和食を科学する料・理・理・科

だしの多様性vol.2焼き海苔だし

江戸前の蕎麦の名店『総本家 更科(さらしな)堀井』では、かけつゆを料理の調味に活用しています。そのベースとなるのが、カツオ鯖だし。「うちは昆布のうま味が控えめで、カツオ節の風味が豊かです。昆布とは違う素材でグルタミン酸を補い、うちのだしの可能性を拡げたい」と、この名店の次代を担う堀井良広さんは話します。そこで、農学博士・川崎寛也先生が注目したのは、焼き海苔。驚くほど味わい深い焼き海苔だしのうま味の相乗効果を検証します。

文:中本由美子 / 撮影:綿貫淳弥

目次

堀井良広さん(東京『総本家 更科堀井』日本橋高島屋店店長)

1996年生まれ。実家は、寛政元(1789)年に創業した江戸前蕎麦の名店『総本家 更科堀井』。長男は経営、次男の良広さんは料理の道に。立命館大学を卒業後、22歳で京都の料亭『菊乃井』に入店し、日本料理を学ぶ。サラリーマンを経て、2022年に『更科堀井』に入店。翌年、日本橋高島屋店の店長に。明るくポジティブで、研究熱心な29歳。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)、「日本料理大全シリーズ」(日本料理アカデミー)。

昆布に代わるだし素材はあるか?

堀井良広(以下:堀井)
前回は、うちのカツオ鯖だしの抽出法を分析できて、とても勉強になりました。今回は、このだしに新たなうま味を加えたいと思っています。
川崎寛也(以下:川崎)
日本料理のだしは、昆布のグルタミン酸とカツオ節のイノシン酸のうま味の相乗効果によって強いうま味を感じますが、『更科堀井』のカツオ鯖だしは昆布のうま味がかなり弱かったですよね。
堀井:
僕は東京で生まれ育ったからか、昆布の味が強いのは苦手で。昆布に代わるグルタミン酸が豊富なだし素材をずっと探しているんです。
川崎:
地球温暖化の影響か、天然昆布が枯渇しているので、昆布に代わるだし素材は今や日本料理界においても課題の一つ。ですが、なかなかないんですよね。
単純にグルタミン酸が豊富な食材といえば、トマト、焼き海苔、玉露くらいでしょうか。
堀井:
トマトだしは料理を選びますよね。焼き海苔は蕎麦屋ではよく使いますし、先生に事前に伺っていたのでやってみたら、かなり美味しいだしが引けたんです。せっかくなので、他の海藻類でも試してみたいのですが…。
川崎:
だし素材として昆布が定着しているため、焼き海苔以外だと青さ海苔やワカメくらいしかグルタミン酸量のデータがないんですよ。
堀井:
青さ海苔は香りがよさそうですよね。試してみたいです!

ryo0091a「うま味インフォメーションセンター」のうま味データベースより

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