和食を科学する料・理・理・科

真昆布だしを科学するvol.2鯛コンソメ編

2023.01.24
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連載:和食を科学する料・理・理・科

2015年以降、天然真昆布の深刻な不漁が続いています。大阪の和食の屋台骨と言える、真昆布のだしが使えなくなるかもしれない…。そんな状況に危機感を持つのが、『浪速割烹 㐂川(きがわ)』の上野 修さん・翔平さん親子。vol.1では「促成(1年養殖)の真昆布で天然ものに引けをとらないだしを引く」方法について、農学博士・川崎寛也先生と共にアイデアを凝らしました。今回のお題は、「昆布に頼らない潮だし」。フランス料理の心得もある修さんが、修業時代のエピソードから、これまでにない和のコンソメを着想します。はたして、天然真昆布を使わずとも味の奥行きが出せるのか? 検証、スタートです。

文:河宮拓郎 / 撮影:香西ジュン
上野 修さん(大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川』店主)

1961年生まれ。81年より三重『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』でフランス料理を学び、85年、『浪速割烹 㐂川』入社。父・修三さんの『天神坂上野』開店に伴い、95年『㐂川』二代目店主に。伝統と独創を重んじる父の割烹料理を継承しつつも、フレンチの経験や知見を生かした独自の料理世界を構築している。

上野翔平さん(大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川』勤務)

修さんの長男として生まれ、京都屈指の料亭『菊乃井』で約8年間修業の後、2016年より『浪速割烹 㐂川』入社。「『菊乃井』さんと『㐂川』、それぞれの良いところを吸収して、自分のものにしていきたい」と語る。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」(柴田書店)。

鯛のお椀には鯛のだし、という発想

上野 修(以下:修)
前回は、促成昆布でも、工夫したら深みのあるだしが引けると分かって、真昆布だしの未来がちょっと明るく感じられました。
せやけど、よぉ考えたら、私ら大阪の和食の料理人は、昆布に頼りすぎていたのかもしれません。うちは鯛のお椀なら鯛のアラでだしを取るのですが、ここにも必ず真昆布を加えてて…。
川崎寛也(以下:川崎)
『㐂川』さんでは、お椀に必ずしもカツオ昆布の一番だしを使うワケではないんですね。
修:
私は『㐂川』に入る前にフレンチをやってたんで、なんでもカツオ昆布のだしを使うことに違和感がありまして。フレンチやったら、仔羊の料理には仔羊の骨で作ったソースを合わせるでしょう。
川崎:
そうですね、フレンチは食材を丸ごと使うという発想のもと、分解して調理し、皿の上に集約させるという考え方です。
対して日本料理は、食材を複数の要素と捉えて、カツオ昆布だしで美味しさをさらに高める、という感じでしょうか。
修:
天然真昆布が危機に瀕している今は、何でもカツオだし、昆布だし、というのを考え直してみるいい機会やと思てます。それで、うちでお出ししているコンソメ椀を、“昆布抜き”で作ってみたいと思っているのですが…。
上野翔平(以下:翔平)
今日は、真鯛のコンソメ椀の材料を用意しています。真鯛のアラと野菜でだしを取って、頭を椀だねにする予定です。
川崎:
問題は、うま味成分のグルタミン酸を何で補うか、ですね。前回お話ししたように、昆布ほどグルタミン酸を多く含む“植物”は他にないので、これはちょっと難題ですよ。

ryo0022a真鯛のアラに軽く塩をして、20~30分置く。その後、霜降りして、血合いを除く。

昆布のグルタミン酸を何で代用する?

修:
実は、事前にいろいろ試作して、味噌を使うのはどうかな?と思い付いたんですが…。
川崎:
味噌仕立てにするのではなく、グルタミン酸を補うために隠し味として味噌を使うのですね?
修:
調べたら、味噌のグルタミン酸量が昆布と同じくらいだったので…。
実は、『志摩観光ホテル』で修業してた頃、先輩のスープ長が失敗してスープを濁らせてしもたんです。賄(まかな)いにするしかなく、味噌を入れて仕立て直したら、なんでか濁ってたスープがきれいに澄んで。「大発見やぞ」ってみんなで盛り上がったんですわ。それで、澄ませる段階で加えたらどうかと思って。
川崎:
100gあたりのグルタミン酸の量は、昆布で3g。味噌は水分もあるし、種類にもよるのですが、1.16~7.5g、平均で3.3gで、昆布に近いうま味の強さを持っているんですね。でも、塩気を含むものであれば、たとえばチーズ(1.8~22g)のように、うま味たっぷりの食品は他にもあります。
修:
そうなんですよ。塩気があるのが昆布との大きな違いで…。
私ら料理人は、最後に味を決めたいので、途中で塩気を付けると確かにやりにくくなるんですが…。
川崎:
昆布はこれだけのうま味を持ちながら塩気がないので、汎用性が素晴らしく高い。だから、代わりとなる食材を見つけるのが難しいんです。
でも、昆布のグルタミン酸の代わり、という立ち位置で味噌を使うという発想はアリだと思います。まずは、やってみましょう!
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