村田吉弘さんの「京のひとり言」

第二回:京料理たるもの

料理だけでなく、器や箸、茶碗に湯呑み…。京料理の世界では、長い歴史の中でさまざまなものの適切とされるサイズや量がそれとなく決まり、それが美しさ、心地よさに繋がってきました。村田さんはそれを「寸法」と呼び、五感を刺激するキーワード「パフューム」「テクスチャー」「ワオ!」と共に重要と唱えます。今回は、京料理において大切とされてきたものをお教えいただきます。


村田吉弘(むらたよしひろ):1951年生まれ。『菊乃井』三代目亭主。現在、店舗は『菊乃井 本店』『露庵』『赤坂 菊乃井』『無碍山房』を展開。そのほか、百貨店やオンラインショップでも商品を販売する。2012年、現代の名工として厚生労働大臣表彰、13年、京都府文化賞功労賞受賞。17年、文化庁長官表彰、18年、文化功労者に選定される。

聞き書き:西村晶子 / イラスト:得地直美

寸法の料理

“京料理って何?”ってよく聞かれるけど、僕はまず「寸法」やて答えてる。日本料理全般にも言えることやけど、京料理ほど寸法がきちんと決まっている料理はないと思うよ。誰が教えたわけでも、本に書かれているわけでもないけど、なんとはなしに適切な量とサイズがあるねんなあ。

僕がよく言うてることやけど、日本の文化はファジーなようでいて、寸法がきちんと決まってる。それは基準となるものがあって割り出された、ということなんやね。料理も同じで、基準は口中体積。縦長でも横長でも、口に納まるサイズでなければならない。大きすぎると口の中がいっぱいになって、味がわからんようになってしまうんや。
適切な量は15g。造りやったら、歯ごたえのある鯛は12g、マグロは柔らかいので15g。それを、あの人ええお客さんやし、サービスしとこと思て大きなマグロの切り身を出すとするでしょ。そしたら、口の中でモソモソして美味しくないなあ、てなる。そやから寸法はとても大事。そのことを長年取り入れてきたのが京料理やね。

料理だけやのうて、器や箸にも寸法があって、昔の陶器の職人はそのサイズに則って作ってた。箸や茶碗、湯呑は男女でサイズが変わるしね。最近違いがなくなってきたけど、こんなに寸法にこだわってきた国、世界中探してもどこにもないと思うよ。

パフュームとテクスチャー

寸法のほかに、京料理たるものは?って聞かれたら、僕は「パフューム」「テクスチャー」「ワオ!」て言うてる。

パフュームは料理のアクセントになる香りのこと。日本料理の献立を考える時、メインの食材、脇になるもの、最後に香りをどうするかを必ず考える。先付にショウガ使って、造りにちょっと柑橘添えて、煮物椀に青柚子飾って……てな風に、日本料理にはいろいろな香りが付く。それが、どの料理も木の芽が添えてあったら、同じ香りばっかりで、この料理人何も考えてはらへんなぁってことになる。日本には一年を通じて様々な香りのものがあって、柑橘一つとっても種類は豊富。柚子やカボス、橙(ダイダイ)、スダチ、皮を使ったり、果汁を搾ったり。柚子なんか青柚子、花柚子、黄柚子と季節で変わるしなあ。京料理はこれを巧いこと使って嗅覚を刺激し、季節を表現したり、味わいを深めてる。

テクスチャーは、料理の場合は食感のことやね。日本人は食感にこだわる民族でね。パリパリ、コリコリ、サクサク……いくらでも食感を表す言葉がある。そやけどフランス語に「もっちり」なんて言葉あらへん(笑)。日本料理は食感の組合せも大事で、真丈やったら柔らかくふんわりしているけど、それだけやと物足りないからエビやカニ身など違う食感を合わせる。テクスチャーの変化が新たな味覚を生むんやね。
パフュームもテクスチャーも日本料理の特徴で、京料理の基本としてあるねんな。素材を活かす料理やから、ほのかな香りや食感の違いが必要になったんやと思うよ。

「ワオ!」な盛付け

「ワオ!」というのは驚きや感動のことで、それを誘うのは美しい盛付けやね。と言っても華々しければいいというものではなくて、やはりバランスが大事。煮物椀やったら150㎖の汁に対して、椀種は50g。ここに青みと香りのものを添えたら、四寸二分のお椀にぴったりと合う。

以前、ある店で食事をしてたら、煮物椀で白味噌汁が出てきたことがあって。一緒にいた人が注意したん。煮物椀は煮物椀、味噌汁は汁椀、味噌もくそも一緒にしたらアカンてね。細かいことやけど、こういうことを伝承してきたんが京料理なんやね。
僕は見慣れていて感覚的にわかるから、見た目でどのくらいの量か、中に入ってるもんの温度がどのくらいかの想像がつく。それが思いのほか多かったり、熱かったりすると、すごい違和感になるねんなあ。

それは座敷の設えも同じ。畳は長さが1m93㎝で幅はその半分。これを基準に座敷のすべてが決まっていて、本床は一畳分で、そこに掛かる軸の長さや幅もおのずと決まってくる。花台、花瓶、花の量も決まってきて、そのバランスがきちんととれてると、視覚に訴え、ええ軸掛かってるなあ、ええ花やなあ、てなる。そういう座敷に通されたら、思わず「ワオ!」やね。

「寸法」「テクスチャー」「パフューム」「ワオ!」。どれも五感を刺激するもんやね。その使い方が実に巧みで、よくできているのが京料理なんやと思うよ。

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