和食のいろは

“早春の山菜”フキノトウの採り方を学ぶ

雪解けが始まると、フキノトウの季節。いち早く顔を出す“早春の山菜”です。連載「浪速割烹の“動く”料理」でお馴染みの坂本靖彦さんは、まだ寒さの厳しい時季から、山菜を採りに出かけると言います。摘みたてのフキノトウで作る緑鮮やかな「ふき味噌」は、北新地の割烹『さか本』の春の名物でした。今回は、坂本さんが信頼を寄せる大阪の食材卸・小売店『四季彩菜(しきさいさい)みき』店主の三木勝正さんの案内で、大阪北部の能勢(のせ)町へ。フキノトウを初めとした早春の山菜の見つけ方・採り方を学びます。

文:中本由美子 / 撮影:福本 旭

目次


フキノトウは日本全国に自生する

フキノトウは、フキの花茎のこと。数少ない日本原産の山菜で、栽培ものもあるが、本州を中心に日本全国に自生している。

雪が解け始めると出てくるので、早ければ1月末。地方や気候によっても違うが、天然ものが採れる時季は2~5月とされている。

群生するのは、水気の多い場所

フキは成長するのに、適度な水気が必要。平野部から山間地まで、水気の多い場所ならどこにでも生えるため、様々な場所で目にする山菜だ。

といっても、水際に生えるワケではない。土に適度な湿り気がある、というのが重要で、河川敷や用水路、田んぼの周辺、湿気の多い林道の木陰などに群生している。

「僕が採りに行くのは、川原の土手。水田のあぜ道にもよく生えていますね」と坂本さん。
今回、『四季彩菜みき』店主の三木勝正さんの案内で向かったのも、大阪・能勢の川原。あいにくの雨天だったため、人っ子一人いない静かな土手で、フキノトウを探すことになった。

『四季彩菜みき』店主の三木勝正さん、北新地の割烹『さか本』元大将・坂本靖彦さん能勢町を流れる余野川支流の土手で、三木さん(左)と坂本さんの山菜採りが始まる。

目印は、枯れたフキの葉

「コレを見つけたら、近くに必ずフキノトウが生えていますよ!」と坂本さん。その手にあるのは、フキの枯葉。濃い茶色で、開くとハート形になっている。

フキの枯葉

「この枯れた茎を辿ってみて!」。草をかき分け探してみると…大きなフキノトウを発見! よく見ると、蕾が3つも顔を出している。その横にも小さな蕾。群生している!

野生のフキノトウ

フキは地下茎を横に伸ばしながら成長する。そのため、枯葉から伸びる茎を辿れば、フキノトウに出合えるのだ。

開いたら、風味は激減

「フキノトウは蕾でないと! 開いたら値打ち半減ですよ」と、お二人が口を揃える。

黄緑色の開いたフキノトウなら見つけやすいが、お二人が探しているのは、紫色や茶色の苞(ほう)が覆った蕾。三木さん曰く「摘まむと、ぎゅっと中身が詰まっているのが分かるでしょう。この状態で採るのがベストです!」。

坂本さんが蕾を開いて香りを嗅がせてくれた。

フキノトウを開く

目の覚めるような、清々しい香りだ。触ると、水分を含んでいるのが分かる。そのみずみずしさが失われないうちに調理するのが、美味しさのコツだと坂本さんは力説する。

「新鮮なものは、甘みがあって、苦みも少なく、香りが豊かなんですよ!」。

フキノトウは漢字で書くと、蕗の薹。花が開き、茎が伸びると、苦みもえぐ味も強くなる。その食べ頃が過ぎた状態を「薹が立つ」と言う。盛りが過ぎる、年頃が過ぎることを表す慣用句は、ここから来ているのだ。

引きちぎらず、カットして採る

フキは毎年、同じ場所に生えるという。「山菜摘みが好きな人は、群生する場所を把握していますよ」と坂本さん。今回訪れた能勢の土手は、三木さんが毎年訪れる場所だ。

フキノトウをハサミで摘む

フキノトウを見つけたら、ハサミやカマで根元を切り取る。形がきれいに保てるだけでなく、地下茎や根を一緒に引っこ抜くリスクもないのが、その理由だ。
「土中の地下茎を引きちぎってしまうと、翌年、生えてこなくなってしまうので…」と三木さん。

ちなみに、地下茎は毒があるため、食べてはいけないことも覚えておきたい。

山菜は種類によって生える場所が違う

クレソン、タネツケバナ、タンポポ、ヨモギ、萱草(カンゾウ)、ノビル。

この日、摘んだ山菜は、写真の通り。フキノトウ以外に、左から時計回りにクレソン、タネツケバナ、タンポポ、ヨモギ、萱草(カンゾウ)、ノビル。

坂本さん曰く「水辺に生えるのがクレソンや芹。その近くの水気の多い場所には、ノビルやカンゾウ。土手を上がるとフキノトウがあって、さらにその上の道端にタンポポやヨモギが生えてますね」。

生える場所が分かれば、保存の仕方も分かると坂本さんは言う。
「水が必要だから、水辺に生えるワケですよね。だから、クレソンや芹はたっぷり水を含ませたキッチンペーパーで包んで保存するといい。フキノトウは逆に水腐りするので、1枚をほんの少し濡らし、乾いたものを1枚重ね、その上にのせておくと、鮮度が保たれますよ」。

野生のクレソン「水の流れが速いところに生えるクレソンは、太くて葉がとがっています。軸が硬いけど、風味はいいですね。霜が降りると紫色になるクレソンは、柔らかくて辛味が強いんですよ」と三木さん。霜で焼けた後に生えてくる新芽が美味しいそうだ。

野生のカンゾウカンゾウは川辺の土手など水気の多い場所に生える。白い紐状の葉を目印に土をかき分けると、若芽がのぞいている。回りにスコップなどを入れ、土ごとぐっと持ち上げてから、ハサミで根を切って採るとよい。揚げるとホクホクした食感で、ほんのり甘い。

野生のノビル日当たりのよい草地に群生するノビル。細長い緑色の葉を見つけたら、その下を掘ると真ん丸の球根が。ネギ属なので、独特の香味があり、薬味にも向く。火を通すと甘みが出る。

鮮度のいいうちに食べると…

多くの山菜はアクがあるが、とりわけフキノトウはほろ苦さが魅力とあって、摘んだそばからアクが強くなる。切り口が酸素に触れると変色し、えぐ味が出てしまうのだ。

「山菜は鮮度が命、というのが分かるでしょう。摘みたてを天ぷらにしたら、いかに風味がよいか。ぜひ体験してみてください!」。坂本さんの勧めで、近くのキャンプ場へと向かった。

採ってからまだ30分以内。それでも、フキノトウの切り口は真黒だ。そこを切り落とし、「頭の先を軽く切ると剥きやすいですよ」と坂本さん。周りの硬い苞を剥がし、しっかり開いて天ぷら衣を付けたら、170℃の油へ投入。

フキノトウの天ぷら

一口食べて、香りの良さに目を見張る。苦みはほとんど感じない。青々とした豊かな風味が口に広がり、余韻に残るのはほんのりとした甘みだ。

坂本さん曰く「美味しいのは大人の親指大。長さにして3㎝くらいかな」。
小粒のものはまとめて天ぷらにし、熱々のご飯にのせて塩をパラッと振り、「フキノトウの塩天丼」に。この時季の大人気メニューだったそうだ。

フキノトウを使った名作「ふき味噌」

割烹『さか本』の早春の名物といえば、「ふき味噌」。その作り方を昨年、動画で配信すると大反響。鮮やかな緑色が注目を集めた。
➡【動画レシピ付き】香り高く、緑鮮やかな「ふき味噌」の記事はコチラ

『さか本』では、このふき味噌をフキノトウの天ぷらに付けていただく食べ方が大流行。もちろん、そのまま酒の肴にもなるし、田楽味噌にしても美味しい。

フキノトウの味噌汁とふき味噌の焼きおにぎり左/鮮度がよければ、刻んで味噌汁の薬味にするのも手。瞬間的に火が入り、清々しい香りが炸裂する。右/ふき味噌を具にしたおにぎりを炭火で焼いて、さらにふき味噌を塗ると、香りが倍増!

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