ニュースな和食店

コラボイベントVol.1「献立はどう決める?」

京都の名割烹『祇園さゝ木』で切磋琢磨し、今はそれぞれの道を歩む3人の料理人。京都『ひがしやま司』の宮下 司さん、「発酵」をテーマに活動する料理人・楠 修二さん、イタリア料理『cenci(チェンチ)』に勤務する中川寛大(のりひろ)さんが集結し、8月にコラボイベントを開催します。近年ますます増えているこの「コラボ」、一体どうやって献立を決めるのか? 開催当日までに何が必要なのか? 3人のミーティングや試食会、また、イベント当日まで密着し、その模様をレポートします。

文:阪口 香 / 撮影:福森クニヒロ

目次

宮下 司さん(京都・日本料理『ひがしやま司』店主)

1985年三重生まれ。『祇園 丸山』『祇園さゝ木』などで計16年修業した後、2021年11月に独立。名物“シャリ粥”や生春巻など、シンプルながら心に残る攻めの料理を得意とする。

楠 修二さん(発酵料理人)

1990年大阪生まれ。寿司屋や『祇園さゝ木』の姉妹店『祇園 楽味』で修業し、現在はフリーの料理人として活躍。自家製で味噌や醤油、納豆など約40種を作り、発酵の研究を重ねる。料理教室、発酵商品開発なども行う。

中川寛大さん(京都・イタリア料理『cenci』勤務)

1994年三重生まれ。高校生レストランで有名な三重県立相可(おうか)高等学校を卒業後、『祇園さゝ木』にて修業開始。2020年から二番手として活躍。23年より京都のイタリア料理『cenci』勤務。

どんなスタイルのコラボにする?

6月中旬、一回目のミーティングが行われた。

集まった3人は『祇園さゝ木』修業時代の先輩後輩。現在、『ひがしやま司』の店主を務める宮下 司さん、「発酵」をテーマに活動する楠 修二さん、2023年よりイタリア料理『cenci』に勤務する中川寛大さんだ。

修業時代、3人は自主的に集まって「献立会」を開催していた。「自分がコースを組み立てるなら」をイメージして献立を書き、その狙いや展開、調理法を発表。他のメンバーから意見を受け、ブラッシュアップを図る…ということを毎月続けた。

時が流れ、それぞれの道を歩むなか、3人がコラボイベントを開催することに。会場となる『ひがしやま司』に集まり、具体的な献立を決めていく。

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料理人同士が行うコラボイベントでは、
・1皿の料理を複数の料理人で考える
・各人が料理した皿を、交互や順不同で構成する
パターンがあるが、多くはコースの中で混在させることが多い。
また、特別にテーマを設けたり、生産者や酒蔵が参加するなど、イベントならではのコンテンツが組み込まれることもある。

宮下 司(以下:宮下)
コラボって、料理人同士の関係性と練り具合、試作できる回数によってスタイルの向き、不向きがあると思ってて。

例えば、京都と東京みたいに店が遠距離にある料理人がコラボする場合、一緒に試作できる回数は限られてる。そういう場合、各々が作る料理をメインに、数品だけミックスさせる、という方が安心。有名店同士なら、お客さんは2店の料理を味わえて「一度で二度おいしい」し、シグネチャーディッシュが出てきたらやっぱり嬉しいっていうのはあるかな。
中川寛大(以下:ノリ)
僕が『cenci』に入ってから経験したのは遠距離コラボ。しかも相手は海外のお店が多かったです。でもシェフ同士、相手の料理を食べたことがあるから共通言語を持った上でやり取りできていたので一皿を両者で作ることができていました。

新たな料理を作る、というよりは、「今、肉でこんなソースを作ってる」とか「こんな調味料を作ってる」など意見交換をして、「じゃあウチのあの料理に合わせよう」といった感じでまとまる。お互いの料理を理解しているからできるスタイルですね。
楠 修二(以下:楠)
僕はお店を構えていないので、基本的にコラボ相手のお店にお邪魔します。イベント当日に来られるのもそのお店の常連さんであることが多いため、相手の意向を伺ってコースを組み立てますね。

あるお店では、僕が出した献立に少しずつ手を加えてくださったのですが、その時のコースは料理に無理がなく、コラボ感もしっかりあってお客さんの反応も良かったです。

逆に頑張ってコラボした皿を出そうとしても、練れていないとお客さんに伝えたいことが伝わらないケースもありました。
ノリ:
この3人で行う場合、相手がどんな料理を作るのかは分かっているし、店が近くて集まりやすい。試作もしっかり行えますね。
宮下:
だからこそ、3人の色をしっかり出して、ミックスしたいね。
その上で、カウンター席ならでは、目の前で作る意味のある料理をお客さんに楽しんで欲しいな。
楠:
3人の要素を組み込むのって難しいと思いますけど、満足度が高いものにしたいですね!

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献立を出し合い、1本のコースを組み立てる

コースを組み立てるにあたって、3人はかつての「献立会」と同じように献立を書き、プレゼン。その中で自分が絶対に作りたい料理、他2人の献立の中で採用したい料理を話し合った。

<宮下案>
・先付八寸 氷柱
・シャリ粥+α
・椀 鮎と胡瓜
・造り替わり 鮑と万願寺唐辛子
・生春巻
・羊or馬
・冷たい料理
・ご飯 宮下:カレー/楠:納豆ご飯/ノリ:麺
・お菓子

<楠案>
・毛ガニ 桃 トマト 赤シソコンブチャ
・鮎の青竹焼き 揚げ蓼
・椀
・造り1 甘エビ剥き立て 海老醤
・造り2 水ナス ミョウガ 梅酢 熟飯 古代酢 魚
・焼き物 マナガツオ 鷹峯唐辛子 辛子麹
・箸休め 黒麹 冬瓜 シャインマスカット ワサビ スダチ
・丸つみれ 丸あん ショウガ 揚白髪ネギ
・ご飯1 魚醤のたまごかけごはん
・ご飯2 納豆ごはん
・赤だし 素麺 山椒油
・お菓子

<中川(ノリ)案>
・一口のスープとスナック
・前菜
・凌ぎ 毛ガニ(カニビスク) ローストトマト(コリアンダー クミン振って) 餅米と丸麦(ターメリックで色付け) セロリ魚醤酢漬け マイクロセロリ 
・お造り 海老
・焼き魚 甘鯛鱗揚げ 冷たいモロヘイヤだし
・肉料理 七谷鴨炭焼き 発酵パプリカペースト カイエンペッパー 牡蛎オイル漬け味噌 ズッキーニ炭焼き(富士酢 塩)
・野菜料理
・食事1 鰻関東風蒲焼きととうもろこし リゾット 馬告(マーガオ) 間引きのクレソン
・食事2 全粒麺(枝豆、鶏だし、牡蛎エキス、スパイスオイル) 枝豆の冷製グリーンカレースープ 殻付き白エビフリット シトロンキャビア スダチ添え マイクロハーブミックス(パクチー ミント フェンネル)
・お菓子 豆花 苦汁で寄せた豆腐 粗糖シロップ 番茶わらび餅 マンゴー 白小豆(アニス風味) パッションフルーツ ゴマ

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宮下:
僕の案の「先付八寸」は、“3人のコラボ感”をドン! と表明するもの。板場に氷柱を並べて、その上に1人2品ずつアミューズ的な料理を盛る。野菜料理1品、動物性の料理1品がいいかな。
それをみんなで取り分けて提供する。
ノリ:
氷柱が置いてあると目を引くし、スペシャル感がありますね。
僕が考えてた「一口のスープとスナック」もここに組み込めたらと思います!
楠:
3人が同じような動きをするのがいいですね。一体感が出そう。
僕も、お造りとして考えてた「甘エビ剥き立て 海老醤」はこちらに入れてもいいかも。
宮下:
けっこう品数があるから取り分けるのに時間を使うけど、お客さんがちょっと遅れた時にも対応できるかな、と思って。

で、次にウチの名物「シャリ粥」が出せたらな、と思ってる。シャリ粥は、シャリに昆布だしを加え、具やオイルを合わせたものやけど、二人の「発酵」や「洋」の要素を掛け合わせたら面白いものができそうやなと思うんやけど…どう?
楠:
それなら昆布だしを水キムチに変えるのはどうでしょう?
宮下:
いいね! 具は……湯がいた岩牡蛎や野菜をのせたらいいかもね!

次、「椀」はどうしようかな。出さなくてもいいけど、3人とも和食出身やから入れるのもアリかなと思ってて。
楠&ノリ:
いきましょう!
楠:
ノリも書いてましたけど、椀種に毛ガニを使いたいなと思います。赤色繋がりで発酵トマトあんを作り、吸い地と共に注ぐ。そうすると、はじめにカツオ昆布だしの旨み、後から発酵トマトの酸味を感じられる、独特な椀になると思います。
ノリ:
それいいですね! 夏らしいお椀になりそうです。
造りは、宮下さんの鮑がいいなと思いました。見たことないものができそう。
宮下:
イベントがある8月下旬って、なかなかいい魚がないからなぁ。
考えてるのは、鮑と昆布〆にした万願寺唐辛子を細く切って和え、肝ソースをかけた一品。見た目はチンジャオロースみたいな感じ。お酒も合わせやすいと思うねん。
楠:
見た目もキレイに仕上がりそう。

肉は、どうしましょうかね。
宮下:
なかなか魚介が難しい時季やから、何か入れた方が僕はいいと思うけど…。
ノリ:
これ、ちょっと僕の宿題にさせてもらっていいですか。和食にはない肉の火入れも勉強してきたので。

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宮下:
せやな、任せた!

肉の後、ちょっと口直しが欲しいかな。
楠:
これ、僕が考えてきた黒麹と冬瓜の一品でいきたいです。
黒麹を発酵させて甘酒を作ることができるんですけど、黒麹にはクエン酸が入っているので甘酸っぱい味わいになります。しかも黒色の。ここに昆布だしで炊いた冬瓜を粗くつぶして浸け、水溶きワサビをかける。酸味や甘み、ワサビの刺激があって、口の中がリセットされると思います!
宮下:
面白そうやな! 
楠:
丸料理もいきたいです。スッポンつみれをスッポンだしで食べるような。
宮下:
コースの終盤やし、キノコとか添えて、ちょっと秋を感じさせてもいいかもね。
で、ご飯ものかな。
ノリ:
僕は東南アジアの麺料理、ラクサをイメージした料理を出したいです。
枝豆と鶏節でスープをとって、自家製のスパイスオイルをかけます。麺は全粒粉で打った自家製で。白エビの殻付きフリットとハーブをのせて、最後はスッキリ食べきっていただけるような。
楠:
僕は自家製の納豆ご飯かな。
宮下:
普段、店でも出してるカレーを出したいけど、同じじゃ面白くないから、特別に何か考えたいな。
ご飯物は、3人がそれぞれ作って、お客さんに選んでもらうスタイル。全部食べてもらってもいいしね。最後はお菓子で締める、という感じかな。
ノリ:
台湾に豆花(トウファ)っていうデザートがあって、豆乳を硫酸カルシウムで柔らかく固め、甘いシロップで食べるのですが、今回は和食のデザートなので豆乳をにがりで寄せるのはどうかな、と思ってます。
また、タロイモの団子とか、タピオカなどくにゅくにゅした食感のものを合わせることが多いので、宮下さんがいつも店で出されてる番茶のわらびもちを使わせていただきたいです。
あとは白小豆を京丹後で育てている人がいるので、白小豆にアニスの香りを付けたものをトッピング。シロップは粗糖か、緑茶やウーロン茶で作ってもいいかなと思ってます。
宮下:
めっちゃいいやん。京都やから、番茶のシロップとかでもいいかもね。

一旦、これで献立の大筋は見えたかな。
あとは、ここからどれだけ詰められるか…。ミーティング重ねて、試食やっていこう!
楠&ノリ:
はい!
楽しみです!

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