和食を科学する料・理・理・科

サクふわっとした天ぷら衣にするためには? vol.3油編

京都・伏見の『清和荘』主人・竹中徹男さんが理想とする「サクふわっ」とした天ぷらを目指して、農学博士・川崎寛也先生と実験・検証を行うシリーズも、今回が最終章。vol.1では‟ふるいたてでない薄力粉を使う”、vol.2では“卵水は卵黄と卵白を独自に配合する”という2つの結論を得ることができました。ラストを飾るのは、「揚げ油の温度」の検証。計8回に及ぶ実験を経て、竹中さんはとうとう理想のエビの天ぷらを完成させます。

文:川島美保 / 撮影:香西ジュン / イラスト:宮野耕治
竹中徹男さん(京都・伏見『清和荘』三代目)

1963年京都生まれ。同志社大学で経済や経営を学んだ後、大阪にある日本料理の老舗『つる家』での修業を経て、1990年に家業の料亭に戻る。数寄屋造りの館に似合う伝統を重んじた料理を基本にしつつ、知的好奇心が旺盛で柔軟な性格。勉強会にも積極的に参加して、情報のアップデートを欠かさない。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」(柴田書店)。

天ぷらの火入れのメカニズムとは?

川崎寛也(以下:川崎)
vol.1で薄力粉、vol.2では卵の実験を通して、竹中さんが理想とする「サクふわっ」とした天ぷら衣の食感はデザインできそうだと分かりました。残る要素は、油ですね。
竹中徹男(以下:竹中)
軽さを出したいので、うちはクセのない太白ゴマ油だけを使っています。車エビを揚げる温度は180℃です。
川崎:
まず、天ぷらの火入れの流れをおさらいしておきましょう。加熱して初めに起こるのは、天ぷら衣の表面温度が上がり、衣が含む水分が蒸発すること。水分が抜けてできた穴に熱い油が入り込み、その熱で衣の中のたんぱく質が固まって気泡ができます

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竹中:
この気泡がしっかり固定されていると、サクッとした食感になるんですよね。
また、この時、天ぷら衣の水分と卵の油分が乳化していると、水分を閉じ込めて、ゆっくりと蒸発していくので、ふんわりした衣ができる、というお話でしたね。
川崎:
そうですね。衣の形がしっかりと保たれることで、エビの水分が閉じ込められます。この状態で加熱すると“蒸す”のと同じような火入れになるので、エビがしっとり揚がります。
竹中:
天ぷらが“蒸し料理”と言われる所以ですね。
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