コラボイベントVol.4 本番【後編】
京都の名割烹『祇園さゝ木』出身の料理人によるコラボイベント後編。この日、3人の“おやっさん”である佐々木 浩さんの姿もカウンターにありました。自らの店を巣立った後も足を運ぶ、愛ある姿勢。すべて食べ終わった後、3人にかけた言葉とは。
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宮下 司さん(京都・日本料理『ひがしやま司』店主)
1985年三重生まれ。『祇園 丸山』『祇園さゝ木』などで計16年修業した後、2021年11月に独立。名物“シャリ粥”や生春巻など、シンプルながら心に残る攻めの料理を得意とする。
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楠 修二さん(発酵料理人)
1990年大阪生まれ。寿司屋や『祇園さゝ木』の姉妹店『祇園 楽味』で修業し、現在はフリーの料理人として活躍。自家製で味噌や醤油、納豆など約40種を作り、発酵の研究を重ねる。料理教室、発酵商品開発なども行う。
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中川寛大さん(京都・イタリア料理『cenci』勤務)
1994年三重生まれ。高校生レストランで有名な三重県立相可(おうか)高等学校を卒業後、『祇園さゝ木』にて修業開始。2020年から二番手として活躍。23年より京都のイタリア料理『cenci』勤務。
古代米の酒粕を随所に使った、同系色の肉の皿
- 中川寛大(以下:ノリ)
- 滋賀の精肉店『サカエヤ』の新保(にいほ)吉伸さんが手当てした、北海道の130日肥育の経産牛、部位はサーロイン。50℃で温めた後、フライパンと炭で一気に火入れしています。
付合せの野菜やソースには、京丹後『向井酒造』の「伊根満開(いねまんかい)」という、古代米(赤米)を使って造られた日本酒の酒粕を使っています。「伊根満開」は鮮やかな赤色で甘酸っぱさもあるお酒。酒粕にもその雰囲気を感じていただけるかと思います。
右/付合せのビーツは、ガーゼで巻いて「伊根満開」の酒粕などをまとわせて蒸し上げた。
ビーツは酒粕を外した後にカットし、酒粕とサワークリームで作ったソース、クレソンをのせた。手前のソースはブルーベリーのジャム。全体に散らしているのは、沖縄の島コショウ・ピパーチ。フルーティな香りが特徴。
- 宮下:
- ペアリングは「伊根満開」とフランス・ローヌ地方のシラーを混ぜたもの。「伊根満開」が甘いお酒なので、スパイシーな香りと酸のあるシラーでバランスを取りました。
- 楠:
- ノンアルコールは、発酵させた紫キャベツとデラウェアのジュースを混ぜ、和辛子、たまり醤油をほんの数滴加えたもの。最後に乾燥させたタイムを散らし、香りを添えています。和辛子が結構ポイントで、一気に味を引き締めてくれますね。
赤~紫色の同系色でまとめた料理とドリンクは、とてもアイキャッチ。肉の火入れが抜群で、しっとり保水され、噛んだ瞬間にブワッと肉汁が溢れる。ソース、ビーツ、ペアリングに使った「伊根満開」が統一感をもたせるだけでなく、それぞれの食材との相乗効果で多彩な味わいに。コース後半を盛り上げる料理となった。
“真っ黒”な箸休め
- 楠 修二(以下:楠)
- 冬瓜を炊いたものを黒麹に漬け込みました。黒麹とは焼酎を造る際などに使う麹で、甘酒のような甘さ、クエン酸由来の酸味も出ます。そこにクラッシュアイスを入れ、振り柚子をしているので、口中をさっぱりしていただけます。
シャーベットや爽やかな野菜料理が供されることが多いポジションに、意想外な一品。見たことがない料理に、お客も関心を寄せていた。
旨み濃厚なスッポンスープ
- 宮下 司(以下:宮下)
- 蒸しスープは、スッポンのだしに、鶏の足のモミジ、ドライトマト、貝柱、生ハム、ショウガを入れて蒸してます。味つけはほんの少しの薄口醤油のみ。具は小カブと玄米餅です。
イタリアのモスカート(マスカット)のオレンジワイン(白ブドウの皮や種も一緒に醸したもの)とお楽しみください。ジューシーで、ちょっと苦みのある感じがスッポンに合うかと。
ノンアルコールは、麦茶を干したショウガ・オレンジと共に煮出したもの。
旨み濃厚なスープに、玄米餅のプチプチした食感や素朴な風味、シンプルに炊いた小カブの存在感が映える一品。食事前にホッと落ち着くポジションだ。
三者三様の締めもの
- 楠:
- 青大豆の藁納豆ご飯(写真左)です。豆の味をしっかり感じていただきたいので、発酵はごく浅くしています。“納豆感”を出さないよう、混ぜずに食べていただくのが美味しいです!
- 宮下:
- いつも、コースの最後にカレーを出しているのですが、今回は今までに作ったことのないタコのキーマカレーに挑戦しました。タコとショウガを炒め、トマトジュース・スパイス・黒ニンニクなどを加えて煮ています。上にのせたのは万願寺唐辛子のピクルスです。
- ノリ:
- 全粒粉の中力粉を手打ちし、モチモチ食感の麺を作りました。
スープは枝豆を鶏節だしでのばした冷製。富山湾の白エビに米粉を付けて揚げたものと、パクチー・青ジソ・レモンバジルを盛っています。レモングラスオイルをかけているので、混ぜてお召し上がりください。
先付八寸と同じく、それぞれの個性が表れた食事内容。納豆の豆の味わい深さ、タコのキーマカレーという意外性、手打ち麺の食感とスープの馴染みの良さ、ハーブの爽快感など、三者三様に楽しませた。
アニスを利かせた豆花(トウファ)
- ノリ:
- 台湾の豆腐のデザート「豆花」をアレンジしました。
豆乳に和三盆で甘みを付け、にがりで寄せた豆腐に、番茶が利いたワラビ餅、アニス(甘い香りのスパイス)を加えて甘く炊いた白小豆を添え、上にマンゴーとパッションフルーツのソースをかけました。仕上げにアニスの香りも添えてます。
アルコールペアリングは、ペルノー(アニスのリキュール)にクラッシュアイスを入れ、ソーダで割ったものです。
- 楠:
- ノンアルは、できたてのミックスジュース。バナナ・桃・パイナップルに、煮切った白ワインを加えています。最後にホッとしていただけたらと思います。
アニスのエキゾチックな香りがアクセントになったデザート。パッションフルーツやワラビ餅など、方向性の違う甘みもしっかりまとめ上げ、食後酒を楽しんだようなスッキリ感もあった。
師匠・佐々木 浩さんから3人へ
- 宮下:
- おやっさん、今日はお越しいただいてありがとうございました!
- 佐々木:
- こちらこそ、ええ刺激をもらったわ。
3人とも今までに習得してきたことを自分なりに咀嚼して、挑戦的にボリューム感を付けて「これを食べてくれ!」という強さというか自信というか、躍動感みたいなものがあった。それは、すべての料理から感じたわ。
今日はこうして、カウンター越しに勝負したワケや。僕は63歳やから20歳以上年齢が違うけど、「負けてられん、まだまだ走り続けたい」という気持ちにさせられた。感銘を受けた!
- 全員:
- ありがとうございます!
- 佐々木:
- ただ、今日のテーマは何か?ということをもっとはっきりさせた方が良かったな。同じカウンターで食べてた人が「今日のテーマは発酵なんやね」と言うてはった。でも、それだけじゃないやろ。
3人おるから一部・二部・三部構成にするとか、「今日のテーマはコレです!」というのをしっかり掲げるとか。料理人の意図とお客さんの受け取り方ってまったく違うから、そこは今後、生かしていったらええんちゃうかな。
- ノリ:
- 料理として着地させることに精一杯になってたかもしれませんね。
- 楠:
- テーマがあると、お客さまもそこを意識しつつ召し上がっていただけて、より満足度の高いイベントになるでしょうね。いい気づきになりました。
- 佐々木:
- そう思うわ。
でも、今回のコラボは非常に満足度が高かったと思う。それは3人の関係性、兄弟弟子というのも要因やな。献立決めるにも意見しやすいやろし、カウンターの中でも動きやすい。今日見てたら、宮下が主軸で動いて、足りないところを楠や中川がリカバリーしてる。だからこそ料理に膨らみが出つつも無理がない。これは素晴らしいこと。
- 宮下:
- やっぱり、店主同士や面識があまりない人とのコラボは難しいですか。
- 佐々木:
- 僕は今までいろんな人とコラボやってきたし、地方も回ってきた。和食同士のコラボってあんまりないから、大概別ジャンルの店主とのやりとりになる。立てるとこ立てて、引くとこ引く、お互い駆け引きしながら進めることになるな。
- 宮下:
- その難しさを乗り越えてやる意味って、どこにありますか?
- 佐々木:
- 親方同士は、正直あまりないと思う。
ただ、弟子たちにとってはすごくプラスやねん。イタリアンとかフレンチとか中国料理とか、全然違う調理法を知ってる友達ができる。「あれ、どうやって火入れたん?」とか「あのソース、どうやって作るん?」とか聞いていったら、自分の武器になるし、料理の幅を広げることになる。
そのチャンスを作るのが親方の仕事。それを「めんどくさい」とか言うヤツはちっちゃいわ。弟子がついたら、そいつらのことも考えていかなアカン。
- 宮下:
- おやっさんの親方としての姿勢を、改めて学べて嬉しいです。
- 佐々木:
- また、久々にみんなで飲もうよ! いろいろ話したいわ。
- 全員:
- ぜひ! よろしくお願いいします。ありがとうございました!
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