「銀座 小十」のエスプリ

【レシピ付き】一年の“幕開け”をテーマに。焼きふぐ白子の柚子釜&伊勢海老の白味噌仕立て椀

日本料理の未来を見つめ、常に進化する料理で東京の和食界を牽引してきた『銀座 小十』の主人・奥田 透さん。松の内は正月料理を楽しみに訪れるお客の心に添って、伝統的な祝八寸で献立を始めるものの、松が明ければ新たな年の“幕開け”を意識し、機知に富んだ洒脱な料理で魅了します。「料理を前にして、お客さまが頭の中で想定するものを少しだけでも超えていかないと、料理人としての進歩はありません」。そう言い切る奥田さんが構築する、“進化し続ける”緻密な日本料理の秘密とは何か。1月の献立から、2品をご紹介します。


奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。

聞き書き:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平

焼きふぐ白子の柚子釜

——「焼きたての白子との温度差で繊細なフグの旨みを際立たせます」

gin0010a[料理]焼きふぐ白子の柚子釜 花穂 黒豆 大松葉 ゆずり葉 つくばね 
[うつわ]半開扇盆

1月は日本人にとって大事な1年のスタート、御節(おせち)のような決まり事も多い月です。ここ5年くらいは元旦から営業しているため、松の内には“ザ・お正月”といった料理も並びます。お客さまもどこかに黒豆、数の子、田作り、なますといった原点を望んでいらっしゃいます。

その後、短いお休みをいただき、中旬から始めるのが、お正月の雰囲気を少し残した1月の献立です。その1品目にお出しするのが、「焼きふぐ白子の柚子釜」です。
献立の物語をどう始めるか。まずは、おめでたい半開扇の盆にゆずり葉と柚子釜、大松葉、黒豆を盛り、一瞬身が引き締まるような凛とした料理で幕を開けます。

柚子釜の一番大事なことは、中に盛り込む料理が柚子とどれだけ連動しているかです。柚子釜は何を盛ってもきれいに見えますから、器として使っているだけでは面白味がありません。柚子ぽん酢や、あられ柚子を絡めたり、釜ごと蒸したりしても柚子の香りがついて、美味しい料理になります。

主となる食材はフグ。冬のご馳走であるフグは“福”に通じますから、おめでたさもあり、柚子とも相性がいい。てっさや鍋、唐揚げといったフグ屋の料理とは違う、正月のきりっとした名残を残す柚子釜にします。

柚子釜に炭で焼いたフグの白子を盛り、ピリ辛のちり酢をかけます。さらに上に焼き霜にしたフグの身と湯がいた白皮や遠江(とおとうみ)、野菜、細かく刻んだ柚子ぽん酢ジュレをさっと和えてのせます。フグの身は少し火を入れてやると、甘みが明確になってより美味しく感じられるのです。その持ち味を損なわないように、一緒に和える野菜はマイクロ水菜、白髪ネギ、芽ネギのように繊細なものがいい。

柚子ぽん酢ジュレは溶け出して味が平坦になるのを防ぐため、硬めに仕上げて刻んでいます。ダイレクトなフグの美味しさに絡む野菜の多彩な食感、ときどきプチプチと弾ける柚子ぽん酢ジュレ。それぞれの味が少しずつ重なって、異なる風味が次々と押し寄せてくるような、あえて味を均一にしない面白さを意識しています。

私が選ぶフグは、豊後水道の流れの速いところを泳いでいるアスリートのフグです。フグは少し熟成させた方が美味しいんですね。本当にいいものは持ち味がぐっと増して濃くなり、“海のジビエ”のようになります。

とはいえ、フグの身はやはり淡味ですから、そのままいただくと、どこかに物足りなさを感じることもありますね。そこで、温かく濃厚な焼き白子の上に盛って、フグの繊細な風味を花開かせようと考えました。柚子釜の中に温度差がある2つのフグを盛ることで、それが連動して豊かな味わいを生み出します。

濃厚な白子がソースのような役割を果たし、柚子の風味で華やかさを添えているので、この付き出しはシャンパンによく合うんですよ。最近では一杯目にシャンパンというお客様も多いですから、そこをちょっと意識して仕立てました。

日本料理はもっとお洒落で、もっとかっこよくあるべきです。その一方で、古典的な仕事も大切です。ベースに古典があるからこそ、進化の意義があるのだと思っています。

【作り方】
<柚子ぽん酢ジュレを作る>
①    柚子果汁1に対して濃口醤油1を煮切り酒で調え、昆布とカツオ節を入れて3日置いて旨みを出し、漉して柚子ぽん酢を作る。
②    柚子ぽん酢1300㎖に板ゼラチン4枚を溶かし、硬めのジュレを作り、庖丁で叩いてあられ状にする。
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<フグを調理する>
③    上身をへいで、下面を昆布〆に、上面にふり柚子をして約2時間置く。焼き霜にして、そぎ切りにする。
④    白子に串を打ち、炭火で表面にこんがり焼き色をつける。
⑤    白皮と遠江を湯引きし、細切りにする。
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<柚子釜を仕上げる>
⑥    直径6.5㎝の柚子を用意し、半割にして中をくり抜く。
⑦    ボウルに③、⑤、マイクロ水菜、白髪ネギ、芽ネギ、あられ柚子と合わせ、②の柚子ぽん酢ジュレで和える。
⑧    ⑥に④を入れ、ちり酢をかける。さらに、その上に⑦をこんもり盛り、天に花穂ジソを飾る。
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【奥田流ちり酢】
レモン汁、煮切り酒、細かく刻んだネギ、濃口醤油、少しのたまり醤油、一味唐辛子を合わせて作る。

伊勢海老の白味噌仕立て

——「伊勢海老はしっかりと茹でた方が旨みが凝縮します」

gin0010e[料理] 伊勢海老の白味噌仕立て
[うつわ]輪島塗椀(蒔絵は「結び柳」に「椿」)

お椀に入れる大根は鶴亀の亀甲形に切ります。お正月と1月の料理は、やはり縁起のいいものをふんだんに取り入れたいと思うんですね。
伊勢海老はその姿から不老長寿のシンボル、紅白の赤などおめでたいものの象徴です。お餅や紅白の結びも、実にお正月らしいでしょう。

松の内を過ぎていますので、お客さまはもうさんざんお雑煮を召し上がっていらっしゃるはず。そう考えた時に東京で関西風の白味噌のお雑煮を食べることはそうないのかなと思い、1月の贅沢なお椀の一つとして、伊勢海老、大根、お餅を入れた白味噌仕立てにしました。

東京では一般的に、それほど濃い味噌仕立ては受け入れられない。ですので、関西風とは違うでしょうが、しっかりと一番だしを利かせて、白味噌は少し控えめの塩梅にしました。ひと口目は薄いところから始まって、徐々に盛り上がっていって、最後に飲み干すときにちょうどいい濃度になるのが、私がお椀に求める濃淡のつけ方です。

伊勢海老は400g以上のものを大ぶりに切って使います。伊勢海老という食材は見た目も派手でご馳走感がありますが、実は思っているほど味に主張がないんですね。車海老のほうが数段、風味が強いんです。ですから、洋食のグラタンやフレンチのアメリケーヌソースなどの料理の方が向いています。

和食ですと、醤油とみりんの“鬼殻(おにがら)焼き”、白味噌の“具足(ぐそく)煮”など、割と濃いめの味付けにしています。伊勢海老は、そうした何か味のしっかりしたものを必要とします。味噌、卵、雲丹といった持ち味の強いものと合わせることも多いですね。調理の面では、ほんの少し生だとか、微妙な火入れなどに捉われがちですが、しっかりと茹でたほうが甘み、旨みが凝縮する。最近はそう考えています。

時代は変わって、少量多品種が好まれるようになりました。それによって煮物椀も量を減らして吸い物のようになってしまっています。私はそんな煮物椀は作りたくない、お椀としてのきちんとした存在感がほしいんです。吸い地に香り、喉ごし、最後に奥行きまで感じていただけたら嬉しいですね。それが私がお椀に求める完成形なのです。

【作り方】
①    伊勢海老は殻ごと茹でて陸上げし、殻をはずして身をひと口大に切る。
②    大根は亀甲形に切り、米のとぎ汁で下茹でして水にさらした後、二番だし、塩、薄口醤油の吸地で煮含める。
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③    椀に②、①、のし餅の順で盛り、塩茹でした芽蕪、人参と大根の細切りを塩茹でして相生(あいおい)結びにしたもの、吸地で炊いた椎茸を添える。
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④    一番だしに白味噌を溶いた汁を③に注ぎ入れ、あられ柚子をあしらう。
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