和食を科学する料・理・理・科

小魚を骨まで柔らかく煮る酸の効果

2021.12.17
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連載:和食を科学する料・理・理・科

魚は骨周りが美味しいといいます。特に、イワシなどの小魚は一尾丸ごと煮て、骨ごと食べさせるのが煮物の定番ですが…。「鮮度がいい魚はサッと短時間で煮付けた方が旨い。ただ、少し大きめのイワシなどは骨の硬さが残ってしまうことも…」とは、大阪で魚を食べるならココ!と評判の居酒屋『瑳(さ)こう』店主・田口尚孝さん。そこで、農学博士の川崎先生からこんな提案。「酸の力を使いましょう」。昔から梅煮、酢煮など酸を加えた煮汁で炊く調理は行われてきましたが、その理由とは? 今回は小魚の骨を柔らかくする酸の効果を実験・検証します。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン
田口尚孝さん(大阪・本町『瑳こう』店主)

1964年、大阪の船場で生まれ、育つ。実家である総菜店で調理を覚え、「魚も酒も好きなので」2000年、『瑳こう』を開店。大阪きっての人気居酒屋に。大阪・泉州産を主に旬魚を揃え、「持ち味をできるだけ率直に引き出したい」と造りや煮付け、焼き物とシンプルな調理で供す。目利きの酒は常時30種以上。飾り棚には季節ごとに窯を訪れ、買い集めた備前がズラリと並ぶ。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。

骨の構造は鉄筋コンクリートと同じ

田口尚孝(以下:田口)
うちでは、小ぶりで鮮度のいいイワシを20分ほど煮てお出しします。これで骨まで柔らかくなるのですが、ものによっては骨が歯に当たることもあって…。
川崎寛也(以下:川崎)
昔からイワシの煮付けに梅干しや酢を使うことがありますよね。これは、骨ごとイワシを食べさせようと考えた時、とても理に適った調理法なんです。
酸性水溶液で加熱することで骨は構造を保てなくなり、ほろほろと崩れたり、柔らかくなったりするんですよ。
田口:
煮汁に酸味を加えると骨が柔らかくなるのですか?
川崎:
そうなんです。まずは骨の構造からご説明しますね。
骨を構成する主な成分は、コラーゲンとヒドロキシアパタイトです。ヒドロキシアパタイトはリン酸カルシウムの一種で、歯の主成分でもあります。
この関係を鉄筋コンクリートで例えると分かりやすいんですよ。鉄筋は強い衝撃が加わると折れてしまう。コンクリートも激しく動かすと割れるでしょう。ところが両者を組み合わせると、とても強靭になるんですね。
これと骨はまったく同じで、カルシウムがコンクリート、コラーゲン線維が鉄筋に当たります。
田口:
骨は硬いけど、ポキッと折れたりするだけでなく、弾力もありますよね。コラーゲンがあるからなんですね。
川崎:
では、酸性水溶液で加熱するとどうなるか?
まず、酸があることで、ヒドロキシアパタイトのカルシウムが溶け出します。これは虫歯と同じ構造です。虫歯は、口中にある細菌が糖分をエサにして酸を作り出し、その酸が歯を溶かすんですね。
と同時に、加熱によってコラーゲンがゼラチン化して、水に溶けやすくなるんです。
田口:
カルシウムも、コラーゲンも溶けるということは…骨がなくなる?
川崎:
では、小魚の骨だけを酸性水溶液で煮て検証してみましょう。
酸には、酢酸、クエン酸など数種類あります。酢酸は酢ですね。クエン酸は柑橘類や梅干しの酸のことです。
酸の種類による効果の違いも知りたいので、柑橘果汁、梅干し入りの水、米酢、水で煮て比較してみましょう。
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