難波の老舗『うお佐』が“朝食の店”に。老舗の看板を守る、三代目の決断
大阪、ミナミのど真ん中。御堂筋と千日前通が交わる「難波」交差点のほど近くに『うお佐』はあります。寿司屋として創業し、時代に応じて業態を変化。そして創業70年を迎える2026年5月、“朝食の店”へと大きく舵を切りました。音頭を取ったのは、三代目であり、西天満『お料理 山田』を営む山田晃弘(あきひろ)さん。老舗の名を残しながら、いかに新たな価値を生み出すのか。そこには、現代ならではの“店を継ぐ”かたちがありました。
祖父母、両親が営んできた店を、継承する
「料理人になる!」と決意したきっかけを、今までたくさんの料理人に聞いてきた。多くは「家族に料理を振る舞い、『おいしい』と喜ばれて」。あるいは、「親が飲食店を営む背中を見て」だろうか。
大阪の西天満で『お料理 山田』を営む山田晃弘さんも、その一人だ。祖父母は寿司屋の『うお佐』を営み、両親は自宅の階下で喫茶店を切り盛りしていた。幼い頃の山田さんにとって、店は遊び場であり、日常そのものだった。
『うお佐』が店を構えるミナミの景色も、今なお鮮明に覚えているという。「当時はバブル景気の真っただ中。髙島屋の外商さんや、見るからにお金持ちそうな人が行き交っていて、街全体がキラキラしていました」と振り返る。
『お料理 山田』の山田晃弘さん。1987年生まれ。大阪「辻󠄀調理師専門学校」卒業後、『和洋遊膳 中村』で5年、『北新地 弧柳』で7年、『纐纈(こうけつ)』で1年修業。2020年4月、北新地に『お料理 山田』を開店し、24年2月に西天満へ移転・拡張オープン。「大阪料理」を軸に、独自の創造性を織り込んだコースで評価を得る。24年、『株式会社 南うお佐 本店』代表取締役に就任。
『うお佐』は、地下鉄や近鉄の「難波駅」すぐの場所にある。
歩道に面した小窓から祖母が折詰を手渡す姿、祖父が黙々と魚を捌く眼差し。祖父母との思い出は、店と共にあった。
祖父が病に倒れた後は、父の能弘(よしひろ)さんが二代目となり、母の敦江さんと共に『海鮮旬菜 うお佐』を26年間営んできた。しかし年月と共に建物に傷みが見え始め、両親の身体にも負担が重なっていく。昼はボリュームのある定食を提供し、夜は70品ものアラカルトを用意。片付けが終わり、帰宅するのは深夜になることも珍しくなかった。
左は、『うお佐』初代である祖父の知弘さんと幼少期の山田さん。右は、両親の能弘さん、敦江さんが『海鮮旬菜 うお佐』を開店した頃の一枚。
父の能弘さんと母の敦江さん。『海鮮旬菜 うお佐』時代は、昼は日替わり定食やお造り定食、寿司定食、海鮮丼などを提供。夜は造りなどの海鮮料理を中心に、マグロのレアカツやカレーパンなど、洋の要素を取り入れた料理も人気を集めていた。
「いつか倒れてしまうんじゃないか、という不安がありました」。山田さんは静かに振り返る。「ゆっくり休んでほしいと思っていたんですが、二人にもプライドと『まだやれる』という気持ちがある。そして僕自身、この場所を『うお佐』として残したい想いもある。それなら、両親の身体が動くうちに業態を変え、無理なく続けられるかたちにできないか、と考えるようになりました」。
周辺には、夜遅くまで営業する安価な飲食店が多い一方、朝に“ちゃんとした和食”を食べられる店はほぼない。ならば、炊き立てのご飯と丁寧に作られたおかずを味わえる店は喜んでもらえるのではないか。仕込みは『お料理 山田』で行い、両親は朝から昼にかけて働いて夕方には休めるようにする。そんな新しいかたちを思い描いた。
とはいえ、葛藤もあったという。「ご飯と焼き魚はその場で仕上げるにしても、あらかじめ仕込んだ料理を出すことに抵抗がありました。ずっとカウンターの店でやってきましたから。でも、ホンマに美味しいものを吟味して、手を抜かずに仕込んだ料理なら、そういう店もアリなんじゃないかと、次第に思えるようになったんです」。
2020年に開業した『お料理 山田』は、最小限の調味料で素材の美味しさを引き出す料理を信条としている。食べ疲れしない味づくりの中に、手をかけた仕事や、時に意想外な発想を組み込み、「ミシュランガイド京都・大阪」や「ゴ・エ・ミヨ」でも評価を獲得。2025年には「大阪・関西万博」で、「大阪料理」の魅力発信にも携わり、今、勢いがある店として認知されている。
『うお佐』がある場所で『お料理 山田』を営むという選択肢もあった。しかし、そうしないことで自身のブランドを磨き続けることができる。同時に、積み重ねてきた経験を『うお佐』に還元する。今の山田さんだからこそできる、“継承”のかたちだった。
朝ごはんを三部制で提供する
山田さんが考えたのは、炊き立てのご飯を中心に据えた、一汁三菜の朝食スタイル。とはいえ、おかずは3つにとどまらず、折敷いっぱいに小皿が並び、豊かな景色が広がる。
ご飯は、信楽『雲井釜』の土鍋での炊き立て。旬の焼き魚に、味噌汁、滋味深い副菜。調味に頼りすぎず、素材の輪郭を丁寧に引き出した料理が並ぶ。

朝食3600円。この日は、クエの味噌漬け焼き、和牛どて焼き、山椒じゃこ、小松菜と舞茸と薄揚げのお浸し、マグロのゴマ醤油漬け、卵黄醤油漬け、漬物、味噌汁が並んだ。
米は、大阪市東住吉区にある「(有)コスモ」藤田勝紀さんの提案で、季節ごとに配合を変える。この日は富山県産「てんたかく」と岡山県産「桃太郎(JAS有機栽培コシヒカリ)」のブレンドだ。「『桃太郎』は香りが抜群によくて、甘みと粘りが程よくある。そこに『てんたかく』を合わせることで、“ちょうどいい米感”が加わり、バランスが整います」と山田さん。
提供はご飯の炊き上がりに合わせ、8時半、10時、11時半の一斉スタート。炊き立てを味わった後、二膳目、三膳目へと進む頃には蒸らしが進み、さらに甘みが増していく。
なお、「追加のおかず」も充実している。「自家製の海苔佃煮(300円)」や「イカの明太子和え(キムチ風)(600円)」、「天草産きびなごの魚醤(300円)」など、酒肴にもなる品が並び、午前中からお酒を楽しむお客も少なくない。
追加メニューの「うなぎ蒲焼き(900円)」、「生からすみ(500円)」、「お料理山田の海老カレー(1,000円)」。
それぞれの料理にはしっかりと手をかける。例えば「きびなごの魚醤」は、生のきびなごを調味料に漬け込み、一年間熟成。ナンプラーやヌクマムにも通じる、発酵の旨みをまとわせる。「山椒じゃこ」は、乾燥させないよう、低温で2~3週間保存し、しっとりとした口当たりに仕上げる。
また、親戚が営む鶴橋のマグロ卸『瀧商店』から仕入れるマグロは、中トロを『お料理 山田』で使い、赤身は『うお佐』のゴマ醤油漬けに。アボカドワサビを添えて提供する。
「最初は『お料理 山田』の分と一緒に仕込めば何とかなるかな、と思ってたんですが、想像以上に大変で(笑)。でも、絶対に手を抜かないと決めているので。おいしいものを出している自負はあります」。
新生『うお佐』は客層や用途が幅広い。『お料理 山田』の常連に加え、昼酒を楽しむ人、子どもを幼稚園や保育園に送った後のママ会、一人で食を楽しむ人、外国人観光客など。多彩な人々が店を訪れている。
親子二代で立っても、似合う空間に
『うお佐』の施工を手掛けたのは、奈良の『北条工務店』。『お料理 山田』の北新地時代、そして西天満移転時に続き、今回で三軒目の依頼となる。
主に住宅を手掛ける工務店だが、社長である北条愼示さん自身が食通であることから、「食べ手にとって心地良い空間」を徹底して追及する。今回は「朝食の店」ということもあり、大きな窓を設けて自然光を取り込み、収納は客席から見えない位置へ。爽やかさと清潔感を感じる空間に仕上げた。その上で意識したのは、「父が立っても、息子が立っても、どちらにも似合う店」であること。新しい木材を基調としながら、古い建具を窓に配置し、欄間をアクセントとして取り入れる。新旧が溶け合う空間に、能弘さんも喜びを見せたという。

「改めて、いい建築家やデザイナーとの出会いは大切だと感じました」。山田さんは語る。「飲食店を数多く手掛ける工務店さんにも素晴らしい方はたくさんいると思います。でも北条さんは、こちらの想いを汲み取る力とセンスが本当にすごい。今回も、想像以上の空間にしていただきました」。
メインカウンターには、神戸の銘木店『永井半』による、樹齢300年の吉野檜を加工したものを元のカウンターの上に設置。副社長である永井慶和さんも長年、食べ歩きを愛する方で、一店舗目からお世話になっている。
人との縁を大切に育んできたからこそ、長く愛せる店を作ることができるのだ。

“継ぐ”ことへの想いと、その先にある可能性
今回、山田さんが『うお佐』を継ぐ決断をした背景には、「辻󠄀調理師専門学校」時代の同級生・渡部祐一郎さんの存在があった。 渡部さんは、大阪『高麗橋吉兆』で修業を積んだ後、島根へ帰り、実家の料亭『山常楼』の七代目を継承。その姿に、山田さんは強く心を動かされたという。「長い歴史を背負い、受け継ぐ覚悟に圧倒されました。“継ぐ”ことでしか見えない価値や責任があることを知ったんです」。渡部さんはこれまでの料亭の在り方を見直し、現代に合った価値を作り出そうとしているという。
山田さんも同様に、自身の経験を活かして、両親が無理なく働き続けられる新しいかたちをつくった。
敦江さんは、「身体が少しでも楽になるように、と考えてくれたことが嬉しかった」と話し、能弘さんも、「今までのお客さんが離れる怖さはありました。でも、新しいお客さんも来てくださって。本当にありがたいですね」と微笑む。 現在は、夫婦そろって夕食を食べ、ゆっくり眠れる生活になったという。
今後、“昼以降”の店の活用も構想中だ。料理人同士のコラボイベント、レンタルスペース、料理教室など。
そして、若手スタッフの育成にも活用していきたいという。「技術や接客を研鑽できる場にしたいですね。今回、『うお佐』リニューアルにあたって、『お料理 山田』のスタッフたちはめちゃくちゃ協力してくれました。荷物の搬入に棚の制作。オープニングの2日間は二番手の梅本がご飯の炊き方を指南してくれたし、他のスタッフたちも毎日、両店の仕込みをしてくれてます。ホンマに感謝です。この子たちを一人前にする。それも、僕の役目だと思っているので」。
料理を通して社会に貢献していく。山田さんが常に、大事にしていることだ。「今以上に力をつけ、新しいことにどんどん挑戦し続けたいですね」。
突き動かされる思いと、両親への敬意。そして、幼い頃に祖父母からかけられた、「あっくんがこの店を継ぐんやで」という言葉。
それらが重なり、『うお佐』第三章の幕が開けた。
【住所】大阪市中央区難波3-5-14
【電話番号】080-4261-9336
【営業時間】8:30・10:00・11:30 一斉スタート
【定休日】日曜
【お料理】朝食3,600円。瓶ビール800円、日本酒(90ml)900円。
【Instagram】https://www.instagram.com/chisou_uosa
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