大阪料理会

【レシピ付き】お茶豆腐——『味菜』坂本 晋さん作

まさに、いぶし銀の仕事。北新地『味菜(あじさい)』店主・坂本 晋(すすむ)さんは、「大阪料理会」では最年長組とあって、毎回の発表で、忘れ去られてしまいそうな古い料理や昔ながらの仕事を、世代の違う会員に伝えてきました。今回は精進料理の一つとして知られる「茶豆腐」がテーマ。豆腐は茶巾絞りにし、ほうじ茶で煮て香ばしさをまとわせ、茶色に染めています。さらに、煎茶の香りを忍ばせ、仕上げに抹茶を溶き入れて──。3種の茶が織りなす枯淡の料理は、大阪・堺が生んだ茶人・千利休が好んだ侘びの風情に溢れていました。


※大阪料理会 公式サイトhttps://osakaryourikai.com/

聞き書き:中本由美子 / 撮影:福本 旭
坂本 晋さん(大阪・北新地|『味菜』店主)

1954年、岐阜県高山市出身。北新地『神田川本店』で修業し、北新地に店を構えて40余年。全国から産地直送で旬の食材を取り寄せ、新旧の技を巧みに融合させて割烹料理を仕立てる。育て上手としても知られ、実力派の若手料理人を次々と輩出。大阪料理会では運営委員として、古き仕事も惜しみなく披露している。WA・TO・BIでは連載「『味菜』の割烹料理」で季節の一品のレシピを紹介している。

古い精進料理を私なりにアレンジし、大阪・堺生まれの利休好みに仕立てました

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古い精進料理の一つに「茶豆腐」があります。豆腐を煎茶(番茶)で煮たものと言われますが、詳しい資料は残っていないようです。そこで、私なりの茶豆腐を作ってみようと考えました。

煎茶では豆腐に色も風味も付かないと思うので、ほうじ茶を使うことにしました。今、ほうじ茶はブームですしね。

昨年、千利休生誕500年を迎え、この茶人の故郷である大阪・堺では、お茶で町おこしを、という機運が再び高まっています。2025年には日本国際博覧会(大阪・関西万博)も控えていますし、大阪らしい茶料理ができたら、という想いも込めて仕立てました。

豆腐は利休好みをイメージして茶巾絞りにしています。利休がゴマ好きだったことから、ゴマを使った料理を「利休和え」「利休揚げ」と呼ぶでしょう。この豆腐生地にも、練りゴマを加えているんですよ。

茶巾絞りの芯には、花萱草(はなかんぞう)と蕗(ふき)味噌を入れています。花萱草は天日に干してから湯がき、吸い地で炊くと、お茶のような風味になります。そこに蕗味噌でほろ苦さと旨みを添えました。

茶巾絞りはガーゼに包んだまま、ほうじ茶で10分ほど煮て、茶色に染めます。この時、ガーゼの布目が豆腐生地に移るのですが、その表面の表情も侘びた風情として楽しんでいただけたらと思っています。

さらに、濃いめの昆布だしに今度は香りの強い二番茶を合わせ、茶巾絞りを軽く煮て、茶の風味を付けます。その煮汁に吉野葛でとろみをつけ、豆乳を合わせ、最後に抹茶を溶き入れて、茶巾絞りにかけて完成。抹茶は色も香りも飛びやすいので、供する直前に加え、沸騰させずに温めることがポイントです。

豆腐生地なのですっと箸が入りやすく、割ると中から黄色の花萱草が顔をのぞかせます。茶色と緑、白と黄色、その枯淡な色合いで、侘び寂びの世界を表現しました。利休好みの一品になったのでは?と思います。

osa0017-2c豆腐生地は箸ですっと切れる硬さ。ほどよい食感に、花萱草の歯触りが映える。「高次元で完成された一品」と、会員はみな感嘆し、「蒸し暑い日々が続く夏場に、涼しげで心が洗われるよう」と大絶賛。花萱草はなかなか入手しにくいが、「ヤブカンゾウ(金針菜)の花で代用するのもアリなのでは?」「乾燥の金針菜の花は中国食材店に売っている」と会員の間で活発に情報交換がなされた。

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