和食を科学する料・理・理・科

和食に向く鶏だしvol.4白湯(パイタン)を使ったおから

大阪の割烹『西心斎橋ゆうの』店主の柚野克幸さんが「和食に向く鶏だし」をテーマに実験を重ねた本企画も、今回が最終章。比較的あっさりとした鶏白湯を取ることに成功した柚野さんが、いよいよおから作りに挑みます。「脂の旨みを利かせ、しっとりと白く仕上げたい」と意気込みましたが、加減が難しく試行錯誤。農学博士の川崎寛也先生のアドバイスを受け、ようやく辿り着いたおからのレシピをご紹介します。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン

目次

柚野克幸さん(大阪・心斎橋『西心斎橋ゆうの』店主)

1970年、大阪市生まれ。「辻󠄀学園」を卒業後、大阪の『浪速割烹 㐂川(きがわ)』や『和洋遊膳なかむら』で腕を磨く。青果商が営む和食店で料理長を務めるなどの経験も積み、2008年に独立。明るく前向きなキャラクターで、チャレンジングな割烹料理を展開している。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。

具材をおからと“和える”のが『ゆうの』流

川崎寛也(以下:川崎)
前回の実験では、和食向きの品のいい鶏白湯ができましたね。これでおからを仕立てるワケですね。楽しみです。
柚野克幸(以下:柚野)
しっかりと白濁して、味わいはマイルドですがコクもあって美味しい鶏白湯でした。脂の旨みが加わって、しっとりしたおからになると期待してます。
川崎:
柚野さんは、いつもどんな風におからを作っているのですか?
柚野:
具材を炒めておからを合わせ、だしと調味料を加えて炒め煮にするのが定番だと思うのですが、うちでは具材をそれぞれ最適な状態になるよう煮ておきます。おからは太白ゴマ油で炒め、だしと酒・塩・砂糖に、あまり色を付けたくないので淡口醤油は少しだけ。豆乳を足して20分くらい炊き、最後に具材を混ぜ合わせています。
川崎:
おからで具材を和えている感じですね。料理屋らしい仕事だと思います。

ryo0036a手前左から時計回りに。レンコンは塩で味を決めた八方煮、ニンジン甘八方煮(淡口醤油ベースで少し甘めの八方煮)、コンニャクは淡口醤油主体の淡口八方煮。大豆とカボチャは甘八方煮、切り干し大根八方煮、ヒジキはたまり醤油も少し使って旨煮に。

柚野:
おからと鶏は相性がいいので、鶏皮を加えて脂の旨みを足すこともあります。
川崎:
なるほど、それで鶏白湯ですか。鶏手羽を煮出して取った鶏白湯は軟骨や骨からコラーゲンが期待できるので、しっとり仕上がるでしょうし、脂の旨みも豊富ですから、いいアイデアだと思います。

おからと鶏白湯を1:1で合わせるとどうなる?

柚野:
実は、鶏白湯で何度かおからを試作したのですが、まだ成功していなくて。どのくらい加えるか、加減が難ししいんです。
川崎:
まず、おからと鶏白湯だけ合わせて味見してみませんか?
柚野:
実は私たち料理屋が使うおからには2種類あります。一つは、本来のおから。豆乳を搾った後の残りかすです。もう一つは、そこに加熱した大豆を潰して加えた、豆の風味が強いもの。
どちらにも1:1で鶏白湯を合わせてみますね。
川崎:
(2種類を味見して)豆入りの方が断然美味しい! 鶏白湯に負けない豆の風味がいいですね。もう一つの方はおからの味がカスカスで、パサつきもあるので、僕は豆入りの方が好きです。
柚野:
この豆臭とざらっとした舌触りが気になりませんか? 修業時代はこの豆入りおからを流水にさらし、裏漉し器にガーゼをかぶせて羽二重(はぶたえ)漉しにしていたんですよ。ちょっとしか残らないんですけどね。
川崎:
なんだかもったいないですね。豆の風味がしなかったら、おからを食べた気がしないじゃないですか。裏漉しして全体的になめらかにしてしまうより、不均一な方がよりおからの存在感を感じると思います。
口の中で多様な感覚を感じることをヘテロ感と言います。料理には必要な要素だと僕は思うのですが…。
柚野:
では、豆入りおからをそのまま使って仕上げます。砂糖の甘みは邪魔しそうなので控えめにして、鶏白湯が主張するように塩で味を決めます。

ryo0036b

課題はヘテロ感と豆の風味をどう生かすか?

柚野:
今回は、ヒジキと大豆の他は「ん」の付く具材を使います。「んが付く」=「運が付く」で、縁起がいいので。
ニンジン、南瓜(ナンキン)、切り干し大根、銀杏(ギンナン)、レンコン、コンニャク、彩りにインゲン。振り柚子で仕上げます。

ryo0036c太白ゴマ油で豆入りおからを炒め、同量の鶏白湯を加えて煮る。塩で味を決め、少し砂糖を加える。

ryo0036d汁気がほどよくなったら、具材を入れて合わせる。淡口醤油をほんの少し加えて仕上げた。

川崎:
お~、しっとり仕上がっているじゃないですか! ただ、もう少しおからの存在感がほしいですね。鶏白湯の方が勝っているような…。
柚野:
そうですね。味付けを控えめにしすぎました(笑)。鶏白湯の量も多かったですね。唇がベタベタします。具材はどれも相性がよくて、それぞれの味がよく分かる。その分、確かにおからが弱いですね。
川崎:
おそらく鶏白湯はおからの粒子の中に浸透することはないので、コーティングしているのでしょう。
でも、新しい料理の可能性を感じますよ! 白いおからに具材の色が映えて、見た目がきれいですよね。
柚野:
やっぱり豆乳を少し足そうかと思います。豆感をアップさせるためにも。
川崎:
それから、ヘテロ感をもう少し意識してはどうでしょう? それほど混ぜ合わせずに仕上げても美味しいと思いますよ。
柚野:
それなら、最初に太白ゴマ油で炒めない方がいいかもしれません。
川崎:
確かに! 鶏白湯に脂があるので油は必要ないですよね。炒めることでおからの水分が飛んで均一になってしまうのも気になります。
柚野:
鶏白湯と塩を加えて混ぜ始めた時に味見したのですが、まだ混ざっていないところがあって、そこは塩気が立っていて美味しいなと思ったんですよ。
炒めるのやめます! 鶏白湯とおからを合わせて、いきなり炊いてみます。
この記事は会員限定記事です。

月額990円(税込)で限定記事が読み放題。
今なら初回30日間無料。

残り:1238文字/全文:3511文字
会員登録して全文を読む ログインして全文を読む

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事和食を科学する料・理・理・科

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です