日本料理のことば

「甘露(かんろ)」とは? 料理用語に至るまで

古きを訪ねれば、古来中国では天から降る甘いつゆ、インドの経典では神々が常飲した不死の飲料を表した「甘露」ということば。日本にも伝わり、砂糖の流通が盛んになったことも手伝って、現在「甘露」がつく料理といえば、こってりした甘みに煮詰めて仕立てることが多いです。「甘露煮」を「甘煮」としなかったワケは何か…。今回はそんなところまで思いを巡らせてみます。

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村友美 / イラスト:松尾奈央(Factory70) / 協力:辻󠄀調理師専門学校

目次

日常に浸透した「甘露」な味

甘露煮、甘露梅、甘露飴など、「甘露(かんろ、かんろう)」は、甘い、あるいは甘辛い食べ物につく言葉として浸透しています。少し古い話ですが、美味しいものを口にした時、「甘露、甘露」と言って、感嘆の表現として使うこともあったようです。

料理名に甘露がつくものは、多くの場合、甘みの調味料として砂糖が使われています。甘露煮の類(つくだ煮、あめ煮など)は、江戸後期及び明治以降に定着しますが、砂糖の輸入が活発になり、さらには生産体制が整って、甘味料が米麹(甘酒)などから砂糖に切り替わった背景も後押ししたのでしょう。

インドや中国から入ってきたことば

甘露は、大変古くからある中国由来のことばですが、元から料理用語だったわけではありません。古来中国には、天下泰平の祥瑞(しょうずい:縁起のよい前兆)として、天から甘露(甘いつゆ)が降るという伝承があり、日本でも同じ意味で用いられていました。

また、仏の教えをまとめたインドの経典に、神々が常飲した不死の飲料amṛta(アムリタ)があり、その漢訳として採用されたのが「甘露」だったことも、ことばの定着につながる大きな要因でした。甘露は、天上界の霊薬で、飢渇(きかつ)を癒して長寿を保つと信じられていたそう。転じて、仏の教えや悟りのたとえとしての用法が発達していきました。意味は拡張し、宗教性の薄い「美味」「甘い液体」を示すようになったと考えられています。

江戸時代以降は料理用語として定着

江戸時代、大衆に人気を博した百珍物(豆腐・鯛・芋・蒟蒻など1つの食材で約100種の料理を記した料理本)には、甘露卵や甘露漬といった砂糖を用いる料理が登場します。その他で有名なのは、甘露梅(かんろばい)といって、梅の実を紫蘇の葉でくるんで砂糖漬けにした菓子です。甘露酒といって、麹由来の甘い清酒もありました。これらを見ると、「甘露」の名を冠するのは、特にこってりと濃厚な甘さを持つ料理ばかりのようです。

天から降る甘いつゆなのか、仏教用語の霊薬なのか、甘さの強調表現なのか、甘露煮の由来は明確ではありませんが、「甘露」ということばが持つ意味の比喩的な表現であるのは間違いありません。甘くて、美味しくて、時に上等で、どこか染み入るような響きがある。単なる甘煮ではなく、甘露煮という名で呼び始めた人も、そんな思いを込めていたのかもしれません。

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