関西・地酒の星

笑四季 │ 滋賀・甲賀『笑四季酒造』

“甘みと香り”を高らかに謳い、鮮烈なインパクトを打ち出した「笑四季(えみしき)」。そのキレイな甘口の酒は、確かに唯一無二の存在感を放ってきた。ところが、甘口支持も高まる今のスタンスは、「酒は甘くないと美味くないけど、甘いだけでは駄目」。変化し続ける注目の蔵元の“甘くない”酒造りの哲学とは──。

文:藤田千恵子 / 撮影:東谷幸一
■年表
CEO 竹島充修(あつのり)さん
1979年 新潟県柏崎市生まれ
2001年 東京農業大学醸造学科卒業
2007年 結婚を機に『笑四季酒造』入社
2012年 全量純米仕込みに
2013年 生酛系の酒母を採用
2016年 代表取締役及びCEO就任
左から、貴醸酒「MONSOON(モンスーン)」吟吹雪 生酒1980円、鑑評会出品酒を商品化した「Masterpiece(マスターピース)」2019純米大吟醸2750円。写真上で竹島さんと共に写っているのが、「Sensation(センセーション)」シリーズ。黒・白ラベル各1355円、青・朱・金ラベル各1540円。すべて720㎖(2020年4月取材時の価格)。

キレイごとのないロジカルな酒造り

俊敏、明晰、率直。竹島充修さんは、とかく注目を浴びる人である。酒造りにおいては、
●全量純米仕込み
●すべて生酛(きもと)系酒母を採用
●醸造用乳酸、酵素剤、加工助剤無添加
●全量「佐瀬式」による上槽
●オール無濾過
と、グウの根も出ないほどに本質的。選択した醸造法には、すべて明快な理由がある。

「今どき、純米でなきゃ売れないでしょ。アル添がいいか悪いかなんてことより、きちんと売れるものに力を投入する」。
「生酛系酒母にしたのは、酒質を強くするため。輸出先で酒がメタメタにいかれた状態で売られてたんで」。
「酒造りにはロマンと論理、どっちも必要。けれど、僕は論理で造ってる。ロマンがないから、生酛でも乳酸菌を添加して自分でコントロールした方がいいと思っているんです」。

自ら造る蔵元ならではのトドメの一言も。
「酒造りに悲壮感なんかないですよ。『凍てつく朝…』とかって言うけど。そんな苦しさの押し売りみたいな酒、よう飲むな、と思う」。

甘口の酒の方が美味いと思うから

竹島さんが新潟の酒蔵勤務を経て、『笑四季酒造』に入社したのは2007年。当時は大手蔵の未納税酒が無くなり、業績は低迷していた。先細りと見えた蔵を酒質向上で見事に蘇生。V字回復させたことについての自己分析は。

「わからない。駄目な理由ならいくらでも探せるけど。運が良かったし、人との出会いにも恵まれたし。あと、みんな無理して人に合わせがちだけど、僕は人でなしと言われようが駄目なものは駄目、守るべきものは守ろうと。飲み口がよくて甘口の酒が美味いと思うから造り続けてきた。うちの蔵は今、価値観の近い人たちが集まって歯車も合ってきた。この5年間、離職率はゼロなんですよ」。



甘口の酒再評価の一翼を担った「MONSOON(モンスーン)」は、伝統的手法と最新バイオ技術を融合させた貴醸酒。5色のラベルに色分けされた「Sensation(センセーション)」シリーズは、黒(7号系)、白(14号系)、青(6号系)、ゴールド(10号系)、朱(自社酵母・輸出向け火入れ酒)と、酵母ごとに異なる風味を味わえる特別純米酒。人気アイテムのコンセプトはきっちりと設計されている。

「経営者として当たり前のことはやってます。努力した結果は報われるという土壌ではないから。必要なのは、選球眼。酒は嗜好品ですから、見切りをつけられるのも早い。味や雰囲気が変わった、値段が上がった。そういうことに買ってくれる人たちは敏感なんで」。

酒にビックリな名前をつける理由

竹島さんの手持ちの球は、定番アイテムという直球の他、「別れの予感」「Wの悲劇」「今夜、都内、某所」…と変化球も多彩だ。「今度は一体何が?」と毎回驚かされる番外編の酒は、話題を呼んでは完売となっていく。

「理論でやる酒造りの裏返しで、ヘンテコなラベルを作ってるっていうか。『Wの悲劇』は、『Sensation』の黒ラベルにするつもりだったけど、これは黒の味じゃないな、と」。

なんと、そうなんですか!
「『Sensation』は、再現性を狙ってますが、真面目に造っていても枠からはみ出すものが出てくる。そこは不可抗力。でも、完成度は高かったし凄まじくいい酒になった、けれど黒ラベルの枠にははまらない、じゃ別の名前を付けるか、ということに」。

「別れの予感」は、ある酵母とのお別れ、という意味だったそうですね?
「そう。だから、テレサ・テンを聴かせながら造った、と」。

卓越した発想の持ち主であり、常に変貌の連続。だからこそ竹島さんにはこんな悩みも。
「僕の昔の酒を、熟成したとかで出してこられるのが一番辛いんですよ…」。
別れたと思ってたのに、思わぬ再会!?
「今の僕の酒とはまったく違うからやめて、って思いますね。酒造りは毎年同じことをしているわけではなくて、常にアップデートしている。だから、酒は消えものであり続けてほしいんですよ。初回ロットで全部はけたら、もうほんとにお別れにしてって」。

…いや別れがたいでしょう。だって面白過ぎるから。酒も、造り手も。

麹室の中で、竹島さんが製麹(せいぎく)の作業中。麹造りは4kgずつの小箱(ばんじゅう)で行っている。
上槽(搾り)の様子。発酵を終え、今が搾る時期と見極められたタンク内の醪(もろみ)を酒袋に詰めていく。
酒袋の中の醪。一つ一つ手作業で進めていく。
上槽は「佐瀬式」で。1時間以上かけて槽(ふね)に酒袋を並べ、積んでいく。この方法だと初期の段階では、酒袋自体の重みだけで新酒が搾られる。
初めが荒走(あらばし)り、続いて中汲(なかぐ)み、最終段階が責(せ)めと、通常は3段階に分けて搾るが、『笑四季酒造』では「責めの苦みも必要なんで」すべてブレンド。
積み上げられた酒袋から滴り落ちる新酒。最初は酒袋だけの重みで搾り、以降は上から圧力をかけ、約3日かけて搾り切る。

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