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【レシピ付き】大阪産(もん)レシピ Vol.3 大阪『翠 大屋』大屋友和さん作 「泉州きくな」料理2品

大阪産(もん)の魅力をお伝えするレシピ記事Vol.3は、大阪の「泉州きくな」がテーマです。今回、産地訪問を経て2品の料理を考案してくれるのは、浪速割烹の流れを汲む料理人『翠(すい) 大屋』の大屋友和さん。一つは、フレッシュな菊菜の個性を生かした和え物を。もう一品は、葉はもちろん、根元部分も余すところなく用いた真薯椀です。この日は生産者である『西阪農園』西阪和正さんも「どんな料理になるのか楽しみで」と訪れました。素材感が漲(みなぎ)り、かつ創意に富んだ料理を試食していただきました。

文:船井香緒里 / 撮影:下村亮人

目次


 

 

大阪・天満橋『翠 大屋』大屋友和さん作
菊菜 蛸 トマト 翡翠和え

『翠 大屋』の菊菜の和え物

「フレッシュで食べて美味しい『西阪農園』の「泉州きくな」。畑で感じたあの驚きは忘れられません」と大屋さん。

一品目「菊菜 蛸 トマト 翡翠和え」は、「泉州きくな」が持つリンゴに通ずる爽やかな香りを生かすため加熱処理をしない。しかも「菊菜で菊菜を和えたら、より素材らしさを感じられるのでは」と、大屋さんが提案したのは共和えだ。

「和風ジェノベーゼ」と称する菊菜のペーストで、フレッシュな菊菜や、マダコやトマトなど大阪産の食材を和える。しかも、下に敷いた発酵菊花のピュレの酸味が、菊菜の甘みや旨みを助長させる。

生の「泉州きくな」の個性を生かす「和風ジェノベーゼ」

「和え衣の発想は、イタリア料理のジェノベーゼから」。
フレッシュな菊菜をメインに、油や調味料を加えて撹拌する。菊菜の香りを生かすため、油は穏やかな風味の米油を使用。白味噌の優しい甘みを加え、ミキサーにかけてしっかりと乳化。松の実の香ばしさが、菊菜ペーストのまろやかな味わいを程よく引き締める。

大阪産食材で、食感や味わいの起伏を

大阪食材を愛する大屋さんゆえ、具には泉州沖産の「泉だこ」や高槻『寺本農園』の「三箇牧(さんがまき)トマト」を用いる。

下処理を施した「泉だこ」は、合わせだしで30分炊く。53℃をキープして煮ることで、生っぽい質感を残しながら、合わせだしの旨みが程よく沁みた仕上がりに。

「三箇牧トマト」は「糖度が高すぎないから、『泉州きくな』特有の、リンゴに通ずる味わいを邪魔せず、むしろ引き立ててくれます」。

アクセントに“発酵菊花”の酸味と香りを

「菊菜本来の旨みを引き立たせるために、少しの酸味と香りのアクセントを」と、用いるのは、同じキク科である菊の花。その塩麹漬けのピュレを、和え物の下に敷く。

「西阪さん、すべてをしっかりと混ぜ合わせてお召し上がりください」と大屋さん。

「とても美味しいです。生の菊菜と、和風ジェノベーゼの一体感が素晴らしく、ウチの菊菜らしいリンゴのような風味が増しているように感じます」と、西阪さんは驚きの様子。さらに、「下に敷いた菊花のピュレもすごくいいですね。余談ですが、菊菜は春になると花を咲かせようとして独特の苦味成分を出すんです。大屋さんが考案された発酵菊花のピュレは、菊菜の花の、程よい苦みを感じます。しかも、あの爽やかな、春の花の香りを思い出させてくれました」。

『西阪農園』西阪正和さんが菊菜の和え物を食べる様子

菊菜 蛸 トマト 翡翠和えのレシピ

和風ジェノベーゼを作る。「泉州きくな」1束は軽く水洗いをして水気を切り、ざっくりと切っておく。
ミキサーに①と米油90㎖・白味噌大さじ1・松の実50g・塩少々を加えて撹拌する。

菊菜で作ったジェノベーゼソース

発酵菊花のピュレを作る。生麹100g・菊花20g・水90㎖・塩7gを混ぜ合わせて密閉し、常温で10日置く。ミキサーで撹拌し、酸味が足りなければ米酢を少量加えて味を調える。
大阪府産の真ダコはワタや墨袋などを取り出した後、1時間揉む。その後、霜降りする。
④を、合わせだし(カツオ昆布だし・みりん・濃口醤油)に入れて53℃をキープしながら30分炊く。粗熱を取り、足1本分を一口サイズに削ぐように切る。

泉だこを合わせだしで煮たもの

「三箇牧トマト(中サイズ)」は湯むきする。半分を食べやすい大きさに切る。
「泉州きくな」1束は軽く水洗いをして水気を切り、一口サイズに切る。

菊菜を刻んでいるところ

<仕上げ>

ボウルに⑤⑥⑦を入れて②で和える。
器に③を敷き、⑧を盛る。生の菊菜を少量添え、フライパンで炒った松の実を散らす。

菊菜 真薯椀

『翠 大屋』の菊菜 真薯椀

続く二品目は、「菊菜が主役の椀物です」と大屋さんはきっぱり。
椀種となる真薯は、鯛のすり身に生の菊菜を加え、その根元を射込む。「菊菜特有の甘みと旨みを際立たせたいから、あえて生のまま。根元に至るまで菊菜を余すところなく使いますよ!」。

香り高い一番だしの吸い地にも菊菜を浮かべ、清々しい香りと旨みが花開く。

「泉州きくな」だからこそ作れる真薯

真薯に使う鯛のすり身は、明石の真鯛で自家製したもの。つくね芋や卵黄などを合わせた生地は、「菊菜の持ち味を生かしたいから」と、菊菜の半分ほどに抑える。
「真薯地に野菜を用いる場合、塩茹でなど加熱したものを混ぜ合わせることが定説。ですが、エグ味がなく旨みが強い『西阪農園』の『泉州きくな』だからこそ、生のまま使います」。

葉は生地に混ぜ込み、根元部分は芯に忍ばせる。「真薯を噛んだ時に、菊菜らしい食感や香りが際立つはず」と、大屋さんは笑みを浮かべる。

蒸す際は、「菊菜の香りを際立たせたいから、中火で6分がベスト」と、温度や時間にも細心の注意を払う。

生の菊菜と焼き椎茸を添え、香りと旨みに膨らみを

椀種に添えるのは、生の菊菜と炭火焼きにした能勢原木椎茸、そして吸い口には柚子の皮。主役の菊菜を引き立たせるため、他の食材の香りや旨みは控えめに…を心がけたという。

大屋さん曰く「吸い地を注ぎ入れると、生の菊菜は爽やかな香りが際立ち、シャキシャキとした食感に。西阪さん、熱いうちにお召し上がりください」。

黙々と味わい、「はぁ〜」と感嘆のため息を漏らす西阪さん。
「このお椀には、自分がいつも感じている、菊菜の香りと味わいの良さが全て凝縮しています。まずは柚子の香りに続いて、菊菜の爽やかな香りが押し寄せます。生の菊菜は柔らかく甘いですし、真薯はふわふわ。噛むほどに、みじん切りにした菊菜のシャキシャキ感を感じますし、根元部分のサクサクとした食感も楽しいです。菊菜の個性を最大限に生かしてくださっていて、本当に嬉しいです」。

菊菜の椀を食べる『西阪農園』西阪和正さん

菊菜 真薯椀のレシピ

<菊菜の真薯を作る>

菊菜100gは軽く水洗いをする。水気を切り、細かく刻む。根元は残しておく。

菊菜を刻んでいるシーン・菊菜の根元

鯛の身は庖丁で細かく叩く。すり鉢に移して、塩少々を加えてなめらかになるまで摺る。つくね芋のすりおろし(すり身の1/4程度)・卵黄・カツオ昆布だしを加えて混ぜる。
ボウルに①と、②を50g加えてしっかりと混ぜ合わせる。

菊菜を刻んだものとつくねのすりおろしを混ぜているシーン

ラップに③をのせ、菊菜の根元2つを射込み、巾状に絞る。

菊菜の真薯

中火にかけた蒸し器に④を入れ6分加熱する。

<仕上げ>

カツオ昆布だしを温めて塩を加え、沸騰したら薄口醤油で味を調える。
能勢原木椎茸は軽く炙る。
器に適度な長さに切った菊菜をリング上に敷き、その中央に⑤を盛り、⑦を添え、⑥を注ぐ。吸い口に柚子の皮をのせる。

『翠 大屋』大屋友和さん大屋友和さんは、1979年島根県生まれ。高校卒業後、大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川(きがわ)』に入り、11年間修業。2011年、東心斎橋にて独立。その後、16年に同じ東心斎橋内にて約3倍(席数は2倍)の空間へ移転。2023年5月、『日本料理 翠』から『翠 大屋』に店名を変え、大川のほとり、天満に移転オープン。

大阪産PR画像大阪産(もん)データベース


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