【レシピ付き】淡口醤油で味を深めた「端午の節句」の2品
鯉のぼりや鎧冑(よろいかぶと)、柏餅に粽(ちまき)、菖蒲(しょうぶ)。5月5日の端午(たんご)のもてなしには、立身出世やお家の繁栄に繋がる縁起物が欠かせません。「男児のたくましい成長と成功を願う節句やから、豪勢に仕立てたいもの。具足に似た伊勢エビや生命力の強い穴子はよぉ使いましたな」と上野修三さん。今回は伊勢エビをづけに、穴子は骨だしで飯を炊き、蒲焼きを包んで笹巻蒸しに。どちらも淡口醤油が味の決め手。濃口醤油を用いない蒲焼きのレシピは必見です。
上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわの伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。
青葉に映える、淡口醤油仕立て
端午の節句にまつわる逸話には、面白いお話が多いんでっせ。
例えば、なんで粽を食べるようになったのか? この慣習は古代中国の故事に由来するそうだす。紀元前の中国に屈原(くつげん)という詩人がおりましてネ。優れた政治家でもあったそうやけど、陰謀による失脚を苦にして川に身投げしてしもた。それが5月5日のことやそうだす。
人々が屈原を惜しんで川に供物を流したところ、龍がみな食べてしまうため、龍が嫌いな栴檀(せんだん)の葉で餅を包み、五色の糸を巻いたというお話。その粽を今回は笹巻蒸しにアレンジしたってワケだす。
龍といえば、竜門という激流の滝を鯉が上りきると龍に変化したという中国の故事もおますな。登竜門という言葉は、そこから生まれたそうでっせ。鯉のぼりも、この故事にあやかってのものですな。
男児の健やかな成長を祝う端午の節句は、武家の時代、立身出世やお家の繁栄を願う色合いが濃くなったようだす。冑(かぶと)を飾ったり、菖蒲を尚武(武道を貴ぶこと)とかけて菖蒲湯に浸かったり、菖蒲酒を飲んだりしてネ。
そこで今回は、甲冑(かっちゅう)の具足に似た伊勢エビを“威勢海老”と記して、割鮮の主役に。淡口醤油のタレでづけにしてネ。お相手は出世魚といきたいところやけど、スズキはまだ早いし、サワラやブリはもう遅いでっしゃろ。そこで、そろそろ脂がのってくるコチを湯引きにして添えましてん。
端午の節句の料理は、勢いのある盛付けが似合いますな。今回は菖蒲と笹を使(つこ)たけど、新緑の頃によぉ似合ってますやろ。そこに、旨そうな色を添えてくれるんが淡口醤油。伊勢エビのづけは琥珀色に染まって、一層艶やか。実は、穴子の蒲焼きも、笹巻蒸しのご飯も淡口仕立てなんでっせぇ。
威勢海老づけの具足盛り 尚武鯒の湯引き——魚介の旬味を淡口醤油でぐっと深めて
伊勢エビを豪快に殻ごと煮た料理を具足煮と呼びますやろ。この具足は、甲冑の手足の部分のことですわな。鎧兜を飾る端午の節句に、これほどふさわしい食材はおまへん。
この時ばかりは“威勢海老”と謳って、豪華に殻も使って仕立てるのが私流。殻をうつわにして造り身を盛った割鮮は定番だした。今回は、頭に菖蒲刀をあしらって、鯉が上った白滝をウドで表現してみたんやけど、どないだす?
伊勢エビの身は、淡口醤油で30分ほどづけにしましてん。このづけダレには、伊勢エビの頭の蒸し汁を忍ばせてますねんで。そんならミソはどないしたん?とお思いやろけど、ミソまで入れたらやりすぎや。ミソと足の身はほじり出して、ゆり根やキクラゲと卵とじにしたら、旨いんでっせ。もちろん、味付けは淡口醤油で決まりだす。
お隣のコチは、菖蒲の頃が旬やから、菖蒲鯒なんて呼ばれますけどネ。これを尚武鯒としたんは、やりすぎやろか(笑)。皮付きで薄切りにすると、湯引きしても歯ごたえがあって、力強さを感じますな。やっぱり端午の節句向きや。
梅肉と重湯のタレをちょんちょんっとのせてお出しすると、見た目がよろしいな。けどネ、この葉皿には、淡口昆布醤油が潜んでますねん。コレ、あるのとないのでは大違い。淡口醤油の旨みがコチの持ち味をぐっと深めてくれるんでっせ。
威勢海老づけの具足盛り 尚武鯒の湯引きのレシピ
【材料】
伊勢エビ……2尾
酒……30㎖
淡口醤油……適量
コチ……1/2尾
ウド……適量
大葉……適量
ワサビ……適量
●梅肉落とし
⎟重湯……適量
⎟梅肉……適量
淡口昆布醤油※……適量
※昆布水(白湯を冷まし、爪昆布を半日浸けたもの)と淡口醤油を同割にし、煮切りみりん少量を加えたもの。
●その他
菖蒲・大根……各適量
【作り方】
<伊勢エビをづけにする>
- ①
- 伊勢エビを捌き、1尾分の頭を梨割りにしてヒゲを切る。バットにのせて酒を振りかけ、強火で10分ほど酒蒸しにする。
- ②
- ①の蒸し汁を漉し、淡口醤油と2:2.5で合わせる。
- ③
- 伊勢エビの身は殻から外し、背ワタを取って一口大に切り、②に30分ほど漬ける。
<コチを霜降りにする>
- ④
- コチはヒレを切り取り、ウロコをしっかりと取り除いてから3枚におろす。まな板にのせて斜めに立て、皮目に熱湯をたっぷりとかけて氷水に取る。残ったウロコを庖丁で丁寧にこそげ取る。
- ➄
- ④をそぎ切りにし、熱湯で湯引きし、すぐに氷水に取る。ザルに上げ、水気を拭き取る。
<白滝ウドを作る>
- ⑥
- ウドの皮をむき、15㎝長さに切ってから麺状に切る。酢少々を加えた薄い塩水(分量外)に浸けておく。
<仕上げる>
- ➆
- 大根を桂むきにし、1.5㎝幅に切って輪にする。①の伊勢エビの殻をよく水洗いしてのせ、頭部に菖蒲をあしらう。殻の中に大葉を敷いて③を盛り、⑥とワサビを添える。
- ⑧
- 小皿に⑤を盛り、重湯と梅肉を合わせた梅肉落としをのせる。淡口昆布醤油を皿に流す。
焼穴子と共飯の笹巻蒸し——蒲焼きも骨だしの飯も、淡口仕立てで
昔は端午の節句の料理といえば、鯉やったんでっせ。現代のお人は川魚が苦手なようやから、竜門の故事にちなんで、龍を思わせる長い魚でいきまひょ。鰻や穴子の笹巻蒸しはよぉ作りましたな。笹は常緑で生命力があり、真っすぐに成長することから、端午の節句にはお誂(あつら)え向きや。
穴子の中骨は、きれいに掃除して焼いてから煮出したら、ええだしが取れますねんで。このだしを使わない手はおまへんから、淡口醤油で塩梅して、もち米入りのご飯を炊いておくれやす。
身は蒲焼きで決まりだすな。となれば、濃口醤油で、というのが定石やけど、今回はちょっと冒険。淡口醤油をベースにタレを作ってみましてん。穴子の中骨を焼いて加え、酒・みりん・砂糖と合わせて、7~8分煮詰めて酒を煮切ったら、なかなかパンチのあるタレになりまっせ。
淡口ダレの蒲焼きは、穴子の持ち味に寄り添って、醤油味が前に出ないのがよろしいな。これを芯にして、淡口醤油で風味を付けた骨だしご飯で巻いて、軸三つ葉を少し。笹で巻いたら、芯まで温もるくらいに蒸して、熱々をお出ししまひょ!
笹のええ香りが、ほんのり淡口醤油をまとった穴子やご飯と相まって、なかなか品のええ仕上がりや。我ながら上出来!
焼穴子と共飯の笹巻蒸しのレシピ
【材料】
穴子……3尾
穴子の中骨……16尾分
昆布……1枚
米……3合(白米ともち米を7:3で合わせる)
三つ葉……1束
●共飯の調味液(540㎖を使用)
⎟穴子だし……450㎖
⎟淡口醤油……70㎖
⎟酒……30㎖
⎟みりん……30㎖
●蒲焼きのタレ
⎟穴子の焼き骨……8尾分(※上記の穴子の中骨を焼いたもの)
⎟淡口醤油……300㎖
⎟酒……270㎖
⎟みりん……270㎖
⎟砂糖……70g
●その他
笹・い草……各適量
【作り方】
<穴子の共飯を炊く>
- ①
- 穴子を捌き、中骨を取る。中骨はブラシなどで血合いをきれいに取り除き、よく洗う。網の上に並べ、天火で焼き色が付くまで焼く。
- ②
- 昆布を1ℓの水に一晩浸けておき、①を8本分加え、ひと煮立ちさせる。弱火に変え、20分ほど煮出す。漉して穴子だしとする。材料表の割合で淡口醤油・酒・みりんと合わせる。
- ③
- もち米と白米を合わせて洗い、30分浸水させた後、ザルに30分ほど上げておく。
- ④
- 土鍋に③を入れ、②の調味液540㎖を加え、共飯を炊く。
<穴子を蒲焼きにする>
- ➄
- ①の残り8本分の中骨を淡口醤油・酒・みりん・砂糖と合わせ、7~8分中火で煮る。漉して蒲焼きのタレとする。
- ⑥
- ①の身は背ビレなどを切り取り、皮目のぬめりを庖丁でこそげ取る。串を打ち、炭火で素焼きにする。⑤のタレをかけて焼く作業を2~3回繰り返し、色よく焼き上げる。
<笹巻きにして蒸す>
- ➆
- ⑥の穴子は頭と尾を切り落とし、縦に2等分する。
- ⑧
- ④の共飯を野球ボール大に握り、さらしの上に広げる。⑦を頭が逆になるよう2本のせ、茹でた軸三つ葉を7~8本分添える。巻きすにのせて巻き、ぐっと締める。
- ➈
- ⑧の両端を切り落とし、4等分にする。笹で巻き、い草で結ぶ。
- ⑩
- ⑨の笹に軽く水を吹きかけ、蒸気の上がった蒸し器で、芯が温かくなるまで蒸す。
超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
国産原料を100%使用。丸大豆しょうゆと米糀の二段熟成で、まろやかな味わいに。400㎖。
特選丸大豆うすくちしょうゆ(右)
国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500㎖。
■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇除く) https://www.higashimaru.co.jp
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