【一覧表付き】初夏(5月・6月)が旬の野菜
5月・6月は野菜も山菜も端境期。本来であれば、初夏からは生(な)りものの季節ですが、トマトやナス、瓜類はハウス栽培物が年中出回るため、さらに季節感を出しにくくなっています。そんなこの時季に、旬を表現する野菜とは? その選び方や特徴、美味しい調理法を、「辻󠄀調理師専門学校」日本料理主任教授を務めた畑 耕一郎先生と、創業40余年の北新地の名割烹『味菜』店主・坂本 晋(すすむ)さんに指南いただきました。献立を考えるのに役立つ、旬の食材一覧表もご参照ください。
畑 耕一郎(はた こういちろう):大阪生まれ。「辻󠄀調理師専門学校」理事・技術顧問。「大阪料理会」会長。TBS「料理天国」やABC「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」などの多くのTV番組に出演。『プロのためのわかりやすい日本料理』(柴田書店)など著書も多数。
坂本 晋(さかもと すすむ):岐阜県高山市出身。18歳から下呂温泉『吉泉館』で修業し、大阪・北新地の料亭『神田川』へ。割烹『味菜』を開店し、40余年が経つ。淀川や大阪湾の地魚に注力しながらも、全国各地から産地直送で旬の食材を取り寄せ、割烹料理に仕立てる。
2022.05.10配信記事を更新
初夏(5月・6月)が旬の野菜の特徴とは?
夏のように暑い日もあれば、肌寒い雨の日もある。気候がやや不安定な初夏は、山菜類が徐々に姿を消し、夏野菜はまだハウス物が中心。和食の世界では主役となる野菜類が少ない季節です。
そんな状況の中で、いぶし銀の輝きを放つのはじゅんさい。山陰や信州、北海道といった雪の多い地域からは、山菜類のラストを飾るネマガリタケも届きます。豆類も、春の名残りのものと、夏が旬のもの、どちらも揃います。
ナス、トマト、瓜…と、初夏からは生(な)りものの季節となりますが、その大半はやはり盛夏が旬。とはいえ、ナスならば、この時季だからこそ皮が柔らかく、果肉も充実した種類もあります。
トマトや甘唐辛子など、色鮮やかな生りものが出始めるのもこの時期の特徴。味も香りも日々刻々と濃くなっていきます。
初夏(5月・6月)が旬の野菜・山菜・海藻一覧
名前(カタカナ) | 別名または同種 | |
葉茎菜類 | ||
---|---|---|
アスパラガス | ||
じゅんさい | ヌナワ(蓴、沼縄) | |
ニラ | ||
ずいき | 赤ズイキ、軟白ズイキ、芸濃ズイキ 紅ズイキ、ネイモ(根芋)など多数 |
|
クレソン | オランダガラシ(和蘭芥子) オランダミズガラシ(和蘭水芥子) |
|
しろ菜 | オオサカシロナ(大阪しろ菜) | |
果菜類 | ||
オクラ | オカレンコン (陸蓮根) | |
にがうり | ゴーヤ | |
アマトウガラシ | シシトウ(獅子唐)、フシミトウガラシ(伏見唐辛子) マンガンジトウガラシ(万願寺唐辛子) ヤマシナトウガラシ (山科唐辛子) など多数 |
|
トマト | ||
ナス | 長卵型、長ナスなど | |
マルナス | カモナス(賀茂なす) ヤマトナス(大和丸なす)など多数 |
|
キュウリ | ||
豆類 | ||
ウスイエンドウ | コンダウス (誉田碓井) | |
ソラマメ | ||
エダマメ | ナツマメ(夏豆) | |
香味野菜 | ||
赤紫蘇 | ||
大葉 | シソ・アオジソ (紫蘇、青紫蘇) | |
ミョウガ | ||
山菜 | ||
ねまがりたけ | ヒメタケ(姫竹・姫筍)、ガッサンダケ (月山竹・月山筍) | |
ハチク | ||
ヤマミツバ | ||
ナンテンハギ | アズキナ(小豆菜) | |
海藻 | ||
もずく |
➡以下でご紹介する料理のレシピは、「『味菜』の割烹料理 初夏の野菜編」で配信。店主・坂本 晋さんの調理指南にご注目を!
食通好みの、じゅんさい
6月に最盛期を迎えるじゅんさいは水草の一種。淡水の沼などにハスの葉のように新芽を広げます。先端の芽はドロッとしたゼリー状の物質で覆われていて、そのツルッとした食感を楽しみます。じゅんさいの生育地は世界中にありますが、食用にしているのは日本と中国ぐらい。中国ではスープにするそうです。
美食家として知られる北大路魯山人は、京都の深泥池(みどろがいけ)で採れるじゅんさいを愛したと言われますが、現在の主な産地は東北地方。秋田県産が多くを占めています。
じゅんさいの持ち味が生きる料理
日に日に暑くなる時季というのも手伝って、じゅんさい料理の筆頭といえば、酢の物。冷やすことで、ツルンとしたのど越しや、葉の部分の軽い歯ごたえも際立ちます。『味菜』では、薄めの梅酢を合わせ、付き出しとしてお出しすることも。
また、鱧の椀に添えたり、味噌汁の実としても、じゅんさいは大活躍。そうめんに入れると涼しげな演出になります。
キュッと身が締まったものが喜ばれますが、「主な産地である秋田では、大きく育ったじゅんさいを天ぷらにします。しっかり水気を取り、やや厚めの衣をつけて揚げるのですが、周囲のゼラチン質が衣の中から現れる、とても美味しい一品として記憶に残っています」と畑先生は話します。
『味菜』では、土佐酢に自家製梅干しで風味を加えた梅酢をかけてじゅんさいを涼しげに供す。
うすいえんどうは初夏の色
豆だけを食べる実エンドウ、サヤごと食べるサヤエンドウの2種類に大別できるエンドウ豆の中でも、和食界で重宝されているのは、うすいえんどう。そもそもは明治時代にアメリカからもたらされた品種で、羽曳野市(はびきのし)の碓井(うすい)地区で栽培が始まったことから、その名で親しまれるようになったと言われています。
うすいえんどうの選び方
近年は主に和歌山で栽培されているうすいえんどう。早春から出始め、6月中旬ごろまでが旬です。サヤがみずみずしく、ふっくら張りがあるものを選びます。両手でサヤを押すように開き、指で優しく豆を押し出します。
豆の持ち味が生きる料理
うすいえんどうの緑色は、初夏の料理に彩りを添えてくれます。
「少々手間ですが、火を通した豆の薄皮を剥くと、鮮やかな緑色になります」と畑先生。
この緑色を生かして、みりんと薄口醤油を加えただしで翡翠煮にすると、ホクホクッとした豆の食感が楽しめます。すり流しや茶巾絞りも定番ですし、甘さ控えめのシロップに漬けて新ショウガの香りを添えれば、爽やかな初夏向きのデザートにもなります。
碓井豌豆の茶巾絞り。小芋と合わせて二色に。エンドウを昆布だしと塩で茹でて裏漉しし、茹で汁を合わせたすり流しで。
うすいえんどうの美味しい食べ方として、豆ごはんは外せません。料理人によって様々な炊き方がありますが、指南役のお二人の調理法をご紹介。
「洗った米にサヤと昆布、少量の塩を入れて炊きます。豆は、米の炊き上がりを見計らって別に茹でておきます。ご飯が炊けたら、サヤと昆布を取り除き、豆を加えて7~8分蒸らします。また、手間ではありますが、豆の薄皮を剥いたものを加えると、口当たりが良くなるだけでなく、混ぜた時に豆が割れて、中から鮮やかな緑色が顔を出し、風味も豊かになります。味付けはかすかな塩味を感じる程度に留めます」というのは、畑先生流。
『味菜』では、昆布だしに塩を加えて豆を茹で、その茹で汁でご飯を炊きます。ポイントは、茹でた後、豆を茹で汁ごとすり鉢に入れ、落とし蓋をして常温でゆっくり冷ますこと。「塩の入り方が優しくなって、甘みも出て、豆もやわらかくなります。この方法ならシワもよらないんですよ」と坂本さん。
ナスは多種多彩
奈良時代にインドから中国を経て日本に伝えられたナスは、和食に欠かせない食材。露地ものは5月上旬から出始め、収穫は秋まで続きます。
卵型や丸いもの、長いもの。ヘタの色も緑だったり、紫だったり。大きさにもばらつきがあり、ナスほど品種によって個性が異なる野菜も少ないかもしれません。最も多く流通しているのは千両ナスと呼ばれる長卵形のもの。シーズンの幕開けを飾るのはマルナスです。
ナスの選び方
ナスはみずみずしさが持ち味で、農家にとっては気の抜けない野菜。畑先生は家庭菜園で実際にナスを育てていますが、「水をやりすぎても、やらなすぎても、身が割れたり、スが入る。種が育ちすぎても舌ざわりが悪くなります」とナスの繊細さを実感しているそう。
選ぶポイントは、皮のハリと光沢、ヘタの切り口が太いこと。ナスはみずみずしさが持ち味で、低温と乾燥に弱いので、早めに使い切ることも大切です。
初夏の旬味はマルナス
ボール状の愛嬌あるマルナスは、関西で好まれてきた品種です。大きさも銘柄も様々で、代表格は京都の賀茂なす、奈良の大和マルナス。大阪の鳥飼なすは希少なマルナスとして知られています。
初夏は皮がやわらかいので、半割にして田楽や揚げだしにします。口に入れると果肉のジュワッと感が楽しめる、シンプルな料理法が向きます。
大阪産のマルナスの揚げだし。大ぶりに切り、素揚げして、カツオ昆布だし・薄口醤油・みりん・酒少々の合わせだしをかける。
付合せだけではない、クレソン
独特の苦みとピリッとした味わいがあることから、肉料理の付合せとしておなじみの青菜で、原産地はヨーロッパ。日本には明治時代に伝わったと言われています。主な産地は山梨県ですが、清浄な水辺に自生しているのもよく見かけます。
出回っている大半は栽培ものですが、坂本さん曰く「野生のクレソンは風味が格別。実は繁殖力が強く、水辺に根付きのものを1枝指しておくと、ぶわーっと自生していきますよ」。
野生のクレソンは早春から5月いっぱいくらいが色鮮やかで、やわらか。梅雨に入って花が咲くと軸が硬くなり、歯ざわりが悪くなります。
クレソンの選び方と料理法
茎が曲がっているものは収穫してから時間が経っている可能性があるので注意が必要です。全体に濃い緑色をしていて、青っぽい香りの強いものを選ぶといいでしょう。
サッと茹でてお浸しにしたり、卵とじにするのも美味しいですが、『味菜』で評判なのは「クレソンとウニの炒め物」。ウニの粒がつぶれないよう、さっと炒め合わせると、ウニが“固形のソース”のようになって、磯の風味がクレソンの青さを際立たせます。「肉とも相性がいいので、卵とじに牛肉を加えてもいいですよ」と坂本さん。
畑先生は「肉の脂とは相性がいいので、昔からステーキに添えています。豚しゃぶの相手にクレソン、というのも美味しいものです」と話します。
『味菜』で人気の「クレソンとウニの炒め物」。クレソンはさっと湯がいて。調味はフランスの岩塩とコショウのみ。
初夏の葉物
金時草、小松菜、ホウレン草などは冬のイメージが強い葉物野菜ですが、近年は品種改良も進んでいて、初夏に収穫できるものも増えています。特徴は食感がやわらかいこと。その特性を生かした料理法が向いています。
なにわ伝統野菜の一つである大阪しろなも5月末ごろまでは収穫が可能。お浸しや煮物にすると持ち味を発揮します。
初夏の山菜
北海道から山陰にかけての寒冷地で5月下旬から収穫が始まるネマガリタケは、正確に言うと竹の仲間ではなく、笹の新芽。ヒメタケと呼ぶ地域もあります。筍に比べるとアクが少ないのが特徴ですが、収穫後、処理をせずに置いておくとアクが強くなり筋張ってきます。産地では、収穫したその場で茹でてビン詰めにするようですが、「すぐに皮ごと焼いたものは格別です」と坂本さん。皮を剝いて半割にしてから天ぷらにするのも良いでしょう。
山間部に自生する三ツ葉は、山三ツ葉と呼ばれていて、6月末ごろまで採取することができます。葉が大きく、茎もしっかりしていて、味も香りも水耕栽培の三ツ葉とは別物です。
6月終わり頃にかけて、飛騨地方で採取される南天萩(ナンテンハギ)は、やわらかい新芽の部分を楽しむ山菜。サッと茹でて使うのですが、その際に小豆のような香りがすることから小豆菜(アズキナ)とも呼ばれます。いずれもお浸しや和え物、天ぷらで楽しみます。
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