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コラボイベントVol.3 本番【前編】

京都の名割烹『祇園さゝ木』出身の料理人によるコラボイベント本番。京都『ひがしやま司』の宮下 司さん、「発酵」をテーマに活動する料理人・楠 修二さん、イタリア料理『cenci(チェンチ)』に勤務する中川寛大(のりひろ)さんの3人が、5日にわたって昼夜2回転のカウンターを盛り上げました。料理はもちろん、アルコール&ノンアルコールペアリングもアイデア満載。その全容を、前・後編の2回に渡ってお届けします。

文:阪口 香 / 撮影:高見尊裕

目次

宮下 司さん(京都・日本料理『ひがしやま司』店主)

1985年三重生まれ。『祇園 丸山』『祇園さゝ木』などで計16年修業した後、2021年11月に独立。名物“シャリ粥”や生春巻など、シンプルながら心に残る攻めの料理を得意とする。

楠 修二さん(発酵料理人)

1990年大阪生まれ。寿司屋や『祇園さゝ木』の姉妹店『祇園 楽味』で修業し、現在はフリーの料理人として活躍。自家製で味噌や醤油、納豆など約40種を作り、発酵の研究を重ねる。料理教室、発酵商品開発なども行う。

中川寛大さん(京都・イタリア料理『cenci』勤務)

1994年三重生まれ。高校生レストランで有名な三重県立相可(おうか)高等学校を卒業後、『祇園さゝ木』にて修業開始。2020年から二番手として活躍。23年より京都のイタリア料理『cenci』勤務。

いよいよ本番!

8月下旬。京都『ひがしやま司』にて、コラボイベント本番を迎えた。5日間、昼夜2回転。価格はドリンク込みで5万円。献立会の後、試作会を複数回重ね、料理はもちろん、アルコール・ノンアルコールペアリングの内容も詰めてきた。

昼12時30分。8席のカウンターには目を輝かせるお客が並んでいた。

宮下 司(以下:宮下)
本日はお越しいただき、ありがとうございます。
この3人は『衹園 さゝ木』での修業時代、「献立会」を毎月開催し、「自分だったらこうする!」というコースの献立を互いに発表。「もっとこうした方がええんちゃう?」とか「その発想ええな!」と意見交換し、切磋琢磨してきた仲なんです。
今回、5年ぶりに献立会を行い、このようにコラボイベントを開催できて感無量です。2人の胸を借りつつ、精一杯のもてなしができたらと思っています。
楠 修二(以下:楠)
『衹園 さゝ木』に入るまでは寿司屋で働いていたので、「献立会」は僕の成長の機会で、今でも宝物です。その頃から興味があった「発酵」に今は特化し、料理教室やポップアップイベントを開催するようになりました。今回のコースでも発酵のエッセンスを組み込んだのはもちろん、ノンアルコールドリンクのペアリングにも挑戦しました。そちらもぜひ、お楽しみください。
中川寛大(以下:ノリ)
10年間『衹園 さゝ木』でお世話になり、今はイタリアンイノベーティブと言われているレストラン『cenci』に勤務し、料理の幅を広げています。本日は皆さまに楽しんでいただける食事会にしたいと思っていますので、よろしくお願い致します!

会話のきっかけになる先付八寸

料理人3人作業中

お客が到着し始めると同時に、板場の氷柱に大小のハスの葉が飾られ、どんどん料理が盛り付けられていく。少し張り詰めた空気の中、3人の動きや会話が緊張感をほぐし、夏らしい装いや美しい仕立ての料理が会話のきっかけを作る。見ているだけでワクワクしてくる一品目。先の挨拶の後、各人に取り分けて提供された。

先付八寸

先付八寸盛付け右奥のカクテルグラスは、剣先イカとクレソンのソース(宮下)。手前の器には温かい落花生のスープ(ノリ)。山椒とトウガラシオイルがかかっている。丸皿の左上より時計回りに、ホオヅキに入れた新ギンナンとシャインマスカットの白和え(宮下)。春巻きのタルト生地に、タコとジャガイモ、木ノ芽のジェノベーゼソース(ノリ)。黒づくり(イカの塩辛の一種)を衣にして揚げた子芋(楠)。マヨネーズ仕立てにしたエビ魚醤と甘エビを和えたもの(楠)。海苔をのせて。※()内は料理の担当。

宮下:
どうぞ、お好きのものからお召し上がりください。
3人がそれぞれ2品ずつ作りました。イカと白和えは宮下、子芋と甘エビは楠、落花生のスープとタコのタルトは中川です。

お料理がたくさんあるので、ドリンクは2種。アルコールはシャンパンと滋賀の日本酒「喜楽長(きらくちょう)」をご用意しています。
楠:
ノンアルコールは、緑茶のティーソーダ(緑茶を炭酸水に浸けたもの)とイチジクのコンブチャの炭酸割りです。イチジクは、実より葉の方が香りが強いので、まず葉を煮出した後、果肉を加えて煮出し、コンブチャ菌を入れて発酵。酸味があって、爽快な感じに仕上がっているかと思います。アルコールとノンアルのご希望は聞いてますが、ご興味があればどちらもお出ししますのでおっしゃってください。

3人の個性が表れた小さな料理が6品。植物性と動物性の食材をメインにした料理をそれぞれ1品ずつ用意したことで、品数が多くても食べ進めやすく、満足感の高い仕上がりとなっていた。

水キムチの酸が利いたシャリ粥

シャリ粥とペアリングドリンク左/『ひがしやま司』で定番の「シャリ粥」を楠さんがアレンジ。「シャリ粥」は寿司飯に昆布だしを加え、具やオイルを合わせたものだが、昆布だしを水キムチの汁に変え、湯霜した岩牡蛎、大根とキュウリの水キムチ、ミニラ(小さなニラ)を添えた。右/ペアリングは、国産マッコリ(左)かノンアルレッドアイ。ノンアルコールビールにトマトだし・タバスコ・カルピスを加えたもの。

優しくもキレイな酸味の水キムチが、シャリの甘みや旨み、岩牡蛎の磯の香りを持ち上げる。韓国でお馴染み&乳酸菌発酵と共通点のあるマッコリが自然と寄り添う。千葉『White Monday』が醸す生マッコリは、特有の酸ある後味が心地よい。
ノンアルレッドアイもトマトの酸味やタバスコの辛味がアクセントとなり、どんどん箸を進めさせる。

“2層のだし”で楽しむカニ椀

楠:
お椀です。椀種は玉子豆腐と菱ガニ(渡りガニ)とキュウリの真丈。だしが2層に分かれていて、玉子豆腐の下に発酵させたトマトあん、後からカツオ昆布だしを注いでいます。まず、口を付けて澄んだだしをお楽しみください。椀種を崩して召し上がっていただきますと、最後にはサンラータンのような酸っぱい味わいに変化していきます。

『ひがしやま司』宮下 司さん、発酵料理人・楠 修二さん

カニ椀

一番だしと発酵トマトあんの2層仕立てという意想外な発想と、食べ進めるにつれて変化する味わいに客席からは驚きの声。キュウリは柔らかな椀種の中で食感が映え、いい意味での青くささもトマトと手を繋いでいた。

昆布〆万願寺がアクセントの、アワビの造り

アワビと万願寺唐辛子の造りを作る

アワビと万願寺唐辛子の造り蒸したアワビと昆布〆にした万願寺唐辛子を細切りにし、盛り合わせた。上には肝ソース、手前にワサビ。スダチを添えて。

宮下:
造り代わりのアワビと万願寺唐辛子です。イメージはチンジャオロース。ぜひ、和えてお召し上がりください。手前のスダチは途中で搾っていただくと、味が締まりますので、お好みで。
楠:
これは日本酒が抜群に合いますので、京丹後『竹野酒造』の「祝蔵舞(いわいくらぶ)」をお出しします。3~4年前、宮下さんと僕が泊まり込みで造りの勉強をさせていただいた蔵なんです。
ノンアルはキウイと甘酒を冷凍し、ドリップした濃い液体と山椒を合わせたもの。万願寺唐辛子の青っぽさと合わせました。

万願寺唐辛子は昆布〆にすることで青い香りを少し抑え、磯の香りを漂わせることでアワビとの相性をジャンプアップ。客席からは「野菜の昆布〆」の効果・方法に対する関心の声が寄せられた。

(後編に続く)

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