大阪『本湖月』うつわ十二カ月

夏の疲れた心身を元気にする、“涼”の演出

2021.08.06
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連載:大阪『本湖月』うつわ十二カ月

八月は、後半になっても残暑厳しく、じめじめとした日が続きます。夏の疲れが出てくる時節でもあるので、何より心身が元気に、そして涼を感じてもらえるような演出を大事にしていると話す主人・穴見秀生さん。関西は八月盆ですので、蓮を用いたり、焼締や白漆ですっきりと供したり。そんな八月ならではの夏の器を三点選んでいただき、料理人として、数寄者としての想いを語っていただきました。

文:西村晶子 / 撮影:竹中稔彦

先付——朝露がキラリと光る蓮の葉の姿そのままに

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八月は、気温、湿度とも最も高い季節。先付は、味覚はもちろん、視覚からも何か涼しいおもてなしができないかをまず考えます。

蓮の葉は、いろいろなお店で使われていますが、最初に器に見立てたのは『𠮷兆』の創業者・湯木貞一氏で、今から50年以上前のことと思います。それまで日本料理に使うことがなかったキャビアやフォアグラを盛り合わせたり、ひやむぎに温玉をのせたり、と料理も発想もとても斬新でした。

今回、私が表現したかったのは、早朝の光を受けてキラッと光る露の雫と葉のすっきりとした姿。以前はウニやらエビやら色々なものを盛っていましたが、この料理の色味はほとんどなく、すっぽんの煮こごりと雫に見立てた冬瓜だけ。盛り付けも料理も複雑にせず、余分なものは削ぎ落とし、あっさり、口溶け良く、シンプルに。これに、網目にメダカ2尾を描いたれんげを添えて。蓮の緑が涼しげで、愛嬌もあって、なんかいいでしょう。これが今の私の気持ちに一番合っているように思います。

IMG_9730先付/すっぽん煮こごり、冬瓜 器/蓮の葉 朝顔形銀鉢、網目文れんげ(中尾郁夫造)

お椀——九年かけて誂えた白漆に遊び心を忍ばせて

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以前にもお話ししたように、夏のお椀は平椀を使います。口をつけた時に湯気が直接顔にかからないように口径の広い薄手のお椀を用い、涼しげな色柄のものを選んでいます。

この白漆の平椀は輪島の『尚古堂』さんに作ってもらったもので、昨年でき上がり、この夏初めて使います。漆は黒と赤が一般的ですが、白漆は白い色粉と漆の原液を練り合わせたもので少し茶色みを帯びています。木型のサイズやデザインを指定することから始め、これに網目の柄を銀で描いてもらい、完成までに8年かかりました。でも、上がってきたものは外側にしか柄がなく、もう一度、塗り師さんに頼んで内側にも蒔絵を入れてもらったんです。

今の時代は見た目が大事ですから外蒔絵なんでしょうけど、お客さまに喜んでもらうハッとするお遊びができるのは、何といっても内蒔絵。お椀の内側をよく見てもらうと網目の中心に小さな結び目が描かれていて、職人さんの遊び心が感じられる、なかなかニクイ柄なんです。どれほどのお客様が気づいてくださるか分かりませんが、お椀を召し上がった後に結び目がちらっと見える。外蒔絵ではこんなお遊びはなかなかできません。

完成までに、もう一年かかってしまいましたが、いいものができたと満足しています。

IMG_9817煮物椀/あわび真丈、生姜葛きり、姫きゅうり 器/網目文白漆椀

焼き物——親しき作家の焼締に、水を含ませ涼を誘う

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蓮の花弁の形をしたこの器は、伊賀・丸柱の作家、福森雅武さんの作品です。なぜこの器を使ったかというと、ずいぶん昔になりますが、すっぽんのくわ焼きを初めていただいたのが福森さんのご自宅の囲炉裏で、オマージュを込めて選びました。

蓮は泥の中で生長しながら決して泥に染まらず、水面に出て美しい花を咲かせることから、汚れのない花、「泥中の蓮」と言われます。その姿は俗世の煩悩に溺れず、清らかな心で生きる姿と重なり、昔から高貴な花とされてきました。お盆の月でもありますから、蓮にちなんだ器を何かしら使い、さりげなくお出ししています。

焼締の器にたっぷりと水を含ませて使うのは夏ならではの演出です。水でしっかり濡らしてやると、土肌に涼感が生まれ、夏の風情が一気に際立ちます。今はクーラーのおかげで、屋内で暑さを感じることは少なくなっていますが、こればかりが納涼ではなく、かといって料理や器でこれ見よがしに演出するのがいいわけでもありません。

ガラスや銀の器、籠、みずみずしい青葉や青竹、水を含んだ土の器や白木地の折敷、漆の平椀。素材、形、意匠から放たれる涼の気で品良くまとめ、緩急を生み、時には暑さを忘れる遊び心も取り入れて。思いを巡らせながら奥ゆかしい演出ができるのは日本料理の器ならではのこと。その醍醐味をお客様に感じていただき、私自身も楽しませてもらっています。

IMG_9897焼物/すっぽんのくわ焼き 器/蓮弁大皿、蓮弁小皿(福森雅武造)

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