo0089aタレは、卵黄1個と煮切り醤油を同割にし、穴子の煮汁と太白ゴマ油を小さじ1ずつ加えて乳化。穴子の煮汁は、焼いてから干した頭と中骨を加えて煮出したもの。

川崎:
このイカ、めっちゃ美味しいです! 火が通っているのにレア感があって。素晴らしい火入れですね。
嶋:
以前、「イカを歯切れよく煮るためには?」という記事がありましたでしょう。あの55℃で5分の火入れを参考にしているんですよ。 90℃でさっと加熱して卵巣や精巣に火を入れた後、65℃以下の煮汁で8分ほど加熱しています。
川崎:
黄身穴子だし醤油の乳化ダレが、子持ちのレアなイカとよく合ってます。そうか、鶏の卵とイカの卵の共演ですね! どちらもねっとり舌に絡みつきます。これはお酒が欲しくなる(笑)。
嶋:
実はもう一つ、合いそうなタレがあるんですよ。前々回で実験した煮ツメの乳化ダレです。橘(たちばな)のフレーバーを付けたオリーブ油バージョンが一番いいと思うので、そちらも召し上がってみてください。

ryo0089b煮ツメ20gに橘オイル5gを合わせて乳化させたタレをかける。

川崎:
これは、すごい! めっちゃ美味しいです。濃厚なタレと煮イカの持ち味が拮抗しています!
嶋:
この橘オイルの乳化煮ツメも、あっさり煮に合うと思いませんか?
川崎:
あぁ、いいでしょうね! ぜひ食べてみたいです。

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