和食のいろは

【プロ向け】筍の茹で方。アク抜きに米ぬかはいる?いらない?

春の献立の主役となる筍。煮るにも、焼くにも、炊き込みご飯にするのにも、初めにアクをどう抜くか?が味の決め手となります。皮付きのまま米ぬかを使って下茹でする方法が一般的ですが、今の和食の料理人は米ぬかを使う派・使わない派に分かれているようで…。そこで、筍の下茹での基本を徹底解説。アク抜きのメカニズムから、人気の和食の料理人の下茹で法まで、詳しくご紹介します。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン、東谷幸一 / 監修:川崎寛也

目次


Q:筍は掘りたてだとアクが少ない?

筍は掘ってから時間が経てば経つほどアクは強くなります。
筍にはチロシンというアミノ酸が豊富に含まれていますが、これが酵素の働きでホモゲンチジン酸というえぐみ成分になります。掘ってから時間が経つと、酵素の働きがどんどん進むため、えぐみが増してしまうのです。

Q:筍のアクやえぐみの正体は?

筍のアクの正体は、ホモゲンチジン酸とシュウ酸の2種類。これは、えぐみや渋み成分と呼ばれるものです。
筍が成長するためにはチロシンをたくさん必要とします。ですから、筍の穂先にはチロシンが集まっていて、その分アクも強い、というワケです。

Q:茹でると出てくる、白い粉は何?

ズバリ、チロシンです。
チロシンは水に溶けにくい性質を持つため、結晶となって残ってしまうのです。ですが、チロシンはアミノ酸の一種ですから、食べても害はありません。

Q:なぜ茹でてから使うの?

アクを抜くというのは、細胞を壊してアクを出すという、とても単純なメカニズムです。
加熱すると、細胞壁は壊れますから、簡単にアクが流れ出るのです。

Q:米ぬかを入れる理由は?

ぬかで筍のアクを抜く

加熱するとアクは流れ出ますが、問題なのは、そのアクが再び筍の中に戻ってしまうこと。これをブロックしてくれるのが、米ぬかと言われています。
つまり、米ぬかの役割は、アクを抜くのではなく、湯の中に流れ出たアクを吸着して、筍の中に戻さない、というところにあるようです。
ただし、米ぬかの匂いが筍についてしまう、という問題もあります。そのため、水にさらしてその匂いを抜くというやり方が一般的ですが、それでは筍の風味も抜けてしまうというリスクがあります。
ちなみに、米ぬかと共に唐辛子を入れるのも一般的ですが、こちらの効果は立証されていないようです。

Q:なぜ、皮付きのまま茹でるの?

筍の皮には亜流酸が含まれていて、これは細胞壁を壊す効果があります。細胞壁が壊れるということは、柔らかくなるということですから、皮付きのまま茹でた方が柔らかくなるのです。
加えて、亜硫酸の働きで酸化を抑制し、白く仕上げるという効果もあります。

筍皮むき

Q:茹でたらそのまま冷ます理由は?

筍を茹でたら、陸上げせずにそのまま冷ます、というのが一般的ですが、これは冷めていく過程でもアクが抜けるからというのが理由のようです。
ただ、米ぬかを使う場合は、米ぬかの香りが筍の中に入ってしまうというリスクがあります。
そのため、茹で汁は一度捨てて、きれいな水に浸けておいた方が、米ぬかの匂いが取れて、アクも再び筍の中に戻らないと考えられます。

Q:アク抜きに米ぬかを使わない料理人が増えてきた?

「米ぬかの匂いが筍のピュアな風味を邪魔する」「水にさらす時に筍の風味が抜けてしまう」からと、近年では米ぬかを使わない料理人が増えてきました。
また、朝掘りの筍など鮮度のいい状態で筍が届くのであれば、神経質にアクを抜く必要がないと考える料理人も多いようです。

➡筍のアク抜きについての実験・検証はこちらの記事を参考にしてください!

人気店の筍の茹で方──神戸『玄斎』

備長炭によるアク抜き

『浪速割烹 㐂川』初代・上野修三氏の次男である上野直哉さんは、野菜の力を率直に生かす父親譲りの割烹料理が持ち味。春には、南大阪の貝塚にある『王子春星園』から朝掘りで届く木積(こつみ)筍を使い、フライパンで焼き上げる「筍ステーキ」が常連客の目当てとなる。

上野さんは、この木積筍を生のまま皮を剥いて、備長炭を入れた水に漬け、空気に触れないようラップして冷蔵保存している。アクが気になる穂先は、備長炭とタカノツメを入れて下茹で。この茹で汁も活用するのだとか。「筍の旨みが出ているので、だしと割って吸い地にします。八方煮にした穂先を椀だねにして煮物椀でお出しします」。

「米ぬかを使うと、そのぬかの匂いが筍の風味を損なうような気がして…。備長炭なら、本来の持ち味を生かせるし、なんせ茹で汁も美味しいですから!」。
連載「和食を科学する料・理・理・科」では、備長炭で下茹でした筍に、ヒラメを合わせてサラダを仕立てた。

神戸「玄斎」筍料理筍とヒラメのサラダ。萱草(かんぞう)と新ワカメを添え、アサリの煮汁に梅干しを加えたタレをかけて、全体的に淡い味に仕立てている。

➡連載:和食を科学する料・理・理・科「筍のアク抜きに糠は必要か?

人気店の筍の茹で方──京都『祇園 大渡』

オリーブ油による筍のアク抜き

大阪の割烹で腕を磨き、中華や洋の食材も柔軟に取り入れる店主の大渡真人さん。その自由闊達な発想で仕立てる料理は、京都・祇園の舌の肥えたお客だけでなく、全国の美食家をも魅了している。

そんな大渡さんならではの筍のアク抜きは、オリーブ油を使うという斬新なもの。熱湯に「ややしょっぱいなと感じる程度」の塩を入れ、唐辛子、オリーブ油を回しかける。この手法は、とあるフレンチシェフのホワイトアスパラの下茹でからヒントを得たもの。「米ぬかに感じる油分のニュアンスを、クリアな風味のオリーブ油に置き換えました」。

下茹で時間は、なんと7分。すぐに陸(おか)上げするのも独特だ。「流水に当てると、筍のデリケートな風味も一緒に流れ出てしまいそうで…」。
2021年4月の特集「筍の新作」では、フカヒレの揚げ焼きと合わせた土鍋を披露。干しエビや干し貝柱、鶏肉からとっただしでフカヒレを煮て、太白ゴマ油で揚げ焼きにしたら、その煮汁に葛を引き、あんかけに。仕上げに花山椒を天盛りにし、インパクトのある筍料理を仕上げた。

京都「大渡」筍料理京筍とフカヒレの土鍋。筍は大原野の生産者から掘りたてが毎朝届く。走りや旬の頃は、焼き筍や若竹煮などシンプルに供し、名残の頃はこんな大胆な仕立てに。

➡連載:特集「筍の新作

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事和食のいろは

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です