浪速割烹の“動く”料理

【動画レシピ付き】焼きムラがなく、ヒレや尾まで美味い「鮎の塩焼き」

バックヤードに設えた淡水の水槽には鮎が泳ぎ、注文が入れば、生きたまま調理する。大阪・北新地の浪速割烹『さか本』では、次男がカウンターに立つ今もこのスタイルが貫かれています。始まりは30数年前、元大将・坂本靖彦さんが鮎釣りに目覚め、釣り仲間や産地の方々と太いパイプを築いたことから。以来、解禁日からシーズンが終わるまで、週に一度は奈良の川へ。鮎料理は『さか本』の名物となりました。自分や仲間が釣り上げた鮎だからこそ、鮮度のよさを生かした丁寧な仕事で調理したい。そんな坂本さんの想いは、定番の塩焼きにも表れています。焼きムラがなく、ヒレや尾まで美味い、秘伝の『さか本』流鮎の塩焼きをご紹介します。

文:中本由美子 / 撮影:福本 旭

うちの割烹では、長らく奈良の天川(てんかわ)の鮎をお出ししています。解禁は毎年6月1日前後なのですが、その日は私も夜明け前に天川村に入って、一番鮎を狙ったものです。一番鮎というのは、いい餌場(えさば)で育った大きな鮎のこと。これが風味豊かで美味い! 天然の鮎には、エラの下あたりに黄色い斑紋(はんもん)が現れます。これを釣り仲間たちは“追い星”と呼ぶんですね。

水槽で鮎を生かしてましたから、うちの割烹では、解禁となれば鮎目当てのお客様ばかり。ほとんどの方が塩焼きをご注文になりましたね。注文が入ると、お客様の目の前で締めて、うねり串を打ちます。生きた鮎は張りがありますから、目から串を入れて、追い星のところに出し、背骨に沿うようにして背ビレの下にまた入れて、尻ビレのあたりに出す。対して、死んでしまった鮎は腹の皮が裂けやすいので、口の中から串を打つといいですね。これは、いずれも腹を手前にしてお出しする場合の串の打ち方です。

海腹川背(うみはらかわせ)といって、本来、川魚は背を手前に盛るんですね。海の魚は腹に脂が多く、川魚は背の方に脂がのっている。そこで美味しい方を手前にしてお出しした、ということなんでしょうが、これは神饌(しんせん)としてお供えする時も同じです。
海腹川背でお出しする場合は、背が手間になるよう、目→追い星→背ビレ→尻ビレと打っていきます。

鮎は香魚というくらい香りがいいので、天然鮎の場合は特に塩の加減が大切です。塩がきつすぎると、せっかくの風味が損なわれます。頭を高く、尾は低く固定して焼いていくので、頭の方に振った塩が脂と共に尾の方に流れていきます。これを計算して、尾の方の身にはあまり塩をしないこと。ヒレや尾に化粧塩をしますが、これもごく薄く。焦げないようにアルミホイルを被せながら焼き上げていくと、このヒレや尾まで美味しくいただけるんです。常連さんにも「ええアテになる」と、よく褒めていただきましたね。

20分ほどかけて焼いていくので、ところどころ焦げてしまいがちです。ですが、焦げてしまったら鮎の風味は台無しです。付きっきりで、面倒でも早く焼けた箇所にはこまめにアルミホイルをのせ、焼きムラが出ないよう均一に焼き上げること。うちの塩焼きの極意は、このひと手間にあります。

「鮎の塩焼き」の作り方

① 生きている鮎の脳天に串を打ち、締める。
② うねり串をする。生きている鮎は目から串を通し、追い星のあたり→背ビレ→尻ビレと背骨に沿って縫(ぬ)うように串を入れる。死んだ鮎は、腹の皮が弱くなるので、これが破れないよう口の中から串を打つ。
何尾か一緒に焼く場合は、横串を打ってうねり串を固定すると扱いやすい。
③ ごく薄くヒレと尾に塩をする。
④ 頭から軽めに塩を振り、尾の方の身にはあまり塩をしない。
⑤ ガスの天火で表を6割、裏を4割のイメージで、20分ほどかけて焼き上げる。途中、ヒレや尾にアルミホイルを巻く。焼き目がついてきたら、その箇所に細かくアルミホイルをのせ、焼き色が均一になるようにすること。
⑥ 器に⑤を盛り、新レンコンと新ショウガの酢漬け、蓼の葉をあしらいにして、蓼酢を添える。

蓼酢

蓼の葉:塩を2:1ですり鉢に合わせ、しっかりとすり潰してから裏漉しする。この蓼ペースト1に対して、千鳥酢3を合わせる。

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