「銀座 小十」のエスプリ

【レシピ付き】7月は名物で真っ向勝負 ――毛蟹だししゃぶ椀&鮎炭火焼

2022.07.01
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連載:「銀座 小十」のエスプリ

7月に欠かせない和食の食材といえば、鱧。『銀座 小十』店主の奥田 透さんは、3年ほど前から突き出しに、正道の「鱧の湯引き」を提供。毎年それをブラッシュアップしています。今年は、生と蒸しの2種のアワビを肝だれで愉しんでいただくのが一品目。二品目で、鱧の湯引きを夏野菜や蓴菜(ジュンサイ)と合わせてトマトだしでお出しすることに。続くお椀は、あえて鱧の葛打ちの椀種を禁じ手にし、趣向を凝らした「毛蟹のだししゃぶ椀」で度肝を抜きます。その余韻のうちに迎える「鮎の炭火焼」こそが、7月の4番バッターです。


奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。東京すし和食調理専門学校・教育顧問。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。

聞き書き:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平

毛蟹だししゃぶ椀——定番の鱧を封印し、毛ガニを大胆に使った新しいお椀に挑戦。利尻昆布のだしできりっと仕上げます

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[料理] 毛蟹だししゃぶ 冬瓜 毛蟹真丈
[うつわ] 輪島塗葵漆椀

私が最も椀種に合うと考える食材は、鱧です。鱧の葛打ちとだしとの相性は、最上だと思っています。それで長年、鱧のお椀をやってきましたが、定番に甘んじていては新しいものはできません。それはどのジャンルにも言えることで、車も洋服も眼鏡のデザインも建築も、みんなこうして今までと違うものを創ることから進歩してきたんだと思います。

今年の新作はすごいですよ。鱧より強くなければなりませんから、7月のお椀は度肝を抜くような仕掛けが必要です。そこで、名物・松葉ガニのだししゃぶを贅沢に、大胆にお椀にしてみようと思い立ちました。

まず、毛ガニの脚を手で持って身を食べていただいて、吸地を一口。さらに毛ガニの真丈を食べて一口。これはもうめちゃくちゃ美味しい(笑)。こんなお椀は、おそらく日本料理初でしょう。これも鱧のお椀を禁じ手にし、昨年やったことも一昨年やったこともやらないと決めたからこそ考えついたものです。

うちでは、6~8月の夏の3カ月間は、だしに利尻昆布を使います。香り高く繊細ですっきりした昆布だしがとれます。対して秋冬は、利尻昆布と比べて味もまあるく強く、昆布らしいボリューム感がある真昆布を使います。以前は真冬には羅臼なども用いていましたが、今は採れなくなり、手に入りにくくなってしまいました。

私は、だしは水が一番大事だと思っています。昆布とカツオ節よりも水です。お酒もお茶も水が大事。今、うちで使っている水は、鹿児島の天然温泉水「TERAQUA(テラクア)」。いろんな水を取り寄せて、これに行き着きました。世の中にはものすごい数のミネラルウォーターがありますが、そのほとんどは山奥で汲み上げています。そうすると、ミネラルが山や森林、土に由来する。テラクアは海の近くの水なので、ミネラルが昆布やワカメ、海塩に由来していて、だしとの親和性があるんです。軟水ですが、厚みと骨格がきちんとあります。

私はやみくもに軟水がいいとは決して思いません。軟水の欠点は、昆布とカツオ節に味が支配されやすいこと。だしは薄すぎればお湯ですし、出すぎれば喉ごしが悪くなります。存在感のない水は、だしにしてもお茶にしても最悪。水はちゃんと威張っていないとダメなんです(笑)。ある意味、昆布とカツオ節を支配下に置くくらいでないと、美味しいだしになりません。

水を知らないと、美味しいだしは引けません。私が目指すのは香り、喉ごし、奥行き、余韻、その絶妙なバランスなんです。だしの話は、まだまだ尽きませんね。

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