和食を科学する料・理・理・科

翡翠ナスを色よく仕上げるコツは?【前編】

前回は水ナスのアクを感じさせない調理を学んだ、奈良『味の風 にしむら』の西村宣久(のりひさ)さん。同じくナスをテーマに、今度は夏に向けて、翡翠ナスを色よく仕上げるためのポイントを、農学博士の川崎寛也先生と実験・検証します。実は、ナスの緑色を守るためには、変色と退色の両方を防ぐ必要があります。皮を剥いてから塩水に浸ける効果とは? 揚げる時の適温は? 伝統的な下ごしらえの意味を改めて紐解きます。

文:川島美保 / 撮影:香西ジュン
西村宣久さん(奈良・桜井『味の風 にしむら』店主)

1974年奈良生まれ。16歳から日本料理人の道を歩み始め、奈良の日本料理店『味の旅人 浪漫』で10年修業した後、2005年に独立。椀物はその都度カツオ節を削り、焼き魚は塩の使い方や焼き方を細かく調整するなど、素材の持ち味を最大限に生かすための丁寧な仕事を怠らない。基本を大切に、一つ一つの技を磨き上げることに重きを置く謹直なお人柄。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」(柴田書店)。

ナスの緑の色素の特性は?

西村宣久(以下:西村)
初夏を迎えて、多くの和食店で翡翠ナスをお出しする時季になりましたね。うちではねじ剥きしてから塩水にさらし、素揚げして冷たい八方地に浸しています。きれいな翡翠色に仕上がるのですが、この工程にそれぞれどんな意味があるのか、改めて知りたいと思っています。
川崎寛也(以下:川崎)
ナスは紫色の皮を薄く剥くと、緑の色素を持つ層が現れます。その緑色を生かして仕上げた料理が翡翠ナスですね。
緑の色素はクロロフィル(葉緑素)だと思います。ナスの緑色がクロロフィルだと断定した資料は見つかりませんでしたが、ナスは葉が最初に出て、花が付いて、実ができるでしょう。実には少なからず葉緑素があるはずなんです。
西村:
なるほど。緑の層は皮のすぐ下だけ。断面は、ほぼ真っ白ですものね。

ryo0027aねじ剥きは、片刃庖丁を固定してナスを回し、ナスの形に添って極々薄く皮を剥く仕事。断面を見ると、薄い緑の層が皮の下にあるのが分かる。

川崎:
この淡い緑の層を残すように薄く皮を剥くというのが、美しい翡翠ナスに仕上げるためのコツその1ですね。
そして、ねじ剥きした後、すぐに空気を遮断することも大事。前回ご説明した通り、ナスには、アクの正体でもあるクロロゲン酸というポリフェノールが多く含まれています。クロロゲン酸は酸素に触れると、酸素酵素の働きで褐変物質ができ、変色してしまうんです。
西村:
前回はアクからくる苦みや渋みなど味についての実験・検証でしたが、今回のテーマは色。前回、クロロゲン酸は水に溶けるとお話しされてましたよね。
川崎:
そうですね。塩水や真水に浸けると、表面の細胞にあるクロロゲン酸は溶け出るので、クロロゲン酸を減らすことができるんですね。と同時に、酸素に触れていないので変色も防げます。
実はナスの色が変化するには、二つの理由があります。一つは、クロロゲン酸の酸化による変色。もう一つは、クロロフィルの緑色の退色クロロフィルは酸性、光、熱に弱いんです。
西村:
日光に当てたり、熱いまま放置すると色が飛んでしまうのですね。酸がダメということは、酢水に浸けると退色するんですねぇ。
川崎:
ナスの緑色をキープするためには、変色と退色、2つの変化を防ぐ必要があるんですよ。
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