古の製法×現代の粋
ピチッピチッ。垂れ壺に搾りたての酒が一滴、また一滴と落ちる。500年以上の時を超えて復活した「菩提泉」の産声は、まるで精霊の囁(ささや)きのような澄んだ音色だった。
奈良の8蔵が県と共に、日本酒発祥の地とされる菩提山正暦寺で古の酒を蘇らせる。その復活劇を「あまから手帖」2021年4月号の特集「地酒アップグレード」でご紹介したが、密着できたのは搾りの日までだった。あれから10カ月、火入れした後、熟成を経て、ようやく令和の「菩提泉」が届いた。
乳酸由来の柔らかな香り。口に含めば、きれいな酸が解き放たれたように広がる。甘みの後のわずかな苦みが品のいい余韻へと繋がっていく。室町時代の酒造記「御酒之日記」に描かれた「菩提泉」の造り方を再現しながらも、現代の醸造家のセンスを織り込み、モダンな味に——。その挑戦は見事に結実していた。
古くて新しい“はじまりの酒”
「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」は、“奈良の酒らしさ”を追求すべく、90年代に発足した。まずは、「菩提泉」をルーツとする「菩提酛」を復活。生米を乳酸発酵させた「そやし水」を使う奈良独自の製法だ。
毎年1月上旬、「菩提酛清酒祭」が正暦寺で行われている。この日、研究会の現メンバーである、生駒の『菊司醸造』『上田酒造』、都祁(つげ)『倉本酒造』、御所(ごせ)の『葛城酒造』『油長(ゆうちょう)酒造』、吉野『北岡本店』、奈良市『八木酒造』、三輪『今西酒造』の8蔵が集結。正暦寺の住職や僧侶、県の産業振興総合センターの先生と共に、皆で菩提酛を仕込むのが恒例だ。
2週間後、発酵を終えた菩提酛は、各蔵に分配される(酛分け)。ちなみに、酛は酒母とも呼ばれ、これを三段仕込みで増量するのが現代主流の酒造りだが、この手法もまた奈良から始まった。その誇りを胸に、各蔵は持ち帰った菩提酛を三段仕込みで醸造。それぞれの蔵の個性を映し、8蔵8様の菩提酛の酒が生まれていく。
一方、「菩提泉」は、酛づくりから搾りまで、すべての工程を研究会のメンバーが共同で行う。最大の特徴は、三段仕込みが生まれる前の酒ゆえ、菩提酛をそのまま搾ること。当然のことながら酒となるのは少量。希少で、高価だが、濃密な旨みの酒となる。
500年以上前の寺院醸造の名残を味わうことのできる希少な一本。そこには、“古くて新しい地酒の魅力”が宿っている。
大阪・京都『酒のやまもと』
http://sakenoyamamoto.main.jp/
※大阪・京都に4店舗あり
奈良『登酒店』
【住所】奈良県天理市田井庄町555
【電話】0743-62-0218
https://www.nobori-sake.com/
奈良『東川商店』
【住所】奈良県御所市西町121-1
【電話】0745-62-2335
https://www.higashigawa-saketen.com/
兵庫『すみの酒店』
【住所】神戸市長田区花山町2-1-27
【電話】078-611-1470
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