ニュースな和食店

フルーツ大福も板前で!創造性ある一手が冴える、兵庫・芦屋『壱』

2022.09.20
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連載:ニュースな和食店

2022年3月に兵庫・芦屋でオープンした『壱(にのまえ)』。訪れたお客のほとんどが次回の席を確保するため、半年足らずで予約困難になった話題の日本料理店です。その理由は、コースに何度も登場する、食べ手の心を動かす皿。その食材選びや仕立ての吟味、パフォーマンス、日々の研鑽……。人気の理由に迫ります。

文:阪口 香 / 撮影:塩崎 聰

意想外な仕立てが魅力

春巻きに歯を入れた瞬間、白甘鯛のあんがジュワリと染み出し、松茸の香りが鼻に抜ける。「次は、スダチを搾ってお召し上がりください」。店主・原口隼平(じゅんぺい)さんに促され、ポトリ。「土瓶蒸しのような味わいでしょう?」……確かに! 澄み切った旨みが爽やかに味変、汁物をいただいたようなほっこり感もある。

was0036b料理はコース22000円(全10~12品)から(季節により変動あり)。取材時のコース内容は、前菜の北海道 噴火湾毛ガニ 着せ綿仕立て、鮑と肝豆腐のお椀、お向の鯛 ケンサキイカ 礼文島エゾバフンウニ イシカゲ貝、長崎の鯖寿司、箸休めのシャインマスカット 柿 栗の白和え、白甘鯛と松茸の春巻き、有明海の海鰻とイチヂク 大黒しめじ 胡桃ソース、初物筋子ご飯、栗の渋皮煮ご飯、ピオーネ大福、コスタリカのコーヒー(滋賀・守山『米安珈琲焙煎所』)。

あんは、白甘鯛の骨のだしと尾に近い身を合わせて葛でとろみをつけ、「松茸は炊いてから入れると味も香りも、食感も立たないので」、生の細切りと共に巻いている。かつては土瓶蒸しの定番・鱧松で提供していたが、「意外性があった方が喜んでいただけるかなと思って」、白甘鯛に変えたという。

食材へのリスペクトから生まれる料理

was9955c原口さんは1989年生まれ、大阪府出身。2歳の頃から両親に飲食店へ連れられ、舌を磨いてきた。18歳から居酒屋で働き、26歳から大阪・高槻の日本料理『心根』で修業。移転の合間の1年間は芦屋『京料理 たか木』でも経験を積んだ。2022年に『壱』を開店し、『祇園 さゝ木』でサービスを担当した奥様・千春さんと切り盛りしている。

「手を加えすぎずに、食材の良さを最大限昇華させたいんです」。
それは、生産者や海・山といった食材を生み出すものへのリスペクトから生まれた想いだ。

食道楽だった両親の影響で、2歳の頃から食材探しに同行。5歳になると海に一人で潜水し、アワビやタコはどこにいるのか、獲り方、目利きなどを会得していく。淀川でモズクガニを獲り、菜の花を採ったらその日の食卓に巻き寿司が並ぶ。「その頃から食材への関心は強かったですね」。今では秋田にジュンサイを採りに、北海道・礼文島の昆布を見に……と、食材探しに余念がない。

その中でも「胸を張って出せる逸品です!」という、海鰻。
有明海で獲れた天然もので、シャコやカニ、エビなどの甲殻類をエサとするため、持ち味は強靭。それを店で熟成させ、脂の旨みを全体に行き渡らせる。「熟成期間は、目やサイズ、脂の付き方などを見て判断します」。ものによって2日~1週間ほど、袋に入れた状態で氷水の中で寝かせる。その勘所は、幼少期から食材に触れてきた経験から培われたものだという。

蒲焼きにしてご飯にのせることもあると言うが、この日は炭火で焼いた丹波の大黒しめじとイチジクを共に盛り、クルミソースをかけて提供。
「海鰻の濃い旨みと香りを堪能して欲しいのですが、蒲焼きだけだと味が単調に感じることも。そこで、クルミのソース。海鰻の風味を“超えない”ように仕立てるので主役の鰻は際立つし、ねっとりした焼きイチジクとも繋がり、シャクシャクした大黒しめじの食感も立ちます」。

was0074d鰻のタレは、頭と胴の骨を湯霜し、血合いを取り除き、濃口醤油・みりん・ザラメを合わせ、3時間炊く。クルミソースは、クルミを160℃のオーブンで2分焼き、フードプロセッサーにかけて煮切り酒・砂糖・濃口醤油と合わせたもの。

食材へのリスペクトは、調理をシンプルにもする。「何を組み合わせるかを考え抜き、蛇足だと思うものをとことん排除しています」。

原口さんは、時間を見つけては女将・千春さんと共に他店で食事し、価格とクオリティのバランスや、調理法について考えてきた。
「なぜ、その食材を使うのか、その仕立てにするのかが分からない料理に出合うことがあります。ウチでは、そのような想いをしていただきたくない。気持ちよくお金を払っていただける料理を作ることも、大切だと思うのです」。
新作の料理を提供する際には、事前に千春さんが試食し、「対価を払う価値があるのか」意見をもらう。

この日のご飯は、大きな丹波栗の土鍋ご飯。直径4㎝ほどもある栗は渋皮煮にし、白米と共にシンプルに炊き上げたものだ。

was9993e構成要素はシンプルだが、こちらも食材にこだわりあり。使用する水は、白神山のブナの森が育てた非加熱天然水。「秋田へジュンサイを採りに行った時、『ウチの水はフィルターを通すだけだよ』って聞いて」。塩も秋田県から。昆布は、北海道の礼文島にて手鉤で採集する生産者から仕入れる。「近いエリアの食材を使っているからか、昆布の味が蕩(とろ)けるように出ます」と原口さん。お椀も同じ昆布と水、そしてマグロ節を使って仕立てる。

渋抜きした栗はキビ糖水に入れて3時間火にかけ、その後2日かけて味を馴染ませる。

米は長野県産の八重原米。『京料理 たか木』で使われていたもので、原口さんが今まで食べた中で一番、美味しいと感じたという。渋皮煮・昆布・水・塩と共に炊き、完成。まずはそのまま、味変を所望するお客には、挽きたてのブラックペッパーをパラリ。

「他にも香りのあるものを一緒に炊くこともできるのですが、あくまでも主役は栗とご飯。他に何も入れないことで、ストレートに美味しさを感じて欲しいんです」。

甘くなりすぎないように塩梅した渋皮煮はほろほろとほどけ、米の旨み・甘みが追いかける。

板前で仕立てるお菓子で大盛り上がり!

クライマックスは、なんと原口さん自ら板前で仕立てるフルーツ大福。
最後の花火といわんばかりに、カウンターからは驚きと喜びの声が上がる。

was0083_0092_0099_0119fこの日のフルーツは、ピオーネ。皮を剥き、白あんで下半分ほど包んだ後、餅で全体を包む。原口さんは、『心根』での修業時代、大阪・東淀川区の『菓匠あさだ』にて、和菓子作りの経験もある。

「フルーツは何でも良い訳ではなく、酸味があることが重要です。一度、栗の渋皮煮でもやってみたのですが、全く栗の味がしなくて」。イチゴや桃、シャインマスカットや巨峰などが向くという。

今回使ったピオーネは、丁寧に皮を剥く。「白あんに入っている上白糖って、とてもピュアな甘さ。一緒に食べると、皮の渋さが際立つんですよ。剥いた方が、食感も良くなりますし」。フルーツの色が透けるよう、半分だけ白あんで包み、餅で優しくくるむ。

まるで寿司のように目の前に提供。口に入れると、蕩(とろ)ける餅の食感、果物のみずみずしさに、しばし陶然となる。

was9977g店は、芦屋駅から徒歩10分ほどの、落ち着いた並木道沿いにある。「食事後の景色や香りって大事だと思うんです。余韻に浸っていただけるよう、緑が多く、落ち着ける場所を選びました」と原口さん。

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