関西・地酒の星

私たちが、滋賀酒を選ぶ理由 <vol.1> 特徴と魅力 編

かつて「純米吟醸無濾過生原酒」の鮮烈な味わいで、関西日本酒界にセンセーションをもたらしたのが、滋賀の日本酒、すなわち「滋賀酒」。全国的に知られる銘柄を数多擁する今でも家族経営の小さな蔵が多く、生産者の顔が見える酒造りが特徴です。近年は世代交代を果たす蔵や、自社田での米作りに乗り出す蔵が現れ、滋賀酒の「GI指定」が話題になるなど、新たな風も吹いています。そこで、今回は滋賀酒に造詣の深い、京都『お料理とお酒 ふくら』、神戸『野菜居酒屋 いたぎ家』のお三方にお集まりいただき、滋賀酒の変わらぬ良さや変わりゆく良さ、そして料理との相性を語り合っていただきました。

文:河宮拓郎 / 撮影:桂 裕幸
村田光宏さん(京都・荒神口|『お料理とお酒 ふくら』/店主)

1970年、滋賀・大津生まれ。大学卒業後、23歳で料理の世界に入り、京都市内の割烹、寿司屋、居酒屋などで和食ひと筋に25年以上経験を積み、2019年に独立。機会を見つけては滋賀の酒蔵を訪れ、またイベントに参加するなどして造り手との交流を深めている。

村田雅恵さん(京都・荒神口|『お料理とお酒 ふくら』/酒アテンド担当)

北海道生まれ。光宏さんが修業していた居酒屋に客として訪れ、薦められた「浪乃音」で開眼。大津の居酒屋で働きつつ滋賀酒の蔵元や酒屋と親交を深め、『ふくら』創業後は、約30種を揃える滋賀酒中心の日本酒アテンドを担当する。

板木平(いたぎだいら)将人さん(兵庫・神戸|『野菜居酒屋 いたぎ家』/店主)

1979年兵庫・明石生まれ。幼い頃より料理好きだったことから「野菜料理で人を繋ぐ酒場」を目指し、神戸市内の居酒屋で5年ほど修業を積んだ弟の匠さんを料理長に、2013年『いたぎ家』をオープン。週の半分は和歌山・龍神村にある畑に兄弟と母の3人で通って農薬不使用の野菜を育て、その野菜を主役にしたアテと、80種以上揃える滋賀酒を合わせて飲ませる。

「滋賀酒」の、ここに惚れました

お三方が滋賀の日本酒に惹かれるようになった経緯を教えてください。
板木平将人(以下:板木平)
僕は独立前の会社員時代に、10年ほど滋賀・彦根に住み、寮暮らしをしてました。その時の先輩が大の日本酒好き・飲み会好きで、せっかく滋賀にいるのだからと夜な夜な地の酒を見繕っては飲ませてくれた。蔵の名前を覚えるようになったのは、その頃からですね。
『いたぎ家』の開店にあたっては、10年住ませてもらった恩返しとして、また自分史のひとつの表現として、滋賀の酒に絞ることにしました。
村田光宏さん(以下:光宏)
若い頃、「日本酒をたしなむ姿ってかっこいいな」という不純な動機(笑)で飲み始めたクチです。
はじめはサラサラと飲みやすい酒ばかりでしたが、ある居酒屋での修業中に、店長さんと親交のあった『浪乃音酒造』(代表銘柄「浪乃音」)の造りの手伝いをさせてもらうことがあり、そこで飲んだ酒が「香りがあって甘みがあって、旨いなあ」と。滋賀に住んでいながら、当時知っていた蔵元はご近所の『平井商店』(代表銘柄「浅茅生(あさぢを)」)くらいで、県内に蔵が30以上もあることさえ分かっていませんでした。
村田雅恵さん(以下:雅恵)
私は、もともとは日本酒が嫌いで(笑)。この人(光宏さん)が勤めてた店に客として行って…。
光宏:
日本酒飲んでナンボの店なのに「日本酒、飲めないんです」って言うんですよ。
そういうお客さんはたまにいますし、特に女性に「試してみませんか」と提案する酒は決めていて。それが「浪乃音」の純米大吟醸・ささにごり。やっぱり、甘みがあって香りがいいから。
雅恵:
正直、味は覚えてないんですけど、美味しいなと思ったのは確かで、それが実質的な日本酒デビュー、かつ滋賀酒デビュー。
その後、大津の居酒屋『直(なお)』で長くアルバイトをするんですが、ここ、滋賀の蔵元さんが入れ替わり立ち替わりで飲みに来る店なんです。『ふくら』を開くにあたっては、造ってる人の顔や人となりを知ってる滋賀のお酒でラインナップの半分は埋めたいね、と二人で話し合って。ほどなく、滋賀酒中心の店になっていくんですけど(笑)。
板木平:
滋賀って、蔵と店、蔵とお客の距離が近いですよね。

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雅恵:
そう! 私たちも各蔵の蔵元さんや杜氏さんの名前はだいたい知ってますし、蔵元さん・杜氏さん同士も普段からよく会って話をしている間柄の人が多い。飲食店で、お客さんの反応を積極的に窺ってる方もいらっしゃいます。
板木平:
ある京都の蔵の営業さんが「京都では、あの距離感はないワ」と言ってましたし、神戸にいても、そういう空気を感じることは稀ですね。
雅恵:
家族経営の小さな蔵が多くて、道具の貸し借りや譲り合いが珍しくない。本来は企業秘密であるはずの造りに関する情報交換も活発で、滋賀ではあまり行われてこなかった生酛(きもと)造りが広まったのも、そういう流れがあるのかもしれません。
イベントへ意欲的に参加する蔵も多いですよね。特に甲賀市の酒造組合は、大阪や東京の日本酒イベントにも足をのばしています。

伝えたい、「滋賀酒」のエエとこ

ご自身が思う「滋賀酒」の魅力、また、お客さんに薦める時のポイントは?
板木平:
米の旨みがしっかりとのってるから、うちのような居酒屋の料理、味が強めの料理に合いやすい。その背景には、米を大事にする蔵が多いということ、もっと言うと、米を含めて滋賀県産を大事にするという姿勢が共通していると感じます。時代にマッチしているし、お客さんに薦めるためのキーワードも自然と多くなりますよね。
それと、『美冨久酒造』(代表銘柄「美冨久」)の「三連星」シリーズのように、コンセプトがはっきりしていて造り分けが明快な酒は、お客さんに提案しやすいしファンもつきます。
『笑四季(えみしき)酒造』の「笑四季」も、銘柄や造りごとにガラッとラベルを変えたり、色違いにしたり。だから、ただ「笑四季を飲んでる」じゃなくて「笑四季の○○を飲んでる」っていう、差異を楽しんでもらうような提案ができるんです。
光宏:
味わいの多様性と、料理と合わせて飲んだときの美味しさ、というのが第一ですね。ひと口の中に様々な要素がある、つまり“味が多い”ので、料理と結ばれやすい。
お客様への提案という点では、若い頃の私のように「飲みやすい辛口の酒」がいいと思っておられる方にこそ滋賀酒を試していただきたい。米と麹、水でできた“旨み飲料”として、米を噛むような気持ちで舌にのせてほしいなと。味わいの傾向は蔵ごとに違いますが、米の旨みがストレートに出る、大吟醸・吟醸を含む純米系から飲んでみてはどうでしょう。

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雅恵:
うちの日本酒メニューの一番バッターである「浪乃音」の蔵元では、毎月第4金・土曜日に「はかり売り」という直売をやってて、限定ブレンド酒があるんです。毎回ブレンドが変わるので味わいもちょっとずつ違うのですが、お客さんに「美味しい!」と言ってもらえる“通算打率”は8割以上。「辛口をお任せで」って頼んでくださるお客さんに対しても、一種のベンチマークとして、プロフィールを説明した上でこのお酒から試してもらうことが多いですね。
ちなみに『美冨久酒造』や『北島酒造』(代表銘柄「北島」)、『福井弥兵商店』(代表銘柄「萩乃露」)など他の蔵でも、量り売り直売が行われているようです。

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板木平:
あと、滋賀から離れた神戸で店を持っている僕らとしては、酒屋さんからの“生きた”情報がありがたい。大津『小川酒店』のように蔵との密接な交流がある酒屋さんは、小造りのライブな酒が入ってくるだけでなく、わざわざ手紙を添えて酒の詳細を教えてくれたりもする。酒はストーリーと共に楽しんでほしいですから、蔵と酒屋との距離の近さも滋賀酒の美点のひとつだと思います。
光宏:
酒屋さんはほんまにいろんな情報を持ってはりますね。仕入れの時に、このお酒の米はこうだ、造りはこうだというのを聞いているから、蔵の人に会ったときにさらに詳しく聞ける。

みんな旨い、なかでも注目は?

チョイスに悩まれるでしょうが、いま“推し”の蔵、注目の蔵を挙げてください。
板木平:
やはり米との関わり方という点で、自社田での米作を行う『畑酒造』(代表銘柄「大治郎」)、水草農法の米にこだわる『松瀬酒造』(代表銘柄「松の司」)の心意気に打たれます。
『安井酒造場』(代表銘柄「初桜」)は、次代を担う安井太郎さんが、当代蔵元の父・利晴さんと競い合うように方向性の異なる酒を造り分けていて、僕らも家族経営の店ですからシンパシーを覚えます。
光宏:
注目という意味では、代替わりを果たした、あるいは成功しつつある『浪乃音酒造』『安井酒造場』『望月酒造』(代表銘柄「寿々兜(すずかぶと)」)『喜多酒造』(代表銘柄「喜楽長」)。若夫婦が造りに取り組む『平井商店』、後継者不在とコロナ禍で経営危機に陥りながらも、月桂冠OBの大邊(おおべ)誠さんが事業継承に入った新生『吉田酒造』(代表銘柄「竹生嶋」)も注視しています。
板木平:
そうした流れの中で、新たな銘柄やバージョンがどんどん増えていっています。先述の安井太郎さんが始めた「生酛太郎」シリーズや、『浪乃音酒造』11代目・中井充也さんの「Te to Te」シリーズなど、同じ蔵の中で新旧世代がお互いの居場所を尊重しながらも、ライバルのようにしのぎを削っている。こういう蔵は強いですよね。

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酒蔵と飲食店、酒蔵と飲み手、酒蔵と酒販店、さらに、酒蔵と酒蔵。そのいずれにおいても互いの距離が非常に近く、またコミュニケーションが密である、ということは、滋賀酒に明るいお三方の共通認識のようです。山紫水明、屈指の米どころという好条件のもと、家族経営やそれに近い規模の酒蔵が、世代交代を果たしながら造りを続けていく「滋賀酒」は、そのストーリーを肴にするだけで飲めてしまう、そんなお酒かもしれません。

vol.2では、滋賀酒と料理とのマッチングを深掘りしつつ、相性抜群の近江食材を用いたアテ料理もご紹介します。

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