【レシピ付き】なめろうと、熟成ジャガイモのシャキシャキ麺
西心斎橋『和洋遊膳 中村』の中村正明さんは、連載「料理理科」でジャガイモの熟成メカニズムを学び、糖化を促進させる実験を重ねました。その結果、編み出したのは、皮付きのまま68℃で12時間コンフィにする手法。甘みよりも食感に驚きがあり、中村さんはこのコンフィでジャガイモ麺を考案しました。今回は、テーマ食材のアジをなめろうにして合わせ、冷製仕立てに。斬新な取合せに加えて会員が瞠目したのは、ジャガイモ麵の小気味よいシャキシャキ感でした。
※大阪料理会 公式サイトhttps://osakaryourikai.com/
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中村正明さん(大阪・西心斎橋|『和洋遊膳 中村』店主)
1963年、奈良県生まれ。20歳で『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』入店。総料理長・高橋忠之氏の下、フランス料理を修め、スウェーデン日本大使館の公邸料理人に。さらに『浪速割烹 㐂川(きがわ)』で腕を磨き、1995年に独立。和洋の枠に捉われない自由闊達な料理に定評がある。奈良に菜園を持ち、自ら野菜も栽培。「大阪料理会」運営委員。
『和洋遊膳 中村』中村正明さん作 アジなめろうの熟成ジャガイモ麺
今回のテーマはアジですが、昨年、「料理理科」で4回にわたって熟成ジャガイモの実験をさせてもらって面白かったので、ぜひ大阪料理会で発表しようと思って取り合わせました。
→中村さんの熟成ジャガイモの記事はコチラ
「熟成ジャガイモが甘いワケ」
「新ジャガの甘みを増す加熱とは?」
「ジャガイモの新しい食感【前編】」
「ジャガイモの新しい食感【後編】」
熟成ジャガイモは、とても糖度が高いのが特徴です。
以前、ある店で熟成サツマイモを食べたのですが、糖度の高さに驚きました。その時、熟成したジャガイモもあると聞いたので、取り寄せて加熱すると蜜煮みたいに甘くて。ポテトサラダにしてお出ししたら大好評でした。
今回使用した17カ月熟成のメークイン。右は土付き。糖化によってか、土が真っ黒になっている。左は土を洗い流したもの。糖度が高いため、割ると中の黄色みが増している。
アジは味噌と香味野菜を合わせてなめろうにし、熟成ジャガイモの麺にトッピングしています。日に日に暑さが増す時期なので、さっぱり食べていただこうと、梅びしおをかけて仕上げました。
熟成ジャガイモを12時間コンフィに
僕は畑をやっているので、自分で育てたジャガイモの糖度を上げられたら面白いなと思って。「料理理科」では熟成にも挑戦しましたが、糖化する加熱法もいくつか実験しました。
50~60℃で長時間加熱すると、β-アミラーゼが活性化し、でんぷんを分解して甘みが増すという仮説をもとに試行錯誤したのですが、劇的には甘くならなくて(笑)。でも、そんなことはどうでもよくなるくらい、歯ごたえのある面白い食感になったんですよ!
ジャガイモは生食するとお腹を壊すため、55℃以上で加熱して糊化する必要があります。ですが、50~60℃で長く加熱すると、PME(ペクチンメチルエステラーゼ)の働きで、細胞壁同士の間にあるペクチンが硬化して、食感が硬くなるんです。
そこで、PMEを働かせて歯ごたえを出しながら糖化も促進させ、しっかりと糊化して食べられる状態にするため、いろいろな温度帯と加熱法を試しました。結果、68℃で12時間コンフィにした後、90℃以上で加熱する、という方法に行きつきました。
ただし、皮付きでやらないとダメです。ジャガイモの香りは皮にあるので、むいてからコンフィにすると格段に風味が落ちてしまいます。これを熟成ジャガイモでやると、甘みはもちろん、風味全体が増すんですよ。
加熱してもシャキシャキ感が保たれる理由
今回は、熟成ジャガイモの甘さと、PMEの効果を知ってもらおうと思って、蒸しただけのもの、コンフィの薄切りを加えた玉子豆腐もご用意しました。
奥は、30分蒸した熟成ジャガイモ。右は、68℃で12時間コンフィにしてスライスした熟成ジャガイモ入りの玉子豆腐。手前が今回発表した「アジなめろうの熟成ジャガイモ麺」。
玉子豆腐は蒸し器で20分以上加熱しましたが、PMEが働いた熟成ジャガイモは歯ごたえのあるシャキッとした食感のまま。実は、PMEが働いて一度ペクチンが硬化すると、90℃以上で加熱しても硬さが保たれるんです。
→詳しくは「煮崩れさせない海老芋の炊き方は?」を参照。
そこで考案したのが、このジャガイモ麺。68℃で12時間コンフィにした熟成ジャガイモを桂むきにし、細切りにして茹でました。生のまま麺状に切って、糊化するまで茹でたら、ポキポキ折れてしまうでしょう。こんなにシャキシャキ感が残るとは、僕も驚きでした。
うちでもお出ししているのですが、お客さんの反応がめっちゃいいですね。冷製仕立てでも、熟成ジャガイモのインパクトある風味が充分に感じられます。
桂むきにするのに切り落とした両端と、残った芯の部分は、先ほどの玉子豆腐に活用しました。皮は素揚げにし、余すところなく使い切っています。糖度が高くて焦げやすいので、140℃くらいの低温からじっくり揚げるのがコツです。芋けんぴみたいな風味で美味しいんですよ。
奥は、コンフィにしたジャガイモの両端と、桂むきにした芯。これを使って玉子豆腐(左手前)を作った。右の皮の素揚げは、今回発表の料理に、食感のアクセントとして添えている。
アジの鮮度を生かす“叩かない”なめろう
ジャガイモ麺に絡みやすいよう、アジはなめろうにしました。和歌山で獲れた700gサイズの鬼アジで、脂もしっかりのっているので、叩いてしまうともったいなくて。小指大くらいに切っています。
すり鉢で煎りたてのゴマを軽くすり、刻んだ香味野菜と合わせ、田舎味噌と淡口醤油、土佐酢を同割にして味付けしています。アジを加えてよく混ぜ合わせたら、そのまま一晩置いた方が味が馴染んで美味しいですね。
もちろん、残ったアジのアラも無駄にはしません! 今回は塩焼きにし、昆布や梅干しと共に酒と水で煮出し、梅びしおを作りました。
熟成ジャガイモの麺のシャキシャキ感と力強い味わいに、会員は興味津々。ジャガイモの火入れに多くの質問が集中した。畑 耕一郎会長は、「アジとジャガイモの取合せに意外性があってよかった。アジを叩かず、刻んで使うことで、品のよい“割烹のなめろう”になっている」と評した。
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