上野修三の古典

【レシピ付き】「七夕」にふさわしい淡口仕立ての割鮮と焼物

上野修三さん曰く、七夕の料理は「連想を楽しむもの」。天の川からの水や星、短冊に笹や梶(かじ)の葉、そして織姫にちなんだ糸や衣。そうした意匠をさりげなく取り入れて、今回は割鮮と焼物を仕立てました。夏の料理ゆえ、味わいは軽やかに、見た目は涼しげに。そこには、淡口醤油が欠かせません。スズキと足赤エビを重ねた焼物を艶やかに仕上げるタレには、香ばしく焼いたエビの頭のミソを忍ばせて。短冊に盛る遊び心にもご注目を。


上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわの伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:宮本 進

目次


淡口醤油で七夕の料理に清涼感を

ひな祭りには菱餅やちらし寿司、端午(たんご)には粽(ちまき)や柏餅など、節句にはそれぞれ行事食がありますわな。ところが七夕には、これを食べるという習慣がおまへん。料理屋は、長らく続いてきた日本の行事を次代に伝える役割も担ってまっさかいネ。ここは工夫のしどころだす。

まず、七夕といえば…と考えみまひょ。例えば、天の川。川の流れを連想させる仕立てや、星形の野菜をあしらったり、水で清涼感を演出するのもよろしいな。この川で一年に一度の逢瀬を許された織姫は、機織(はたお)りの仕事に就いていたとされるから、糸や衣も意匠として取り入れられますわな。

童謡「たなばたさま」の歌詞にあるように「ささの葉さらさら~」の笹もモチーフになるし、笹に吊るす短冊も象徴的なもの。実はこの短冊、元は梶の葉やったそうでっせ。ほら、梶の葉には産毛が生えてまっしゃろ。墨で文字を書くことができたんですな。

というワケで、七夕の料理はお客様に「連想を楽しんでもらう」ものと、私ゃ考えてますねん。今回の2品にも、さりげなく七夕にちなんだ意匠を取り入れましたんや。7月の料理でっさかいネ、味わいは軽やか、見た目は涼やかに。となると、淡口醤油の出番ですな。

割鮮の添えダレも、淡口醤油をベースに仕立てると澄んだ琥珀色になりまっしゃろ。焼物のタレには、ちょっと旨みを補強してネ。足赤エビの頭を焼いて、淡口醤油ベースの幽庵地で煮出しましてん。色を付けずに、味を深める工夫が、この時季の料理には必要でっせぇ。


上野修三さん作・鮑と蛸の水貝仕立て

鮑と蛸(タコ)の水貝仕立て——添えダレは淡口醤油の合わせ酢で

夏のご馳走の代表格は「水貝」ですな。塩水に氷と角切りのアワビ、ウリなどの季節の野菜を浮かべてネ。この頃はとんとお見かけしなくなったけど、ガリッボリッとした歯ごたえは水貝に勝るものなしでっせ。

あの力強い食感にするためには、たっぷりと塩をこすりつけてアワビの身を硬く締めることが肝要だす。肝は生のままぶつ切りして一緒に味わうのが定番やけど、磯臭さがお苦手な人もいはるから、さっと湯引きしてますねん。コレ、潰して淡口醤油のタレに溶き入れても旨いですな。

本来はアワビだけの料理やけど、七夕までの5日間は半夏生(はんげしょう)でっさかい、タコも添えましてん。関西では昔から、タコの吸盤が吸い付く様にあやかって、「苗がしっかり根を張りますように」と、半夏生にタコを食べたんでっせ。

小豆と番茶の煮出し汁で茹でると柔らかく、タコの皮の色も深くなりますな。とはいえ、茹ですぎは禁物でっせ。七割がた火を入れたら、あとは余熱で。切り口が透けるように火を入れておくれやす。

氷水に浮かべた野菜は、星形のズッキーニに、短冊に切ったウドと越瓜(しろうり)。ズッキーニの中子(種のまわりの部分)はすりおろして淡口合わせ酢に加えましてん。タコはこちらでお薦めしまひょ。

越瓜は、中国の越から渡来したウリやけど、大阪では高槻市の服部村(現・塚脇地区)が産地として古い。古代には服部(はとりべ)と呼ばれた機織りをする渡来人が住んでいたそうだす。お隣の池田市には昔々、二人の織姫がやって来て機織り技術を日本に伝えたという「織姫伝説」も残ってましてネ。服部越瓜は希少で手に入りにくいから、玉造黒門越瓜を使って、さりげなく七夕に繋げてみましてん。

鮑と蛸の水貝仕立てのレシピ

【材料(4人分)】

アワビ……1個(殻付き400g)
タコ……足2本(400g)

●タコの茹で汁
⎟番茶……8g
⎟小豆……100g
⎟水……1ℓ
ウド……15cm分
玉造黒門越瓜……1/8本
黄ズッキーニ……1/3本
塩・酢・大根おろし・ワサビ……各適量
昆布たて塩※……適量

●淡口合わせ酢
⎟淡口醤油……50㎖
⎟米酢……40㎖
⎟レモン汁……40㎖
⎟煮切りみりん……少々

※昆布たて塩
3%の塩水に昆布を1時間程度浸しておいたもの。

【作り方】

<アワビを造り身にする>

アワビを殻から外し、肝やヒモなどを取って、端の硬い部分を庖丁で切り落とす。たっぷり塩をあててタワシでしっかりとこすりつけ、身を締める。さっと水洗いする。
肝をぶつ切りにして、熱湯に数秒潜らせて冷水に取る。

アワビの塩磨きと、肝の霜降り

①を角切りにする。

<タコを茹でる>

鍋に水と小豆・番茶を合わせ、一晩浸けておく。そのまま中火にかけ、小豆が柔らかくなるまで(手で軽く潰せるくらいが目安)、小1時間くらい煮出して漉す。

小豆と番茶を煮出す

タコの足を大根おろしでもみ洗いし、④で七割がた火が通るまで茹でる。火を止め、そのまま煮汁に漬けて、九割がた火を通す。
⑤の足が反り返らないよう吊るして冷ます。

タコを茹で、吊るして冷ます

吸盤の付いていない裏側に隠し庖丁(2㎜幅の切り込み)をし、吸盤を避けて一口大に切る。

<野菜の下準備をする>

ウドは皮をむき、短冊切りにし、30分ほど酢水に放つ。
玉造黒門越瓜は短冊切りにし、熱湯をかけて色出しし、昆布たて塩に30分浸す。
ズッキーニの皮目を切り、星型で抜く。熱湯をかけて色出しし、昆布たて塩に30分浸す。

<仕上げる>

淡口醤油・米酢・レモン酢・煮切りみりんを合わせ、淡口合わせ酢とする。
⑪を二つに分け、一つにズッキーニの中子の部分をすって加える。もう一つにはおろしワサビを添える。

淡口合わせ酢にズッキーニの中子を加える

ガラスの器に塩水を張り、氷を浮かべ、②、③、⑦~⑩を盛る。⑫の淡口合わせ酢を添える。

上野修三さん作・鱸と足赤海老の重ね焼

鱸(スズキ)と足赤海老の重ね焼——エビの頭を煮出した淡口ダレでかけ焼きに

天神坂で割烹をやっていた頃、こんな焼物をよぉやりましてネ。スズキにアイナメ、甘鯛と、持ち味の優しい白身はエビと合いますねん。いや、エビのミソと相性がええと言った方が正しいですな。

スズキと足赤エビは淡口醤油ベースの幽庵地に漬けてネ。エビの殻を焼いて、この幽庵地で煮出すと、ええ焼きダレができますねん。重ねて串を打ったら、まずは素焼きし、タレをかけて焼き上げておくれやす。

ウドは織姫にちなんで衣巻(きぬまき)に。コレ、反物(たんもの)のことだすな。桂むきにしたら、芯の部分と共に、淡口醤油をぽとっと落とした甘酢に浸けてネ。桂むきの方を少し短くして芯に巻き付けたら、どうだす? 反物に見えまっしゃろ。

もう一種の添えの野菜は、枝豆の青煮やけどネ。淡口醤油を利かせてさっと煮上げまっさかい、この醤油の故郷にちなんで龍野煮としましてん。せっかくの緑が褪(あ)せないよう、おか上げしたら扇いで急冷することが大事でっせ。

淡口醤油で艶やかに焼き上げた重ね焼は、梶の葉に盛ると映えますな。これで決まりや!と思ったんやけどネ。梶の葉は短冊のルーツでっしゃろ。それならと、短冊にも盛ってみましてん(記事上部の画像)。七夕の料理としてなかなかの出来やと自負してますねんけど、どないでっしゃろ?

鱸と足赤海老の重ね焼のレシピ

【材料(6人分)】

スズキ……360g
足赤エビ……6尾分
淡口幽庵地※1……400㎖
卵黄……2個
ウド……30cm分
塩・酢・大根……各適量
淡口甘酢※2……適量
枝豆……100g

●枝豆の煮汁
⎟カツオ昆布だし……270㎖
⎟淡口醤油……25㎖
⎟みりん……20㎖
⎟酒……10㎖

●あしらい
実山椒・糸唐辛子……各適量

※1 淡口幽庵地
淡口醤油・酒・みりんを2:1:1で合わせたもの。

※2 淡口甘酢
水1ℓに米酢1ℓ・砂糖250gを合わせ、昆布を適量加えてひと煮立ちさせる。これを冷まして250㎖分を取り、淡口醤油15㎖を合わせたもの。

【作り方】

<スズキと足赤エビを重ね焼にする>

スズキは厚めの短冊切りにする。足赤エビは、尾ビレを残して殻をむき、開く。
淡口幽庵地に①を漬ける。スズキは1時間、足赤エビは20~30分で引き上げる。淡口幽庵地は残しておく。

スズキと足赤エビを幽庵地に漬ける

①の足赤エビの頭を焼き色が付くまで焼く。②の淡口幽庵地をひと煮立ちさせたところに加え、頭を潰してミソの旨みを幽庵地に移しながら、三割ほど煮詰める。漉して冷まし、150㎖に対して卵黄2個を混ぜ合わせる。

足赤エビの頭を焼き、幽庵地で煮出す

横8cm×縦4㎝に切った厚さ1㎝の大根を4切れ用意する。2切れの下部に金串を3本通し、その上に②をスズキ→足赤エビ→スズキの順でのせる。大根の切れ端を挟み、同じ作業を2回繰り返す。大根の上部に3本の金串を通して固定する。同じものをもう一つ作る。
④を素焼きして火を通し、③のタレを2~3回かけながら焼き上げる。

スズキと足赤エビを重ねて串を打ち、タレ焼きにする

<衣巻独活を酢どりにする>

ウドを6cm長さの桂むきにし、芯の部分を直径8mm程度残す。
塩水に酢を少し加え、⑥を軽く浸けてアク抜きした後、淡口甘酢に3時間ほど浸ける。
⑦の桂むきの幅を芯の部分より短くし、芯に巻いて衣巻独活にする。

ウドを桂むきにして淡口甘酢に漬け、衣巻にする

<枝豆を龍野煮にする>

枝豆のサヤの両端を切り、すり鉢で塩ずりし、うぶ毛を取る。
鍋にカツオ昆布だし・淡口醤油・みりん・酒を合わせ、ひと煮立ちさせた中に⑨を入れ、強火でさっと青煮にする。おか上げして扇いで急冷し、色止めをする。

<仕上げる>

⑤を梶の葉(または短冊)に盛り、湯通しした実山椒をのせ、③のタレを少しかける。⑧と⑩を添え、⑧に刻んだ糸唐辛子をのせる。

ヒガシマル醤油の超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇、特選丸大豆うすくちしょうゆ超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
国産原料を100%使用。丸大豆しょうゆと米糀の二段熟成で、まろやかな味わいに。400㎖。
特選丸大豆うすくちしょうゆ(右)
国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500㎖。

■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇除く) https://www.higashimaru.co.jp

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